ひまわり [男と女ストーリー]
9月も中旬を過ぎたのに、まだひまわりが咲いている。
そう言えば、ひまわりみたいな人だったな…と、ふとミドリのことを思い出した。
ミドリとは、ずいぶん前に同じ会社で机を並べていた。
僕が22歳で、ミドリは20歳。
年下だったけど、高卒のミドリは先輩で、新入社員の僕にあれこれと指示をした。
「わからないことがあったら聞いてね、大谷君」
年下なのに僕を大谷君と呼ぶ。
ちょっとムッとしたけど、ミドリは明るいムードメーカーで仕事も早かった。
頼れる先輩であることに、間違いなかった。
「大谷君、この仕入れの数字、間違っていたから直しておいたよ」
「え?ほんと?」
「うん。このまま提出したら会社が大損するところだったよ」
「あ、ありがとう」
「大谷君に貸しがひとつ。今度奢ってね」
そんなわけで、週末ふたりで飲みに行った。
まだ20歳なのに、ミドリの飲みっぷりに驚いた。
「何歳から酒飲んでるんだよ?」
「20歳からに決まってるでしょう。法律知らないの?」
「絶対ウソだ」
僕たちは、その日を境に急激に親しくなった。
週末はふたりで飲みに行き、会社の話や人生の話。
今にして思えば、若造が何を…と思うような深い話もしていた。
楽しかった。
すごく楽しかったけど、僕はミドリを恋人だと思ったことはない。
恋愛の対象から、故意に外していたのかもしれない。
「大谷君、さっきカオリ先輩と何話していたの?」
給湯室の前でミドリに声をかけられた。
「カオリ…?ああ、庶務課の吉井さん?映画に誘われたんだ。吉井さん、ホラー映画が好きなんだけど、一緒に行く友達がいないんだって。だから行こうって言われた」
「行くの?」
「うん。ホラー、けっこう好きだし、割引券あるっていうから」
「なんで?なんであたし以外の女と映画に行くの?」
「え?なに?ダメなの?」
僕のその言葉に、ミドリはひどく傷ついたらしく、涙目で走り去った。
結局映画は行かなかったけど、僕とミドリの関係はぎくしゃくしたまま過ぎて行った。
1年後、僕は本社に移動になった。
ミドリとは気まずいままだったから、正直どこかホッとした。
送別会も終わり、支店での最後の日、ミドリがランチに誘ってきた。
変わらない笑顔がありがたかった。
「栄転おめでとう。あたしのおかげだね」
「なんでだよ」
「仕入れの金額間違えたとき、直してあげたでしょ。あのままミスしてたら、今のあなたはなかったわ」
そうだった…と僕は頭をかいた。
「うそだよ」
「ん?」
「仕入れの金額、ホントは間違ってなかったの。大谷君と親しくなりたくて、うそをついたの。君は最初から優秀だったよ」
相変わらずの上から目線に閉口しながらも、何となくミドリが可愛く見えた。
最後までゴメンとは言わなかったけど、「おわび」と言ってランチをご馳走してくれた。
それが最後。
本社勤務になってしばらくして、ミドリは会社を辞めてしまった。
その後のことは何もわからない。結局僕が中途半端だったから、輝いた時間を共有した大切な人を失ってしまった。
女心がわからない僕は、38歳の今でも独身だ。
ひまわりのようなミドリの笑顔を今更思い出したのは、きっと弱っているからだ。
順風満帆だった会社は、2年前から経営が危うくなり、この春倒産した。
再就職などすぐにできると思っていたが、そう上手くはいかない。
ネクタイを締めて、面接に向かう。
輸入食品を扱う小さな会社だけど、海外での買い付けなどで自分のスキルが生かせればと思って履歴書を送った。
面接官はやり手の女社長。
さぞかし怖そうな女性かと思ったら、ひまわりのような笑顔が僕を迎えた。
「え?ミ、ミドリ?」
「社長をいきなり呼び捨てにするなんて、いい度胸してるわね、大谷君」
ああ、この上から目線。やっぱりミドリだ。
戸惑いながら、僕は深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」とミドリが笑った。温度が2度くらい上がった。
9月も中旬を過ぎたのに、やっぱり君はひまわりだ。
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そう言えば、ひまわりみたいな人だったな…と、ふとミドリのことを思い出した。
ミドリとは、ずいぶん前に同じ会社で机を並べていた。
僕が22歳で、ミドリは20歳。
年下だったけど、高卒のミドリは先輩で、新入社員の僕にあれこれと指示をした。
「わからないことがあったら聞いてね、大谷君」
年下なのに僕を大谷君と呼ぶ。
ちょっとムッとしたけど、ミドリは明るいムードメーカーで仕事も早かった。
頼れる先輩であることに、間違いなかった。
「大谷君、この仕入れの数字、間違っていたから直しておいたよ」
「え?ほんと?」
「うん。このまま提出したら会社が大損するところだったよ」
「あ、ありがとう」
「大谷君に貸しがひとつ。今度奢ってね」
そんなわけで、週末ふたりで飲みに行った。
まだ20歳なのに、ミドリの飲みっぷりに驚いた。
「何歳から酒飲んでるんだよ?」
「20歳からに決まってるでしょう。法律知らないの?」
「絶対ウソだ」
僕たちは、その日を境に急激に親しくなった。
週末はふたりで飲みに行き、会社の話や人生の話。
今にして思えば、若造が何を…と思うような深い話もしていた。
楽しかった。
すごく楽しかったけど、僕はミドリを恋人だと思ったことはない。
恋愛の対象から、故意に外していたのかもしれない。
「大谷君、さっきカオリ先輩と何話していたの?」
給湯室の前でミドリに声をかけられた。
「カオリ…?ああ、庶務課の吉井さん?映画に誘われたんだ。吉井さん、ホラー映画が好きなんだけど、一緒に行く友達がいないんだって。だから行こうって言われた」
