可愛い獲物 [ファンタジー]
街中で、人間以外の気配を感じたことはありませんか?
それは私たち妖怪です。
秋が深まる前に、食料を探しに来るのです。
山の熊が、食料を求めて人里に下りて来るのと同じです。
わたしたちの食料…もちろん人間ではありませんよ。人など食べません。
わたしたちの一族は、猫が好物です。
だから他の妖怪からは、「猫食い族」なんて呼ばれています。
飼い猫には手を出しません。その辺はわきまえています。
人間が捨ててしまった猫や、野良猫を捕まえるのです。
わたしは公園に身を置いて、野良猫を待ちました。
猫はなかなか見つかりません。
数日後、ひとりの女性が段ボールに入った猫を捨てに来ました。
猫は2匹。『誰か拾ってください』なんて、書いてあります。
それならと…猫に手を伸ばした時です。ランドセルを背負った女の子が声をかけてきました。
「おじさん、1匹わたしにちょうだい」
「いや…これはわたしの獲物…」
「いいでしょう。わたし、ここに猫が捨てられるのをずっと待っていたの」
女の子はまっすぐな目でわたしを見ます。
「まあいいだろう。また捕まえればいいし」
わたしは、女の子に猫を1匹渡しました。
「ありがとう。じゃあおじさん、1週間後にここでまた会いましょうね」
「1週間後に?なぜだ?」
「だってこの2匹はきょうだいでしょう。離れ離れはかわいそうよ」
「しかしわたしは家が遠い」
「うそだ。おじさん、この公園に住んでるホームレスでしょう。来週、約束だよ」
女の子は小指を出して、無理やり指切りをしました。
困りました。わたしは指切りに弱いのです。
まあどのみち、食べごろまでには程遠い。しばらくここにいるのもいいでしょう。
猫は、食料になるとも知らずに、私の懐で無防備に眠りました。
1週間後、女の子が公園に来ました。
「ほら、小雪のきょうだいだよ。いっしょに遊びなさい」
「こゆき?」
「うん。この子の名前。白いから小雪。おじさんの猫は何て名前?」
はて…。食料に名前など付けるはずがありません。
「名前ないの?じゃあ私が付けてあげる。小雪のきょうだいだから小雨ね」
「こさめ?」つぶやいてみると、私の猫がニャーと鳴きました。
女の子は紙袋から何とも歪なおにぎりを取り出しました。
「はい、おじさん。ママに内緒で作ってきたの。小雨と分け合って食べてね」
女の子は、じゃあまた来週、と指切りをしました。
おにぎりは、小雨も吐き出すほどのしょっぱさでした。
1週間後、また女の子が来ました。
今度はキャットフードとコンビニのおにぎりを持ってきました。
「お小遣いで買ったの。小雨がちょっと痩せてて心配だったから」
わたしに食べられるとも知らないで、女の子はそんなことを言いました。
不思議な気持ちがしました。
人間の言葉で言うと…罪悪感とでも言うのでしょうか。
小雨はキャットフードを夢中で食べました。
1週間後、女の子は甘いお菓子を持ってきました。
それを食べた小雨は、甘い匂いがしました。私の頬をペロッとなめる小雨に不思議な感情を抱きました。
愛しさ…とでも言うのでしょうか。
1週間後、わたしは小雨と別れました。
女の子にあげたのです。
「本当にいいの?おじさん、さみしくない?」
「おじさんは、遠くへ行くんだよ」
「わかった。小雨のことは任せてね。おじさん、元気でね」
「ありがとう。君はどうしてそんなに優しいんだい?」
「だって、パパが言ったの。動物が好きな人に悪い人はいないんだって」
女の子は、小雪と小雨、2匹を抱えて帰って行きました。
やれやれ、手ぶらでは帰りづらいが仕方ありません。
別に猫を食べなくたって、おいしいものはいくらでもあるのです。
そろそろ食生活を変えてみるのもいいかと…思い始めているのです。
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それは私たち妖怪です。
秋が深まる前に、食料を探しに来るのです。
山の熊が、食料を求めて人里に下りて来るのと同じです。
わたしたちの食料…もちろん人間ではありませんよ。人など食べません。
わたしたちの一族は、猫が好物です。
だから他の妖怪からは、「猫食い族」なんて呼ばれています。
飼い猫には手を出しません。その辺はわきまえています。
人間が捨ててしまった猫や、野良猫を捕まえるのです。
わたしは公園に身を置いて、野良猫を待ちました。
猫はなかなか見つかりません。
数日後、ひとりの女性が段ボールに入った猫を捨てに来ました。
猫は2匹。『誰か拾ってください』なんて、書いてあります。
それならと…猫に手を伸ばした時です。ランドセルを背負った女の子が声をかけてきました。
「おじさん、1匹わたしにちょうだい」
「いや…これはわたしの獲物…」
「いいでしょう。わたし、ここに猫が捨てられるのをずっと待っていたの」
