ママの第二ボタン [男と女ストーリー]
ブラウスのボタンが取れちゃったから、似たようなボタンを探そうと思って、ママの裁縫箱を開けた。
ママの裁縫箱には、とにかくたくさんのボタンが入っている。
その中に、男子学生の制服のボタンがあった。
「ママ、これって、第二ボタンってやつ? 卒業式で彼氏からもらうやつ?」
「あー、そうだね。制服の第二ボタンだね」
「誰にもらったの? JKだったころの彼氏?」
「憶えてないわね」
「うそ。今でも大切に取ってあるのに、憶えてないの?」
「憶えてないわよ。そんな昔の話」
ママの初恋の人って、全然想像できないんだけど。
パパとは、30歳を過ぎてからお見合い結婚したって聞いた。
ママは年頃になっても全然恋人が出来なくて、おばあちゃんの方が焦って相手を探したそうだ。
当たり前だけど、ママにもちゃんと初恋があったんだよね。どんな人だろう。
ママは面食いじゃないよね。だってパパを選んだんだし。あっ、パパを選んだのはおばあちゃんか。
翌日、おばあちゃんの家に行って、ママの卒業アルバムを見せてもらった。
ママはメガネに三つ編みの、いかにも優等生って感じだ。
「本当に真面目な子でね、彼氏なんていなかったと思うよ。あたしが知る限り、第二ボタンをもらうような男の子はいなかったわね」
「そうか。ねえ、おばあちゃん。パパとママはお見合い結婚なんでしょう」
「そうよ。3回目のお見合いで決まったの。それまでは全然乗り気じゃなかったのに、あんたのパパとはビックリするほど早く話が進んだのよ」
「好みのタイプだったのかな?」
「同じ年だし、話が合ったんでしょ」
「今も仲良しだよ。おばあちゃん、すごいね。私もお見合いしようかな」
「何言ってるの。あんたはまだ高校生でしょ」
結局ママの初恋に関しては、何もわからなかった。
夜、帰って来たパパに聞いた。
「ねえパパ、高校の卒業式の日、第二ボタン誰かにあげた?」
「いや、あげてないよ。パパが卒業したのは男子校だしな。あっ、でも、第二ボタン取られたことあるな」
「取られた? 男子校で? それってBL?」
「違う、違う、パパは家の都合で一度転校してるんだ。前の高校が共学で、転校する日にボタンを取られた。話したこともない女子がいきなりハサミを持って近づいてきて、パパの第二ボタンを取っていった。ビックリしたよ。刺されるかと思った」
「あはは。第二ボタン強盗だね。その女の子、パパのことが好きだったんだね。意外だな~。ちっともイケメンじゃないのに」
「パパだって昔はイケメンだったぞ」
「えー、マジで。ねえママ、どう思う?」
振り向くと、キッチンバサミを持ったママが、真っ赤な顔をしていた。
「ママ。ハサミ怖いよ」
「あっ、ごめん。海苔を切っていたら、話が聞こえて……」
パパがポカンと口を開けて、ハサミを持ったママを見ている。
「あのときと同じだ」
まさかの展開! 第二ボタン強盗はママだった。
あのボタンは、パパのボタンだった。
憶えてないなんて嘘。言えるわけないよね、無理やり取ったボタンだなんて。
あのボタンのおかげか、おばあちゃんのおかげか、ママはパパに再会して結婚を決めて、そして私が生まれたんだ。
ひとつのボタンにも、物語があるなあ。
もうすぐ大好きな先輩の卒業式。
ネクタイもらおうと思ったけど、やっぱりボタンにしようかな。
ママの裁縫箱には、とにかくたくさんのボタンが入っている。
その中に、男子学生の制服のボタンがあった。
「ママ、これって、第二ボタンってやつ? 卒業式で彼氏からもらうやつ?」
「あー、そうだね。制服の第二ボタンだね」
「誰にもらったの? JKだったころの彼氏?」
「憶えてないわね」
「うそ。今でも大切に取ってあるのに、憶えてないの?」
「憶えてないわよ。そんな昔の話」
ママの初恋の人って、全然想像できないんだけど。
パパとは、30歳を過ぎてからお見合い結婚したって聞いた。
ママは年頃になっても全然恋人が出来なくて、おばあちゃんの方が焦って相手を探したそうだ。
当たり前だけど、ママにもちゃんと初恋があったんだよね。どんな人だろう。
ママは面食いじゃないよね。だってパパを選んだんだし。あっ、パパを選んだのはおばあちゃんか。
翌日、おばあちゃんの家に行って、ママの卒業アルバムを見せてもらった。
ママはメガネに三つ編みの、いかにも優等生って感じだ。
「本当に真面目な子でね、彼氏なんていなかったと思うよ。あたしが知る限り、第二ボタンをもらうような男の子はいなかったわね」
「そうか。ねえ、おばあちゃん。パパとママはお見合い結婚なんでしょう」
「そうよ。3回目のお見合いで決まったの。それまでは全然乗り気じゃなかったのに、あんたのパパとはビックリするほど早く話が進んだのよ」
「好みのタイプだったのかな?」
「同じ年だし、話が合ったんでしょ」
