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おとぎ話(笑)34 [名作パロディー]

<泣いた赤鬼>

青鬼のおかげで人間と仲良くなれた赤鬼の元に、村役場の役人がやってきました。
「赤鬼さん、あなたを人間として住民登録することになりました」
「本当ですか」
「はい。これ、住民票です」
「ありがとうございます」
「これ、住民税と固定資産税の納付書です」
「これ、国民年金の納付書です」
「NHKの視聴料お願いします」

「あっ、赤鬼さん、泣いてる」
「人間になれてうれしいのかな?」
……違うと思う。


<シンデレラ>

お城の舞踏会に行きたいシンデレラの前に、魔法使いが現れました。
ボロボロの服を素敵なドレスに
カボチャを馬車に
ネズミを馬に変えてくれました。
「さあシンデレラ、舞踏会にお行きなさい。ただし午前0時に魔法が解けるから、それまでに帰るのよ」
「はい、わかりました。ところで魔法使いさん、ひとつだけ質問があります」
「何だい?」
「このカボチャ、魔法が解けたら食べられます? スープにする予定なんだけど」
「生活感ありすぎ。。。」


<笠じぞう>

「おじいさん、今年もお地蔵さまに笠かぶせたんですよね」
「ああ、かぶしてきたぞ」
「じゃあどうしてお礼の品を持ってこないんです? もう正月ですよ」
「そうだな。当てにしていたのにな」
「おじいさん、ちゃんと去年と同じように笠かぶせましたよね? 最後のお地蔵さまには、自分の手ぬぐいを取ってかぶせましたよね」
「いや、全部のお地蔵さまに笠をかぶせた。人数分用意したんだ」
「ああ、それだ!」
「それって?」
「自分の手ぬぐいを取ってまでかぶせることに意味があるんですよ。笠をかぶせるだけじゃ弱いんですよ、エピソードが!」
「エ、エピソード? そういうもの?」
「そういうものですよ、世の中というのは。いいですか、次はちゃんと自分の手ぬぐいを外してかぶせるんですよ。分かりましたね。ちゃんとやってくださいよ。生活かかってるんだから」
「わかった」

……忘れてただけなんだけどなあ(地蔵)


<不思議の国のアリス>
あら、時計を持ったウサギさんが走っているわ。
「ウサギさん、そんなに急いでどこへ行くの?」
「うさぎ年がもうすぐ終わるんだよ」
「まあ、大変」
「あんたもブログなんか書いてないで、大掃除でもしたら」
ギク!!

*****
あっという間に30日。今年もあと少しですね。
大掃除の合間を縫って書いております(笑)
みなさま、今年も読んで下さってありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください。

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饅頭屋のクリスマス

小さな駅前の商店街。
昔は12月になると、街路樹にキラキラのイルミネーションを飾ったものだ。
駅からまっすぐ光のトンネルを歩くみたいだった。
あの頃は賑やかだった。
ケーキを売る声、おもちゃ屋の前で立ち止まる子ども、揚げ物や総菜のいい匂い。
今じゃすっかり寂れて、3分の2はシャッターを閉じたままだ。

私は先祖代々続く饅頭屋を、細々と続けている。
嫁に来た頃は忙しかったけど、今は常連客しか来ない。
閉店は午後7時。また売れ残っちゃった。
夫はさっさと奥に引っ込んで、晩酌を始めている。
「やれやれ」と片付けをしていると、ひとりの男が飛び込んで来た。
「もう終わりですか?」
「はい、この通り、もう閉店時間です」
「饅頭一個だけでも売ってくれませんか。朝から何も食べてなくて、もうフラフラで倒れそうなんです」
男は大げさに腹を押さえた。
「それなら饅頭なんかより、ご飯を食べた方がいいですよ。この先に、ラーメン屋がありますよ」
「もう一歩も歩けません」
あまりに情けない声を出すので、私は仕方なく、奥から売れ残りの饅頭をふたつ持ってきて男に渡した。
男はそれを、のどに詰まらせるような勢いで食べた。
温かいお茶を淹れてあげると、ようやく落ち着いたように「ふう」と息を吐いた。
「よっぽどお腹が空いていたんですね」
「ええ、きのうの夜から働き通しで」
「あらまあ、ご苦労様。どんなお仕事?」
「サンタクロースです」
やだ。つまらない冗談。こういうのって、何かツッコんだ方がいいのかしら?