女の子はまっすぐな目でわたしを見ます。
「まあいいだろう。また捕まえればいいし」
わたしは、女の子に猫を1匹渡しました。
「ありがとう。じゃあおじさん、1週間後にここでまた会いましょうね」
「1週間後に?なぜだ?」
「だってこの2匹はきょうだいでしょう。離れ離れはかわいそうよ」
「しかしわたしは家が遠い」
「うそだ。おじさん、この公園に住んでるホームレスでしょう。来週、約束だよ」
女の子は小指を出して、無理やり指切りをしました。
困りました。わたしは指切りに弱いのです。
まあどのみち、食べごろまでには程遠い。しばらくここにいるのもいいでしょう。
猫は、食料になるとも知らずに、私の懐で無防備に眠りました。
1週間後、女の子が公園に来ました。
「ほら、小雪のきょうだいだよ。いっしょに遊びなさい」
「こゆき?」
「うん。この子の名前。白いから小雪。おじさんの猫は何て名前?」
はて…。食料に名前など付けるはずがありません。
「名前ないの?じゃあ私が付けてあげる。小雪のきょうだいだから小雨ね」
「こさめ?」つぶやいてみると、私の猫がニャーと鳴きました。
女の子は紙袋から何とも歪なおにぎりを取り出しました。
「はい、おじさん。ママに内緒で作ってきたの。小雨と分け合って食べてね」
女の子は、じゃあまた来週、と指切りをしました。
おにぎりは、小雨も吐き出すほどのしょっぱさでした。
1週間後、また女の子が来ました。
今度はキャットフードとコンビニのおにぎりを持ってきました。
「お小遣いで買ったの。小雨がちょっと痩せてて心配だったから」
わたしに食べられるとも知らないで、女の子はそんなことを言いました。
不思議な気持ちがしました。
人間の言葉で言うと…罪悪感とでも言うのでしょうか。
小雨はキャットフードを夢中で食べました。
1週間後、女の子は甘いお菓子を持ってきました。
それを食べた小雨は、甘い匂いがしました。私の頬をペロッとなめる小雨に不思議な感情を抱きました。
愛しさ…とでも言うのでしょうか。
1週間後、わたしは小雨と別れました。
女の子にあげたのです。
「本当にいいの?おじさん、さみしくない?」
「おじさんは、遠くへ行くんだよ」
「わかった。小雨のことは任せてね。おじさん、元気でね」
「ありがとう。君はどうしてそんなに優しいんだい?」
「だって、パパが言ったの。動物が好きな人に悪い人はいないんだって」
女の子は、小雪と小雨、2匹を抱えて帰って行きました。
やれやれ、手ぶらでは帰りづらいが仕方ありません。
別に猫を食べなくたって、おいしいものはいくらでもあるのです。
そろそろ食生活を変えてみるのもいいかと…思い始めているのです。
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2011-09-10 10:21
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コメント(18)
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ははあ、このおじさんは三味線つくりの名人なんですね。それで、皮だけでなく、身の方まで無駄なく使い、命に感謝を捧げる仙人のような人なんです。
という想像は見事に裏切られましたが、素敵な話でしたね。
あ、そういえば、はじめに妖怪と書いていたような。。。うん、この妖怪は女の子にしか見えないんですね、きっとそうだ。そうにちがいない。
by 川越敏司 (2011-09-10 13:13)
お久しぶりです。
「おじさん」、って姿が見えるのかっ。この女の子も新手の妖怪の類か、
なんて深読みしてた自分がちょっと恥ずかしいです。
普通にイイ話でした。素直に読めばいいのに。
やはり一緒に暮らしていくうちに仲良くなっちゃう、ってありますよね。
かなり古い映画ですが、犬嫌いのお父さんが迷子のセントバーナードを
世話して仲良くなる、「ベートベン」という映画のシリーズが思い出されました。
by 愛輝 (2011-09-10 13:57)
とても温かいお話ですね。
普通の女の子が、妖怪を人間にかえて、猫とおじさんを救いましたね。一石二猫?ですね。
by かよ湖 (2011-09-10 21:35)
妖怪の機微が伝わってくるのがさすがりんさんだなぁ。
その昔、一世を風靡した人気者ウーパールーパーは、今では唐揚げや煮込みで食されているとか。げにおそろしきは人間なり~
by 矢菱虎犇 (2011-09-10 21:35)
おまえうまそうだな
っていうわけで
ボクは、うさぎを飼ってるんですけど
うさぎってのは、いうなれば
食べ物ですもんね。
でも、うさぎを捌いて、食べれるかなあ。
三角コーナーにうさぎの頭がゴロリってのも
イヤです。
猫でしょ~?
