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卒業・うそ・それから [公募]

公募ガイド、小説虎の穴で佳作をいただきました。
テーマは「変わった小説」
この小説は、ちょっとした遊びが入っているんですが…わかるかな?

**

「卒業したら東京へ行くの?」
ノートの文字をなぞりながらルミが言った。 
「たぶん…受かれば…」
「バレンタインのチョコ食べた?」
「食べたけど」
「毒入りだよ。あのトリュフ」
「ふうん。でも俺、生きてるけど」
「毒が効くのは受験の頃。きっと落ちるわ」
「悪い冗談はやめてくれないか」
軽く睨んで、問題集に視線を戻した。
短大への進学が決まっている君とは違う。
埋まらない解答欄に苛つく。受験は3日後。
合格する確率は五分五分。

ブラインドから、西陽が差し込む。
向かい合わせたルミは、呑気に居眠りだ。
誰もいない夕暮れの学習ルーム。
無防備な横顔に、縞模様の赤い夕陽が射す。
「すき」ふいに聞こえた、ルミのつぶやき。
聞こえないふりをして、問題集を閉じる。
「ルミ、帰るよ」
幼稚園から高三まで、ずっと一緒に帰った。
大切な、大切な、僕の妹。

父さんの再婚相手には同じ年の娘がいた。
「誕生日が早いから、お前がお兄さんだよ」
よくわからないけど嬉しかった。
宝物みたいな可愛い妹。それがルミだ。
黙って母親にしがみつく小さなハニカミ屋。
優しく差し出した僕の手を、ぎゅっと握った。
たぶんその瞬間から、ルミは僕の妹になった。
たとえ血が繋がっていなくても。

もしも……と、あの日ルミは言った。
「他人だったらよかったのに」
苦いブラック珈琲を、僕の真似をして飲む。
無理して飲むから不味そうだ。涙が浮かぶ。
「不細工だな」
涙は珈琲のせいではないと知りながら笑った。
他人になんてなれるわけがない。
いつからか、気づいてしまったルミの想い。
妹としか見られない。あの頃も、今も…。
「もしも」はないんだ。
だから僕は、離れることにする。
ルミの進学が決まった後、志望校を変えた。
互いのため、それが一番いいと思ったのだ。

大学は東京を選んだ。ひとり暮らしをする。
ルミは唇を噛んでひとこと言った。「バカ」。
会話のない、寒い二月の帰り道。
チョコレートが、僕の顔面に飛んできた。
「食べなかったら殺すから」
ラッピングが崩れている。
ルミがこっそり作っていた不格好なトリュフ。
不機嫌な白雪姫。
目覚めのキスをするのは、僕じゃない。

いつのまにか、すっかり暗くなっている。
「ルミ、帰ろう」
薄暗い学習ルームに響くチャイム。
紫の黄昏に街の灯りが揺れる。
ルミが突然、消しゴムを投げつけた。
立て続けに、ノート、マフラー、ペンケース。
スマホに手をかけたルミを、さすがに止めた。
ため息まじりにスマホを離してルミが言う。
「うそつき」
きつく結んだ唇からこぼれたつぶやき。
「キスしたじゃん。去年、あたしの寝顔に」
逃げ場をなくした野良犬みたいな気分だ。
だって僕自身、説明できないんだ。
「誰かいるのか?」
階段を降りてくる先生の足音。
咄嗟に散らばった文房具を拾って外に出た。

たくさんの人で賑わう街を少し離れて歩く。
靴音が揃っているのに、距離は縮まらない。
イルミネーションがいつになく冷たく感じる。
ルミの言葉が、僕の背中を刺す。
「好きなんでしょう。いい加減認めなよ」
「よくわからないんだ」
「だから東京へ逃げるの?」
伸びた影が、外灯の下で重なる。
ルミが僕の背中にくっついた。胸が熱い。
「痛い」
「いたい?」
「今ごろ毒が効いてきたみたい」
「入れてないよ。冗談に決まってるでしょう」
「ううん。毒じゃなくて、たぶん…自白剤」
妹だと言い聞かせて、封印した気持ち。
チョコと一緒に、胸の奥で溶けた。

立ち止まった交差点、ルミがポケットを探る。
瑠璃色のお守りを、車のライトが照らす。
「素直になったご褒美。受験頑張って」
照れたように、ルミが今日初めて笑う。
「受かったら東京だよ」
「四年くらい、どうってことないわ」
笑える。文房具を投げたことなど忘れてる。
ルミはきっと不安だった。
確かなものが欲しかったんだろう。

