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夜鳴き猫

午前二時に、聞こえてくるニャルメラの音。
ああ、今日も来た。夜鳴き猫の屋台。
そうなの、この時間になると私、無性に猫を撫でたくなるの。
パジャマのまま、サンダルを突っかけて外に出た。
「おじさん、夜鳴き猫一丁」
「へい、毎度」
おじさんが、屋台の下から黒い猫を取り出して、私の手に乗せる。
黒い猫は、私の胸に顔をうずめて「にゃー」と鳴く。
ああ、なんて幸せ。なんて癒されるひと時。

ニャルメラを聞いた客が、次々とやってくる。
「おじさん、私も夜鳴き猫」
「私もお願い」
私と同じように、一人暮らしでペット禁止のアパートで暮らす女たちが、夜鳴き猫を求めてやって来る。
みんな猫を胸に抱き、その体を優しく撫でる。
猫は気持ちよさそうに甘えてくる。
ああ、なんて可愛い。なんて愛おしい。

酔っ払いの男がやって来た。
「おやじ、ラーメン一丁」
ラーメンの屋台と勘違いしている。女たちの冷たい視線。
「お客さん、うちは夜鳴きそばじゃなくて、夜鳴き猫を提供しているんですよ」
「猫だと? ほう、おもしれえ。じゃあ、その夜鳴き猫一丁」
「へい、毎度」
おじさんが酔っ払いに猫を渡すと、猫はいきなり「ふぎゃー」と鳴き、酔っ払いの顔を引っ掻いた。
「いててて。何するんだ、この猫!」
酔っ払いは猫をぶん投げて、ヒイヒイ言いながら帰った。
「猫は酔っ払いが嫌いなのね」
「男が嫌いなのかしら」
「ふふ、私たちにはこんなに懐いて可愛いのにね」

私たちは、猫との時間を存分に楽しんで、それぞれのアパートに帰る。
「バイバイ、また明日」
「猫ちゃんのおかげで、明日も頑張れるわ」
そして私は、ぐっすり眠る。
猫のぬくもりと、可愛い表情を思い出しながら眠る。
ああ、明日もまた、夜鳴き猫を撫でに行こう。

***
朝が来た。
夜鳴き猫屋は、仕事を終えて空き地に行くと「ごくろうさん」と、手をパンと叩いた。
屋台の下にいた猫たちがのっそり出て来た。
猫たちは、朝日に照らされて、徐々に大きくなる。
そしてその姿は、みすぼらしい服を着た男たちに変わった。
「今夜の報酬だよ」
男たちは、僅かな食べ物を受け取って公園に帰っていく。
男たちはホームレスだ。

夜鳴き猫屋は、ホームレスたちを猫に変え、夜鳴き猫屋を営んでいた。
ホームレスたちは僅かな食べ物でも文句を言わず、喜んで男に従う。
なぜなら無条件で女の胸に抱かれ、優しく撫でてもらえるからだ。

****
ああ、ニャルメラが聞こえる。
今夜はどの子を撫でようかしら。




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