SSブログ

ささやかな幸せ

洗濯カゴに入っている夫のズボンのポケットから、小銭が出てきた。
私はその120円を、貯金箱に入れた。洗濯代としてもらっておく。

「あら、ちょうど千円貯まったわ。じゃあ今日は、ちょっといいおかずにしよう」
これが私のささやかな楽しみだ。
小銭を出して財布に入れようとしたら、どこからか声がする。

「本当にいいの? おかず一品増やしたくらいで、せいぜい刺身くらいだろ。だったらさ、もっといいことに使いなよ」
貯金箱がしゃべってる。
「いいことって何?」
「その千円を元手に馬券を買うのさ。千円が一万円に化けるかもしれないぞ」
「でも私、競馬なんかやったことないわ」
「平気平気、馬券はネットで買えるよ。手始めにやってみな。どうせあぶく銭なんだから」

それもそうかと思って、私はパソコンを開いた。
「あら、意外と簡単に買えるのね」
私は、千円を馬券に替えた。
なんとそれが大当たり。千円が、あっというまに一万円になった。
「すごいわ。私って才能ある? じゃあ、一万円を10万円に増やしてみようかしら」

こうして私は、ギャンブルにのめり込んでいった。
わらしべ長者は一本のわらでお金持ちになったけど、私は逆。
ズボンの小銭で、すべてを失った。
夫の給料を使い果たし、貯金を使い果たし、消費者金融にまで手を出した。
離婚されて、実家からも見放され、落ちるところまで落ちた。

そもそものきっかけは貯金箱だ。
この貯金箱が私をそそのかした。
私は貯金箱を、思い切り床に叩きつけた。
粉々になったかけらの中から、コロコロと1円玉が転がった。
この1円で、いったい何が買えるだろう。

そう。本当は分かっていた。
あれは私の心の声。
もともと、ささやかな幸せなんて望んでいない。
好きな言葉は一攫千金。
安定した公務員より、起業したばかりの夫を選んだ。
地道にコツコツより、一発当たって大儲けの方が好き。

でも、きっと私は間違えた。
ささやかな幸せは、とても大切なことだった。
そう思いながら、転がった1円玉を拾った。
1円か……。
さっき見た、大通りの看板を思い出した

『1円パチンコ』

「1円が、100円に増えるかもね」
貯金箱のかけらが、またしゃべった。

nice!(10)  コメント(8) 

表彰式に行ってきました

2月18日、新美南吉童話賞の授賞式に行ってきました。
場所は、愛知県の半田市です。

表彰式は午後からですが、新幹線が止まったらどうしようとか、いろいろ考えて前日から名古屋に泊まることにしました。
娘と行くはずだったのですが、娘が急遽行けなくなり、夫と行くことになりました。
心配なのは義母のことです。
入院していて、いつ急変していてもおかしくない状態。
何とか、18日までは頑張ってほしい。本当にそればかり祈っていました。

そして祈りが通じ、万全の態勢で行くことができました。
表彰式は本当に素晴らしかった。
だけど私、普段は緊張しないのに、この日はドキドキしっぱなし。
スピーチも震えて、何を言ったか覚えてないくらいです。
立派な賞状を頂いて、私、本当に幸せでした^^

そのあと、審査員の先生と個別にお話しできる時間がありました。
すごくありがたいです。
私は山本悦子先生とお話ししました。
すごく素敵な先生でした。
去年大きな賞を二つ頂いて、まわりから「これからどうするの?」と訊かれていました。
「こんな大きな賞をとったら、もう公募はいいでしょう」と。
そう言われても、いったいどうしたらいいのか分からずにいました。
悦子先生にアドバイスをいただいて、少し方向性が見えて来たような気がしました。
これからも頑張ろう!

表彰式の前に、新美南吉記念館に行ってきました。
駅を降りるとホームにはキツネの絵が。
町のあちこちにキツネがいて、本当に南吉さんの町だなあと思いました。

Point Blur_20230220_210523.jpg

PXL_20230218_005907973.jpg
南吉さん、本を読んでいます。

Point Blur_20230219_202556.jpg
てぶくろを買いに来たキツネが、お店を覗いています。

そして時別展示として、ごんぎつねの人形劇アニメーションを上映していました。
これがすごくよかった!
人形なのに表情が豊かで、すごくリアル。
知っている話なのに、やっぱり泣けた。


本当に素晴らしい1日でした。
半田市は、忘れられない場所になりました。
絶対また行きたいです。

nice!(12)  コメント(10) 

苦くて泣いた [男と女ストーリー]

今日はバレンタインデー。
甘いものが苦手なアキラさんのために、腕を振るってご馳走を作った。

「ただいま」
「おかえり。早かったね」
「うん。1本早い電車に乗れたんだ」
「よかった。じゃあご飯にしよう」
「うん。あれ、すごいご馳走だね。何かあったっけ?」
「バレンタインデーだから、一応」
「ああ、そうか。そういう行事、結婚すると忘れるもんだな」