食べれないですよね。
身近すぎて。
by ヴァッキーノ (2011-09-11 04:02)
結局、猫ちゃんを食べれなかった妖怪さん。。。
とっても暖かいお話になってますね。
食生活。。。変えてベジタリアン妖怪の出来上がりです。(笑)
生き物は、ほかの命を食べることで
明日に命をつないでゆく。。。
けれど、その命を愛してしまったら。。。
食糧ではなく。。。存在になってしまう。
もう、食べられないですよね。
妖怪さんにほかに食べるものがあってよかった。
猫しか食べれない体質だったら
お腹を空かせたまま、ずっと生きていくことになる。
それはそれで。。。可愛そうだものね。。。
素敵なお話でした。
楽しみました。ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2011-09-11 07:01)
このお話の時代が終戦直後で、おじさんが妖怪ではなくて普通の腹ペコのおじさんでも成り立つお話だと思いました。
ちょっと血なまぐさいお話になる可能性もありですが、優しさにあふれていますね。
>「ありがとう。君はどうしてそんなに優しいんだい?」
の問いに、女の子の答えが
>「だって、パパが言ったの。動物が好きな人に悪い人はいないんだって」
ではちゃんとした答えになってないですよね。
そこで想像したんですが、女の子はもともと、やんちゃというか、粗暴な性格で、これではいけないとある日自分で反省したんですよね。
で、動物を好きになることで、優しい性格になれるんじゃないかと思って猫を飼い始めた。
>動物が好きな人に悪い人はいない
の「逆もまた真なり」と言う訳ですね。
妖怪さんもほんとは恐ろしい妖怪だったのが、「逆もまた真なり」にはまってしまったんでしょうか?
ちょっと深読みしすぎかもしれませんね。
by 海野久実 (2011-09-11 14:33)
読み始め、この妖怪さんは女性だとばっかり思いこんで読んでいました。
すると、おじさんって言葉が出てきて、やっと男性だと飲み込めました。
そうですよね、妖怪って、絶対男性ですよね。女性なわけがない!
りんさん、そう言う隠された意味もあるんでしょう?そうだよね!
男性か女性かと言うことにやけにこだわるのは、
私のあだ名が妖怪人間ベラだったからなのです。
「はやく、人間になりた~い!」チーン!
by haru (2011-09-11 17:49)
素敵なストーリーですね♪
最後の部分、深い…と思いました(^^)まさに深イイ〜♪
by クローヴ (2011-09-12 22:57)
<川越さん>
あ…。妖怪って見えちゃいけないんでしたっけ??
これは鬼太郎のねずみ男みたいに、人間にも見えることにしましょう(笑)
by リンさん (2011-09-14 22:04)
<愛輝さん>
お久しぶりです!
妖怪でも、愛着がわくんですかね^^
友達の家に遊びに行った時、ニワトリを飼っていて、名前まで付けていたのに「もうすぐ食べるんだ~」とニコニコしていたのを思い出します。
そんなもんかな~^^
ベートーベン、私も見ました。
by リンさん (2011-09-14 22:10)
<かよ湖さん>
ありがとうございます。
そうですね。普通の女の子がネコちゃんを救いましたね。
めでたしです^^
by リンさん (2011-09-14 22:15)
<矢菱さん>
え?ウーパールーパーを食べるんですか?
人間って、ホントに雑食ですね^^
by リンさん (2011-09-14 22:17)
<ヴァッキーノさん>
ごめんなさい^^;ウサギ食べたことあります。
串焼きやで、何の肉かわからずに食べました。
許して~^^
by リンさん (2011-09-14 22:19)
<りこさん>
妖怪さん、おにぎりを食べて他にも美味しいものがあると気づいたのかも^^
ベジタリアンの妖怪もいいですね。
食生活って、だんだん変わっていくものかも。。。
by リンさん (2011-09-14 22:22)
<海野久実さん>
海野さんの深読み、なかなかいいですね。
食べようとしたのに「動物好き」に思われて、妖怪もドキッとしたかどうかはわかりませんが、この一言は最後に思いつきで入れました。
そこからこんな発想が生まれるなんてさすがですね。
by リンさん (2011-09-14 22:26)
<haruさん>
え?妖怪人間ベラですか?
今度テレビで杏ちゃんがやるらしいですよ。
haruさんも杏ちゃん並みの美貌の持ち主かしら^^
私は早く爽快になりた~い^^
by リンさん (2011-09-14 22:29)
<クローヴさん>
ありがとうございます。
深いい話に出せるかしら(笑)
by リンさん (2011-09-14 22:30)