「行くの?」
「うん。ホラー、けっこう好きだし、割引券あるっていうから」
「なんで?なんであたし以外の女と映画に行くの?」
「え?なに?ダメなの?」
僕のその言葉に、ミドリはひどく傷ついたらしく、涙目で走り去った。
結局映画は行かなかったけど、僕とミドリの関係はぎくしゃくしたまま過ぎて行った。
1年後、僕は本社に移動になった。
ミドリとは気まずいままだったから、正直どこかホッとした。
送別会も終わり、支店での最後の日、ミドリがランチに誘ってきた。
変わらない笑顔がありがたかった。
「栄転おめでとう。あたしのおかげだね」
「なんでだよ」
「仕入れの金額間違えたとき、直してあげたでしょ。あのままミスしてたら、今のあなたはなかったわ」
そうだった…と僕は頭をかいた。
「うそだよ」
「ん?」
「仕入れの金額、ホントは間違ってなかったの。大谷君と親しくなりたくて、うそをついたの。君は最初から優秀だったよ」
相変わらずの上から目線に閉口しながらも、何となくミドリが可愛く見えた。
最後までゴメンとは言わなかったけど、「おわび」と言ってランチをご馳走してくれた。
それが最後。
本社勤務になってしばらくして、ミドリは会社を辞めてしまった。
その後のことは何もわからない。結局僕が中途半端だったから、輝いた時間を共有した大切な人を失ってしまった。
女心がわからない僕は、38歳の今でも独身だ。
ひまわりのようなミドリの笑顔を今更思い出したのは、きっと弱っているからだ。
順風満帆だった会社は、2年前から経営が危うくなり、この春倒産した。
再就職などすぐにできると思っていたが、そう上手くはいかない。
ネクタイを締めて、面接に向かう。
輸入食品を扱う小さな会社だけど、海外での買い付けなどで自分のスキルが生かせればと思って履歴書を送った。
面接官はやり手の女社長。
さぞかし怖そうな女性かと思ったら、ひまわりのような笑顔が僕を迎えた。
「え?ミ、ミドリ?」
「社長をいきなり呼び捨てにするなんて、いい度胸してるわね、大谷君」
ああ、この上から目線。やっぱりミドリだ。
戸惑いながら、僕は深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」とミドリが笑った。温度が2度くらい上がった。
9月も中旬を過ぎたのに、やっぱり君はひまわりだ。
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2015-09-20 17:37
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コメント(12)
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リンさんさん こんばんは
再会を果たしたのですね。気になるのが女社長が独身かどうか?
ミドリの「こちらこそ」の言葉が暗示させてくれます。続きの物語が出来そうです。
by SORI (2015-09-20 20:59)
いいなあ。
りんさんのラブストーリーはユーモアがあって、ほっこりして。
え?
ミドリが社長?!
そりゃー呼び捨てになりますよね。
この場合。
by 海野久実 (2015-09-20 23:41)
主人公「僕」の仕事は、購買仕入れなんですね。実は、私の本業も、購買仕入れです。
私には、ミドリみたいな女子社員はいませんでしたけど、仕入れ値を間違ったことは、さすがにありません。メールで発注するのですが、違う取引先に発注メールを送信するミスはありました。
ミドリと僕、この輸入食品会社、大きくなりますね。きっと。
by 雫石鉄也 (2015-09-21 13:08)
やっぱり女社長はあのひまわりのようなミドリさん。
嬉しいなあ。ハッピーエンド以外にないですよね。
by dan (2015-09-21 13:55)
いいなぁ!ハッピィエンドは大好きです。
続編が読みたいです。!
by たまきち (2015-09-22 17:32)
<SORIさん>
ありがとうございます。
高卒のミドリさんが社長になるまでは、大変な勉強と努力があったと思います。
だから結婚を考える余裕はなかったと思うので、この再開が運命だと思いながら書きました。
続きですか。そうですね。今度書いてみようかな。
by リンさん (2015-09-23 13:26)
<海野久美さん>
ありがとうございます。
ミドリのほうは履歴書見て知っていたけど、大谷君は驚きですよね。
この日にミドリを思い出したのも、運命だったかも。
by リンさん (2015-09-23 13:29)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
そうですか。
雫石さんにも、女子社員とのほろ苦い思い出があったりして^^
女性のほうが強いほうが、ビジネスもプライベートも案外上手くいくかもしれませんね。
by リンさん (2015-09-23 13:33)
<danさん>
ありがとうございます。
笑顔が素敵な人っていいですよね。
この再開も、運命かもしれませんね。
もちろん、ハッピーな結末がいいですね。
by リンさん (2015-09-23 13:35)
<たまきちさん>
ありがとうございます。
続編ですか^^
そのうち、書いてみようかな~^^
by リンさん (2015-09-23 13:36)
ハッピーエンドで良かった〜♪ (๑◔‿◔๑)
by desidesi (2015-09-28 19:15)
<desidesiさん>
ありがとうございます。
やっぱり、ラブストーリーはハッピーエンドがいいですね^^
by リンさん (2015-10-01 17:54)