アキラさんと向かい合って夕飯を食べる。
このひと時が、一番好き。
じっくり煮込んだビーフシチュー。赤ワインとチーズもある。

「ねえアキラさん、誰かからチョコもらった?」
「もらわないよ。バレンタインデーだってことも忘れてたんだから。それに、今どき職場で義理チョコもないだろ」
「結婚前はどうだった? たくさんもらった?」
「そんなにモテないよ、おれ」
「またまた。白状しなさいよ。人生でもらった本命チョコの数、教えてよ」
「やめてくれよ。刑事の尋問みたいだよ」
「あはは。ごめん。でもさ、甘いもの苦手だから、もらっても困るでしょ」
「まあ、そうだね」
「そう思って私、チョコ買ってないよ」
「いいよ。期待してないし」
楽しい。おしゃべりしながらのディナー、楽しい。

すごく楽しかったのに、玄関のドアが開いた。いちばんのお邪魔虫が帰って来た。
「ただいまー。なに、美味しそうな匂い」
姉だ。
「お姉ちゃん、夜勤じゃないの?」
「代わってもらったの。ここのところ夜勤多かったから」
姉は看護師をしている。姉の夜勤日には、こっそりハートマークをつけている。
アキラさんと二人になれるから。
「ビーフシチュー美味しそう。あたしの分ある?」
「あるけど」
「料理上手な妹がいて助かるわ。ねっ、アキラ」
「そうだね。おかげでおれ、太ったかも」
「じゃあ、もっと太らせてあげるね」
姉がそう言って、鞄からチョコレートを取り出した。
「はい、本命チョコ」
「ありがとう」
アキラさんは、嬉しそうに受け取った。
甘いもの苦手なのに。いかにも安っぽいチョコなのに。

アキラさんは、姉のダンナ。つまり私の義兄だ。
姉妹で暮らすこの家に、転がり込んできた図々しいヤツ。
私の料理を残さず食べるヤツ。
私を本当の妹だと思っている鈍いヤツ。

「じゃあ、あとは夫婦水入らずで、ごゆっくり」
私は部屋に引き上げた。分かってる。邪魔なのは私の方だって。
本当は買ってあったカカオ90%のビターチョコ。
包みを開けて自分で食べた。

あまりに苦くて涙が出た。

nice!(12)  コメント(10) 

3年越しの結婚式 [コメディー]

コロナのせいで結婚式が延期になって、早2年。
終息したら絶対に式を挙げようと約束して、籍だけ入れた。

だけどコロナは一向に収まらない。
彼はすっかり諦めモードだ。
「もういいんじゃない」とか言い出した。
生活が始まってしまったら、式だの披露宴だの、どうでもいいみたい。

「そりゃあ、君の気持はわかるよ。式場見に行って、ドレス選んで、エステに通ってダイエットもしたんだろう。最高の笑顔で、たくさんの人に祝福されたいのは分かるけどさ」
「全然分かってない。あなた全然分かってないわよ」
私は手帳を取り出して、広げて見せた。
「なに、これ?」

「私が今までに出したご祝儀よ。友達、職場の同僚、先輩、後輩、いとこ、はとこ。隣の数字は出した金額。これだけご祝儀を包んできたのに、自分のときにもらえないなんて、悔しくて夜も眠れないじゃないの」
「えええ、君がどうしても式を挙げたい理由って、それ?」
「そうよ。ああ、考えただけでムカつく。ああ、マジでムカつく。胸がムカムカする。気持ち悪い。吐きそう……」

……妊娠した。5週目だって。
彼はすごく喜んだ。
もちろん私も嬉しいけれど、これで結婚式の希望が途絶えた。

彼が私のお腹をさすりながら、満面の笑みで言った。
「よかったじゃないか。これで元が取れるね」
「どうして?」
「出産祝いがもらえるじゃないか。それに、東京都からもお金がもらえるんだよ。たしか10万円」
「えっ、そんなに?」
「うん。だからさ、結婚式にこだわらないで、ふたりで子育て頑張ろうね」
「わかった。じゃあ結婚式は、この子が生まれてからにしましょう。結婚祝いと出産祝い、いっしょにもらっちゃおう。あと、子育て支援金もね」

「が、がめつい。。。」

***
今月、親戚の結婚式に出席します。
コロナで延び延びになっていた結婚式は、可愛い子連れ結婚式になります。
でも、このお話のようながめつい子じゃありません。
いい子です^^ 念のため(笑)

nice!(11)  コメント(8) 

絵本のSOBA

家の光「絵本のSOBA」2月号に、私のインタビューを載せて頂きました。

https://www.ienohikari-koubo.com/picture-books/

絵本のSOBAは、児童文学作家の正岡慧子さんが運営するサイトです。
楽しい絵本を紹介しています。
私もお気に入り絵本を紹介させていただきました。

プロでもないのにインタビューなんて、すごく恥ずかしいのですが、よかったら覗いてみてください。




nice!(11)  コメント(10)