「ご馳走様でした。おいくらですか?」
「お金はいいですよ。残り物だから」
「そうはいきません。そうだ、じゃあ、プレゼントを差し上げましょう。何がいいですか?」
「いえいえ、初対面のお客様にプレゼントをいただくわけにはいきません」
「いいんですよ。言ったでしょう、僕はサンタクロースです」
ああ、ヤバい人だ。適当なこと言って追い返そう。

「じゃあ、イルミネーションがほしいわ」
「イルミネーション?」
「そう、この商店街をキラキラにしてほしいわ」
「わかりました。それでは奥さん、メリークリスマス」

男は店を出ていった。変わり者だな。頭がおかしいのかしら。
シャッターを閉めようと外に出た私は、思わず息をのんだ。
キラキラだ。商店街の端から端までキラキラだ。
街路樹が、シャンパンカラーのイルミネーションに染まっている。
「あなた、ちょっと来て」
「なに?」と面倒くさそうに出てきた夫が目を見張った。
「何だこれ。すごいな」
コンビニにたむろしていた学生や、駅から出て来た人たちが集まって来た。
「すごい」「きれい」「SNSにのせよう」「友達呼ぼう」
商店街が、久しぶりに賑わい始めた。

「あなた、酒飲んでる場合じゃないわ」
「えっ?」
「饅頭作って売りましょう。正月に配る予定の甘酒も売ろう。今日から閉店は21時よ」

サンタクロースって、本当にいるのね。
来年は、饅頭3個取っておくわ。

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やさしいトナカイさん

「ああ、今年も無事にプレゼントを配り終えたな、トナカイくん」
「はい、サンタさん、お疲れさまでした」
「上がって一杯やっていきなさい」
「でも、ソリがありますから。飲酒運転になってしまいます」
「泊って行けばいいだろう。そうだ、フカフカの最上級の藁を買ったんだ。君がぐっすり眠れるようにな」
「それはありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「おおい、今帰ったぞ。トナカイくんに酒を出してくれ。去年誰かにもらった高級なウイスキーがあっただろう」
「すみません、奥さん」
「いいんですよ。そろそろ帰るころだと思って、用意しておきました」
「おお、これは旨そうなローストビーフだ」
「クリスマスですから、奮発しました。では、ごゆっくりどうぞ」

「トナカイくん、君とも長い付き合いになったな」
「そうですね。サンタさんと過ごすクリスマスが当たり前になってますね」
「しかし君、少しスピードが落ちたんじゃないか?」
「面目ない。明日からトレーニングに励みます」
「いいよ、しばらくゆっくりしなさい」
「奥さんの料理はどれも絶品ですね」
「そうだろう。ところで君もそろそろ身を固めたらどうだね。そうだ。今度いいメスのトナカイを探してあげよう」
「お気遣いなく」
「家族が増えるのはいいぞ。生活に張りが出る」
「はあ、そうですね。さあ、サンタさん、もう一杯お作りしましょう」

「あっ、しまった。忘れてた」
「どうしたんです?」
「世界中の子どもたちにプレゼントを配って、自分の子どものプレゼントを忘れてた」
「それはいけませんね」
「サンタクロースの子どもがプレゼントをもらえないのは可哀想だ」
「サンタさん、袋の中にプレゼントがふたつありますよ。ほら、これです。今からでも遅くありません。2階の子どもたちのところに置いてきましょう」
「うむ。ではわしが持って行こう。ああ、何だか眠くなってきたな。トナカイくん、子どもたちの枕元にプレゼントを置いたら、わしはもう寝る。君はゆっくり飲んでくれたまえ」
「はい、おやすみなさい」


