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代わってよ [ホラー]

「代わって。ねえ、代わってよ」
真夜中に声がした。それは、誰かの声じゃない。
僕の声だった。

「代わって。ねえ、代わってよ」
怖くて、目が開けられない。耳をふさいでも無駄だ。
だって、声は僕の体の中から聞こえている。

「代わって。ねえ、代わってよ」
「いやだよ」と答えてみた。
「ケチだな」と声がした。不思議だ。僕の中で、僕と僕が会話している。

怖くなって起き上がって、おかあさんのところに行った。
「怖い夢を見たのね」
おかあさんは優しく背中を撫でてくれた。もう声は聞こえない。
僕は安心して眠った。

翌朝、おばあちゃんに話した。
「その子は、おそらく双子のかたわれだ」
おばあちゃんはそう言って、仏壇に手を合わせた。
「かたわれ?」
「もうひとりの、おまえだよ」
「もうひとりの、僕?」
「おまえは、双子で生まれるはずだった。だけど、どういうわけかひとりで生まれた」
かたわれ。双子の、かたわれ。
僕の中に、もう一人の僕がいるってこと?
「おばあちゃん、僕、どうしたらいいの?」
「さあね、あたしにとっては、どちらも可愛い孫だから」
おばあちゃんは、ガサガサの手で僕を撫でた。
「そろそろ、代わってあげてもいいかもしれないねえ」

その夜、また声がした。
「代わって。ねえ、代わってよ」
「代わるって、なに?」
「もう七年も生きたんだから、そろそろいいでしょう。代わってよ」
「代わるって、なに? 代わったらどうなるの?」
「大丈夫。代わっても誰も気づかない。何も変わらない」

僕の中から、僕が出てきた。
ゆらゆらと揺れながら、僕の体を離れていく。
「怖いよ。おかあさん」
叫んでみたけど声が出ない。
起き上がりたいけど、起きられない。

「代わってくれてありがとう」
代わったの? いつ代わったの? 今の僕は僕なの?
それともかたわれなの?
ゆらゆら揺れて消えたのは、僕なの?
それともかたわれなの?

「大丈夫。代わっても、何も変わらない」

起き上がって、鏡を見た。
何も変わっていない。
そう、何も、変わっていない。
僕はぐっすり眠って、太陽の光で目覚めた。
まるで初めて迎える朝みたいに、気分が良かった。


***
少し前に書き止めておいた話です。
爽やかな春にホラーっていうのもどうかな、と思いましたが、最近話が思いつかなくて。
頭がさび付いてきたかもしれません。

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