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さよならセーラー服 [男と女ストーリー]

 卒業式…最後のセーラー服

歓喜と、涙と、お祭りさわぎの輪を抜けて、わたしはひとり校門を出た。
わたしには、やり残したことがある。

女子高で過ごした3年間、バス停で毎日顔を合わせたYくん。
Yくんは、となりの男子校の学生で、やはり今日が卒業式だった。
彼に想いをうちあけるチャンスは、今日が最後なのだ。

わたしはバス停で彼を待った。
早春の風が、白いスカーフを揺らした。

Yくんが、通りの向こうからやってきた。
彼は人気者だから、たくさんの友達に囲まれている。
第2ボタンは…よかった、まだあった。
まだ誰にも、ボタンをあげていないのね。

Yくんは仲間に手を振って、バス停に向かって歩いてきた。
さあ、勇気を出して、と自分に言い聞かせた。海の底にいるみたいに呼吸が苦しい。

「Yくん」
話しかけるとYくんは、爽やかな顔で振り向き、「なに?」と言った。
なんて澄んだ声。

「あの、制服の第2ボタンをわたしに下さい」
思い切って言った。声はきっと震えていた。

Yくんは、「いいよ」と、ボタンを引きちぎってわたしの手に乗せた。
あまりにあっさりしすぎていて、拍子抜けしたくらいだ。

「ありがとう」
これからも、会ってくれますか?と尋ねようとしたときだった。
Yくんが、「あのさ」と話しかけてきた。

「なに?」
「その代わりと言ってはなんだけど…そのセーラー服くれない?」
「は?」
「M女の制服って人気あるから、けっこう高値で買い取ってもらえるんだよね。
あ、写真付きだと更に高くなるから、写メ撮らせてもらっていいかな。
君けっこう可愛いし」

Yくんが、目の前でケイタイを構えた。
わたしは、信じられないほどの力でそれを振り払い、無言でバス停を後にした。

「あれ~?写真が嫌なら制服だけでいいよ。なんだったらお金は山分けでもいいよ。ねえ、どうせもう着ないんでしょう」

Yくんの声は、もはや耳障りな雑音にしか聞こえなかった。

 桜にはまだ早い川原の土手を歩いて帰った。

立ち止まり、さっきもらった金のボタンを思い切り川に投げ捨てた。

こうしてわたしは、3年間の淡い恋と、セーラー服に別れを告げた

せいふく.JPG
この写真、ちょっと違うよね…[たらーっ(汗)]

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コメント 8

hanatchi

うわっ ここまでくると スッキリ忘れるでしょうけど
わざと?!って深読みしても やっぱ さびしい。。
by hanatchi (2010-03-15 20:09) 

めりー

神妙に読んでいたら・・・あはは^0^
最後の写真で[コメディー]に決まりですっ!^^
p.s:PCへちゃんと届きましたよ♪ありがとうです☆(^^)
by めりー (2010-03-15 20:56) 

愛輝

第2ボタンを貰うっていう瞬間を見たことはありませんが、
卒業っぽいなあ・・・・・・と見ていたのに。

あれ?∑(‐д‐;)

まさかの展開ですね。
でも、最後の寂しい?気持ちを飛ばすような
ハルヒの元気な写真は、結構似合う気がします。
by 愛輝 (2010-03-15 22:45) 

リンさん

< hanatchiさん>
彼女に諦めさせる為にわざと? いえいえ、Yくんは根っからの制服マニアです。たぶん(笑)
まあ、付き合う前に本性がわかってよかった…かもです。
by リンさん (2010-03-16 16:29) 

リンさん

<めりーさん>
そうなんですよ。
卒業の話を書きたいな~と思ったんですけど、やっぱりコメディーになっちゃいました(笑)
by リンさん (2010-03-16 16:30) 

リンさん

<愛輝さん>
卒業っぽいものを探したんですが、見つからなくてセーラー服のハルヒでいいかってことにしちゃいました。
この後、この女の子がハルヒみたいに強くなってくれたらいいですね。
by リンさん (2010-03-16 16:34) 

矢菱虎犇

馬鹿虎ステーションへのリンク、ありがとうございます。

この男、制服フェチを食い物にして金儲けをする、亡者ですねぇ!

恐妻家の同僚がAKB48を見て、
「キレイなおネェちゃんは遠くから眺めとくのが一番だなぁ」ってぼやくんです。
ある意味、真理かもしれません。
異性にあこがれているうちは純粋だけど、
異性が現実の一部になると、耐えなくちゃいけないことってありますもん。

あ、僕は妻が怖くはありませんよ!あまり・・・。
by 矢菱虎犇 (2010-06-03 20:35) 

リンさん

<矢菱さん>
どういたしまして。こちらこそ、仲間に入れていただいて光栄です。

たしかに、ただの憧れで終わっていれば、キレイな思い出だったのにね。
ありがちな話ですよね。

by リンさん (2010-06-05 18:23) 

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