「ふう……」
「お疲れさまでした。戸中井さん」
「ああ奥さん。参田さんはお休みになられましたか?」
「ええ、ぐっすり。毎年付き合わせてごめんなさいね、戸中井さん」
「いえいえ、参田部長にはお世話になりましたから」
「もう部長じゃないわ。仕事辞めたとたんおかしくなっちゃって、この時期になると自分をサンタクロースだと本気で思っているのよ」
「はい。僕たち、参田と戸中井で名コンビって呼ばれていましたからね、忘年会の余興はいつもサンタとトナカイをやらされました」
「あの頃がよっぽど楽しかったのね」
「そうだ。さっき参田部長が2階に運んだプレゼント、あれは僕からお二人へのクリスマスプレゼントです」
「まあ、いつもありがとう。あの人、どうせ今日のこと何も憶えてないのよ」
「そう思って、部長にはウイスキーを贈っておきました」
「ありがとう。来年まで取っておくわ」

「では、僕は帰ります。ローストビーフとウーロン茶、ご馳走様でした」
「早く帰ってあげて。奥様によろしくね」
「はい、よいクリスマスを」
「よいクリスマスを」

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帰郷の理由

15年ぶりに、故郷に帰ることにした。
東京で就職してからは忙しさもあったけど、「結婚はまだか」と言われるのが嫌で帰らなかった。

「お母さん、明日帰るから」
「えっ、何で帰るの?」
「何でって、何でもいいでしょう」
「良くないでしょう。何で帰るのよ」
「なに、迷惑なの?」
「違うよ。何で帰るのか聞いてるだけよ」
「もういい。とにかく帰るから!」

ああ、何だか拍子抜け。
娘が実家に帰るのに理由が必要?
しかも15年ぶりに帰る一人娘に、第一声がそれ?
まあ、帰らなかった私も悪いけど「待ってるよ」くらい言っても良くない?

そもそも理由なんてひと言じゃ言えない。
40歳手前で10年付き合った男にフラれて、仕事に生きようと思ったら新任の上司とそりが合わずに転職。
転職先は信じられないブラック企業で即辞表。
おまけにアパートのオーナーが変わって、立ち退きを要求された。
ここ一年で色々あって疲れちゃった。
貯金があるうちに、地元に帰ってやり直そうって思った。
そういうのは、ご飯を食べて落ち着いてからゆっくり話すつもりでいるのに、いきなり理由を聞くなんて、お母さんは鬼だわ。
もしかして、15年も帰らなかった仕返し?
まあいい。とにかく帰る。今の私にはそれしかないんだ。

在来線に揺られること3時間。
乗り継ぎのローカル線で30分。
懐かしい駅は変わっていない。
ああ、なんて静か。のんびりしている。山が近いな。
実家はここからバスで30分。
時刻は午後5時。もう辺りは暗いし、寒い。
早く帰ろうとバス停に向かったけれど、バス停がない。
嘘でしょう? 通りかかった自転車の高校生に尋ねてみた。
「ねえ、バス停の場所、変わった?」
「バス、ないですよ。3年前に廃線になって、今はありません」
なんですって? 確かに私がいた頃から乗る人まばらだったけど、まさか廃線?
すぐに母に電話をかけた。しゃくだけど迎えに来てもらうしかない。

「お母さん、バスないんだけど」
「そうそう、なくなっちゃったのよ」
「あのさ、悪いけど迎えに来てくれる?」
「無理よ。あのね、お父さんとお母さん、後期高齢者になったのを機に、去年免許返納したんだわ。今はほら、ネットスーパーもあるし、乗り合いタクシーもあるからね」
「えー、じゃあ私、どうしたらいいの?」

「だから訊いたでしょう。何で帰るのって(バスないけど)」
「えっ、そういう意味?」
「あんた、電話切るの早いから。タクシー呼びなさい。4千円くらい持ってるでしょ」
げげ、タクシー代が4千円? 田舎舐めすぎてた。
私は、山道を走るタクシーのメーターが、どんどん上がるのを眺めながら思った。
「まずは免許取ろう」

懐かしい家に帰ると、お母さんはご馳走を作って待っていた。
「ああ、お母さんのご飯、おいしい」
「ところであんた、何で帰って来たの?」
「え、だから電車とタクシー」
「いや、そうじゃなくて、何で帰って来たの?」
「だから電車と……」
日本語ってややこしい。

