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やさしいトナカイさん

「ああ、今年も無事にプレゼントを配り終えたな、トナカイくん」
「はい、サンタさん、お疲れさまでした」
「上がって一杯やっていきなさい」
「でも、ソリがありますから。飲酒運転になってしまいます」
「泊って行けばいいだろう。そうだ、フカフカの最上級の藁を買ったんだ。君がぐっすり眠れるようにな」
「それはありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「おおい、今帰ったぞ。トナカイくんに酒を出してくれ。去年誰かにもらった高級なウイスキーがあっただろう」
「すみません、奥さん」
「いいんですよ。そろそろ帰るころだと思って、用意しておきました」
「おお、これは旨そうなローストビーフだ」
「クリスマスですから、奮発しました。では、ごゆっくりどうぞ」

「トナカイくん、君とも長い付き合いになったな」
「そうですね。サンタさんと過ごすクリスマスが当たり前になってますね」
「しかし君、少しスピードが落ちたんじゃないか?」
「面目ない。明日からトレーニングに励みます」
「いいよ、しばらくゆっくりしなさい」
「奥さんの料理はどれも絶品ですね」
「そうだろう。ところで君もそろそろ身を固めたらどうだね。そうだ。今度いいメスのトナカイを探してあげよう」
「お気遣いなく」
「家族が増えるのはいいぞ。生活に張りが出る」
「はあ、そうですね。さあ、サンタさん、もう一杯お作りしましょう」

「あっ、しまった。忘れてた」
「どうしたんです?」
「世界中の子どもたちにプレゼントを配って、自分の子どものプレゼントを忘れてた」
「それはいけませんね」
「サンタクロースの子どもがプレゼントをもらえないのは可哀想だ」
「サンタさん、袋の中にプレゼントがふたつありますよ。ほら、これです。今からでも遅くありません。2階の子どもたちのところに置いてきましょう」
「うむ。ではわしが持って行こう。ああ、何だか眠くなってきたな。トナカイくん、子どもたちの枕元にプレゼントを置いたら、わしはもう寝る。君はゆっくり飲んでくれたまえ」
「はい、おやすみなさい」


「ふう……」
「お疲れさまでした。戸中井さん」
「ああ奥さん。参田さんはお休みになられましたか?」
「ええ、ぐっすり。毎年付き合わせてごめんなさいね、戸中井さん」
「いえいえ、参田部長にはお世話になりましたから」
「もう部長じゃないわ。仕事辞めたとたんおかしくなっちゃって、この時期になると自分をサンタクロースだと本気で思っているのよ」
「はい。僕たち、参田と戸中井で名コンビって呼ばれていましたからね、忘年会の余興はいつもサンタとトナカイをやらされました」
「あの頃がよっぽど楽しかったのね」
「そうだ。さっき参田部長が2階に運んだプレゼント、あれは僕からお二人へのクリスマスプレゼントです」
「まあ、いつもありがとう。あの人、どうせ今日のこと何も憶えてないのよ」
「そう思って、部長にはウイスキーを贈っておきました」
「ありがとう。来年まで取っておくわ」

「では、僕は帰ります。ローストビーフとウーロン茶、ご馳走様でした」
「早く帰ってあげて。奥様によろしくね」
「はい、よいクリスマスを」
「よいクリスマスを」

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