腕を不意に掴まれた。「信号青だよ」
夜の街を並んで歩く。同じ歩幅の歩み。
未来のことはわからない。
今大切なのは、受験と、君への素直な想い。
今まで言えなくてごめん。

****

じつは、しりとりになっているんです。
行の最後と次の行の最初がしりとりになっています。
なかなか大変でした。言葉をもっと勉強しなくては…と思いました。
最優秀は、海野久実さんでした。
海野さん、おめでとうございます。

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コメント 22

SORI

リンさんさん こんばんは
遊び心は、最後に説明を受けるまで気が付きませんでした。私もまだまだでした。素敵な青春の物語でした。
by SORI (2014-03-10 21:26) 

もぐら

りんさん 佳作でもすごいです。
もう何度も選ばれていらっしゃるけど やっぱりすごいです。

りんさんは本当はいくつなの?って感じですね。
初々しくて、苦くて、切なくて、甘い。

今度はりんさんのお年頃のような芳醇なお話を。
きゃー ごめんなさい。(笑)
by もぐら (2014-03-10 23:33) 

海野久実

これはオフレコですけど、清水先生は、しりとりになっているのに気が付いてらっしゃらないのでは?
講評で、「変わった小説という点では少し弱い」と言っておられますよね。
全編しりとりなんて、十分変わっていると思うんですが。
もしそこに気が付いていれば、この作品が最優秀賞だったかもしれません。
あぶないあぶない(笑)

そうだなー
僕がこう言う作品を思いついたら、ストーリーに「しりとり」と言うものがからんでくる作品にしたかもしれませんね。
作品そのものがしりとりになっているのにストーリーはしりとりとは無関係と言うのはちょっと物足りないというか。
そうだなー
最後にしりとりだったと言う種明かしみたいな事もストーリー上で出来るといいかもしれませんね。

by 海野久実 (2014-03-11 08:18) 

dan

またまたおめでとうございます。自分のことのように
嬉しいです。
運命のいたずら義理の兄妹の恋。清潔で優しくて私の
好きな幼い恋。
しりとりになっていると言われてそのつもりで読んだら
一段といい作品だと思いました。力作ですね。
by dan (2014-03-11 11:17) 

雫石鉄也

この作品、しりとり、うんぬんは別としても、大変、読みごたえがありました。
好感を持ち合っている、若い男女、それが血のつながりのない兄妹。しかも同い年。非常にアブナイ設定なわけです。
一歩、どっちかが一線を越えて踏み込めば、二人は男女の関係になる。そのアブなさがあって、全編にわたって緊張感が漂っていました。
大変にみごとな「恋愛」小説でした。みごとです。 
by 雫石鉄也 (2014-03-11 14:01) 

みかん

違う出会い方だったら なんですよね。
義兄と言っても同い年ってところがポイント高いです♪
しりとり! リンさんの遊び心 好きです(*^_^*)
最後 ちゃんと ん で終わってる!
by みかん (2014-03-11 14:57) 

川越敏司

りんさん、またまた佳作おめでとうございます。

選評でも常連として言及されていて、もうしっかり清水先生におぼえられていますね。

なるほど、しりとりとは意外な発想でした。さすが、りんさんです。

ダンテの『神曲』がこれと似た構造で、前の3行の真ん中の押韻を次の3行の1,3行の押韻に使っています。ABA BCB CDC…という感じです。

作品の内容はいいと思うのですが、これで各行の字数を統一できていたらすごかったでしょうね。

by 川越敏司 (2014-03-12 15:19) 

麻乃あぐり

こんばんは、リンさん♪

またまたの佳作受賞、おめでとうございます!

血縁関係にない兄妹の恋模様という「変わった設定」に、
しりとりで物語を紡いでいくという「変わった表現方法」の、
2つの「変わった」が、「変わった小説」を形づくっているわけですね♪
その発想も、そしてそれを結実させてしまう技術も素晴らしいです!