「今も仲良しだよ。おばあちゃん、すごいね。私もお見合いしようかな」
「何言ってるの。あんたはまだ高校生でしょ」
結局ママの初恋に関しては、何もわからなかった。
夜、帰って来たパパに聞いた。
「ねえパパ、高校の卒業式の日、第二ボタン誰かにあげた?」
「いや、あげてないよ。パパが卒業したのは男子校だしな。あっ、でも、第二ボタン取られたことあるな」
「取られた? 男子校で? それってBL?」
「違う、違う、パパは家の都合で一度転校してるんだ。前の高校が共学で、転校する日にボタンを取られた。話したこともない女子がいきなりハサミを持って近づいてきて、パパの第二ボタンを取っていった。ビックリしたよ。刺されるかと思った」
「あはは。第二ボタン強盗だね。その女の子、パパのことが好きだったんだね。意外だな~。ちっともイケメンじゃないのに」
「パパだって昔はイケメンだったぞ」
「えー、マジで。ねえママ、どう思う?」
振り向くと、キッチンバサミを持ったママが、真っ赤な顔をしていた。
「ママ。ハサミ怖いよ」
「あっ、ごめん。海苔を切っていたら、話が聞こえて……」
パパがポカンと口を開けて、ハサミを持ったママを見ている。
「あのときと同じだ」
まさかの展開! 第二ボタン強盗はママだった。
あのボタンは、パパのボタンだった。
憶えてないなんて嘘。言えるわけないよね、無理やり取ったボタンだなんて。
あのボタンのおかげか、おばあちゃんのおかげか、ママはパパに再会して結婚を決めて、そして私が生まれたんだ。
ひとつのボタンにも、物語があるなあ。
もうすぐ大好きな先輩の卒業式。
ネクタイもらおうと思ったけど、やっぱりボタンにしようかな。
2024-03-04 21:13
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コメント(10)
リンさんさん おはようございます。
いい展開のストーリーに読み行ってしまいました。素敵な話です。
by SORI (2024-03-05 06:05)
初恋の人と
お見合いで巡り会う・・・
お母様はビックリされて、
そして、天にも昇る気持ちだったでしょうね^^
運命ですね^^
私もカッコいい上級生から、
第2ボタンもらった事あります^^
それから、美人の上級生から、
生徒手帳をもらった事も^^
by 青山実花 (2024-03-05 08:32)
そうではないかと思いましたが。
やっぱりそうでした。
でも、最後まで読まされました。
星新一やフレドリック・ブラウンの影響か、ショートショートというと、意外なオチを期待して読みますが、こいういう、オチが判るショートショートも書き方がうまければ、楽しく読めるのです。
この作品はりんさんの文章力のたまものです。さすがです。
by 雫石鉄也 (2024-03-05 13:27)
ともあれ、ママ、好きな人と結婚できて良かったでやすなあ。
それから、近日、お逢いする折には、3人で思いっきり楽しみやしょうでやす!
by ぼんぼちぼちぼち (2024-03-05 14:57)
<SORIさん>
ありがとうございます。
卒業シーズンなので、第二ボタンにまつわる物語を書いてみました。
みなさんに学生時代を思い出してもらえたら嬉しいです^^
by リンさん (2024-03-14 14:29)
<青山実花さん>
ありがとうございます。
実花さん、モテモテだったんですね。
美人の上級生からもらった生徒手帳がめっちゃ気になります^^
by リンさん (2024-03-14 14:31)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
そうですね。
オチはそれしかないだろう、と思いながら書きました。
最初、こっそり盗むことにしようと思いましたが、ハサミの方がインパクトがあって面白いので変えました^^
by リンさん (2024-03-14 14:33)
<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
お見合いで運命の人と出会うなんて奇跡ですね^^
お逢いできるの、すごく楽しみ♪
よろしくお願いします。
by リンさん (2024-03-14 14:35)
ママを見習って、ハサミを持ってネクタイを強奪……は、やめようね。
ところで果たして、ママは「覚えていない」とウソをついたけど、パパは覚えていなかったのか……?
by しろまめ (2024-03-22 09:08)
<しろまめさん>
ありがとうございます。
パパは、その出来事は強烈に憶えていたけど、顔は憶えていなかったんでしょうね。
ママは大人になってきれいになったのかも^^
by リンさん (2024-03-25 11:19)