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ピンポンダッシュ

北風の通学路。
毎日のようにピンポンダッシュをしていく悪ガキがいる。
「ピンポ~ン」
ほーら、来た。何も玄関まで出ていくことはない。
窓から顔を出して「こらっ」と叱りつけてやる。
悪ガキは、憎たらしく舌を出して走って行く。
どこの子どもか知らないけれど、何が楽しいのかね。

老人ばかりの集合住宅で独り暮らしだ。
定期的にケアマネージャーが様子を見に来てくれる。
子どもたちに迷惑を掛けたくないから、半年前からここで暮らし始めた。

そんなある日、隣の家から怒鳴り声が聞こえた。
外に出てみると、いつもの悪ガキが隣のじいさんに捕まっていた。
「どうかしたの?」
「このガキが、用もないのにチャイムを鳴らして逃げるところを捕まえたんだ」
悪ガキは、ばつの悪そうな顔で縮こまっている。
「悪かったねえ。その子はうちに用があったんだよ。間違えて隣のチャイムを鳴らしちまったんだ。お騒がせしてごめんよ。ほら、こっちにおいで」
「なんだそうか。似たような家だから間違えたのか。これから気を付けろよ」
お隣さんは「おお、寒い」と言いながら、家の中に入った。
「ほら、あんたも家にお帰り。これに懲りて、ピンポンダッシュはやめるんだね」
悪ガキは走り出したと思ったら振り返り、「あっかんべえ」と舌を出した。
何だい。なんてガキだ。助けてやるんじゃなかったよ。

翌日、懲りずに悪ガキがやって来た。
「こらっ」と窓から覗いたら、悪ガキが母親らしき女性と並んで立っていた。
謝りに来たのかね。別にいいのに。
玄関に出ると、母親らしき女性が深々と頭を下げた。
「息子がご迷惑をかけたようで、申し訳ありません」
「別に大したことじゃないよ。まあ、立ち話も何だし、上がっていきな。寒いから」
遠慮すると思ったけど、ふたりはすぐに上がり込んだ。
最初からそうするつもりだったみたいだ。
キョロキョロと部屋を見まわしたり、柱を触ったりしている。
「古い家が珍しいかい?」
声をかけると、母親が顔を赤くして「すみません」と言った。

悪ガキはちゃっかりコタツに入っている。
図々しい親子だね。別にいいけど。
「お茶でも淹れようかね」
そう言って振り向くと、母親が泣いていた。
「えっ、あんた、どうしたの?」
悪ガキが、ごろごろ寝転びながら言った。
「おばあちゃんの家だったの、ここ」

母親がハンカチで目元を押さえながら「すみません」とまた言った。
どうやらあたしの前にここに住んでいた人が、この人の母親だったらしい。
「母とはケンカばかりしてました。息子が懐いているのをいいことに甘やかすから」
「孫は可愛いからね。仕方ないだろ」
「もっと優しくしてあげればよかったと、悔やんでばかりです」

母親の泣きごとをよそに、悪ガキがケロッとした顔で言った。
「おばあちゃんの家にもコタツがあったよ。おばあちゃん、寝ながらお菓子食べても怒らなかったんだ」
悪ガキは、ゴロゴロしながら「お菓子ないの?」なんてほざいている。
あたしは悪ガキのコタツ布団を引っぺがした。
「あたしはね、あんたのおばあちゃんみたいに優しくないよ。怖いよ。鬼婆だよ。お菓子もないよ。それでもいいならまたおいで」
悪ガキは、震えながら「はい」と言った。

母親は、涙を拭いながら笑った。
「本当にすみません。お茶は私が淹れます。座っててくださいな」
「そうかい?」と、お言葉に甘えてコタツに入った。
悪ガキが、上目遣いにあたしを見ている。
よく見ると、なかなか可愛い子じゃないか。
……と思ったのもつかの間、「あっかんべえ」と舌を出した。
ふん。やっぱり悪ガキだね。まあ、別にいいけどね。

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