ただ、清水先生は、しりとりに気付かれてらっしゃらないんじゃないでしょうか。
あまりにも文章の流れが自然すぎるので(笑)。
by 麻乃あぐり (2014-03-12 22:14) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
やっぱりわかりづらかったですかね^^
私もまだまだです。
by リンさん (2014-03-13 17:04) 

リンさん

<もぐらさん>
ありがとうございます。
わたし、コナン君の逆をいってます。
見た目はおばさん、頭脳は女子高生。
それじゃダメじゃん^^
by リンさん (2014-03-13 17:06) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
実はこれ、「しりとり小説」というサブタイトルをつけて、コメント欄にもその旨を書いたんですが、省かれてしまいました。
たぶん説明をしなければわからないような作品はダメなのでしょう。
勉強になりました。

海野さんの言うように、しりとりとわからせる物を作品に織り込めばよかったかもしれませんね。
私にはこれが精いっぱいでしたけど^^
by リンさん (2014-03-13 17:09) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
若者の揺れ動く気持ちを描きました。
最初からしりとりにするつもりで書いたので、上手くつなげるのが大変でした。
「る」で終わるのが多いことに気づいて、女の子は「ルミ」にしたんです。
by リンさん (2014-03-13 17:13) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
変わった小説なので、最初からしりとりという形を思いつきました。
ただの恋人同士にするつもりで書き始めたんですが、書くうちに「血のつながらない兄妹」というのが浮かびました。
途中まで同級生の設定で書いたので、じゃあ同じ年の兄妹にしようと思いました。
その辺が「変わった小説」として見ていただけたなら、とても嬉しく思います。
by リンさん (2014-03-13 17:17) 

リンさん

<みかんさん>
違う出会い方だったら…そうですね。でもそうしたらきっと出会ってないんですよね。
血は繋がっていないけど、いろんな障害がありそうですね。
この先どうなるのか、私も心配です^^
by リンさん (2014-03-13 17:19) 

リンさん

<川越さん>
ありがとうございます。
選評に名前を出していただけるのは本当に嬉しいです。
今後の励みになります。
ダンテの『神曲』ですか。いつもながら豊富な知識をお持ちですね。
私も、娘の下手なピアノばかりでなく、ちゃんとしたクラシックを聴いてみよう^^
文字数を統一していた方もいましたね、佳作の中に。
難しいですね。
by リンさん (2014-03-13 17:32) 

リンさん

<麻乃あぐりさん>
ありがとうございます。
「しりとり小説」というサブタイトルを入れていたのですが、省かれていたのでわかりづらかったですね。
でも、変わった内容の小説として評価していただけたので、ちょっと驚き、そしてすごく嬉しかったです。
ところどころ悩んで筆が進まなかったりしました。
ここ最近では、いちばん苦労した話だと思います。
by リンさん (2014-03-13 17:40) 

さきしなのてるりん

りんさん自身が気づいてらっしゃる不備な点。そうかぁ、なかなか大変なのだなぁ、、、。よく勉強もしてないし、文才もないのに、神話を書きたいなんて無謀なことを考えてるツレに付き合って、わたしもいろいろ書いたけど、途中で読んだら、自分で噴き出してしまって。破いてはまた書き、、、まるでドラマで出てくる小説家の様に恰好だけは同じなのだったけど。リンさんの作品読んで、つれには諦めさせることにしたわ。わたしに代筆させるのは無理だって。ほかにやること、それが私の天命だと。
by さきしなのてるりん (2014-03-13 21:28) 

四草めぐる

(´∀`σ)σYO!!

りんさん、おつこんちですw
四草めぐるですw

正直、凄いと思いました。

普通に読めるし、普通に物語りしています。
それがしりとりだったなんてw
私の頑張らねばw

では、では。

草々。
by 四草めぐる (2014-03-13 21:51) 

サイトー

リンさん佳作おめでとうございます!

海野さんの指摘ですが、
>これはオフレコですけど、清水先生は、しりとりになっているのに気が付いてらっしゃらないのでは?

確かに気がついていないかもしれませんね。
けど、単行本一冊全ページしりとりというすごいミステリもありますので(たしか泡坂妻夫だったと思います。作品名は思い出せません)、あえて触れなかった可能性もあるかもしれませんね。
そこはなんとも。
by サイトー (2014-03-14 06:23) 

リンさん

<さぎしなのてるりんさん>
ありがとうございます。
そんなこと言わないで、続けてくださいよ。
神話なんて素敵ですよ。ご夫婦で一緒に書いてるなんていいな。
絶対続けてください。
by リンさん (2014-03-15 14:11) 

リンさん

<四草めぐるさん>
ありがとうございます。
しりとりにするのは、なかなか大変でした。
「た」で終わる文が多いから、なるべく違う終わり方を考えたり^^
四草さんも、今度挑戦してみて下さい。
by リンさん (2014-03-15 14:15) 

リンさん

<サイトーさん>
ありがとうございます。
全ページしりとりの小説があるんですか。
それってすごいですね。
ぜひ読んでみたいです。
by リンさん (2014-03-15 14:17) 

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