あおぞら読み聞かせ 営業中 [コメディー]
読み聞かせが好きな私は、公園で読み聞かせの会をやることにした。
本好きの子供を増やしたい。
きっと楽しい会になるだろう。
『みんな集まれ!!
毎週日曜日、児童公園で読み聞かせをやるよ。
お気に入りの本を持ってきてね。まってるよ!』
こんな貼り紙をしたものの、なかなか人は集まらない。
活字離れが進んでいるのかしら。
公園にも人は疎らだ。子供はどこで遊んでいるのかしら。
そんな事を考えていたら、ひとりのおじいさんがこちらに向かって歩いてきた。
「本を読んでくれるというのは、あんたかね」
「はい、いらっしゃいませ。あおぞら読み聞かせへようこそ!」
「じゃあ頼むよ」とおじいさんは鞄から本を取り出した。
しかし、小さな子供を連れている様子はない。
「あの、おじいさん、お孫さんはいないのかしら?」
「孫はいないよ。孫がいないとダメなのかい?」
「いいえ、そんなことはないですよ」
困った。子供向けの本しか読んだことがない。難しい本だったらどうしよう…
と迷いながらも、おじいさんから本を受け取った。
「え?本ってこれですか?これって…」
「取扱説明書だ。ケイタイの」
「取説…これを読めと…」
「ああ、ケイタイ買ったけど使い方がわからん。嫁にも恥ずかしくて聞けないし、あんたが読んで教えてくれ」
「はあ…」
仕方なく私は、取説を開いて読み始めた。
「1、充電します」
「そんなことはわかっておる!メールだ、メールのところを読んでくれ」
「はい…」
そして私は懇切丁寧に説明書を読んであげた。
おそらく自分の機種よりも、余程詳しくなったのは間違いないだろう。
そのあと、おばあさんがやってきた。
「説明書を読んでくれるのは、あんたかい?
デジカメ買ったんだけど、さっぱりわからないのさ。
あ、デジカメっていっても亀じゃないよ。カメラだよ。
知ってるかい?」
「…知ってます」
そんなふうに口コミで広がり、お年寄りが次々説明書を持ってやってきた。
中には出張読み聞かせを頼む人もいた。
「洗濯機の使い方を教えておくれ」
とか
「でーぶいでー(DVDだと思われる)を見たいんだけど」
などなど…
そんな日々を繰り返すうちに、私はすっかり人気者?になった。
しかもプロ並みに家電に詳しくなったのは言うまでもない。
これでいいの?これじゃダメじゃん!
自問自答する私のところに、ついにひとりの子供がやってきた。
「おねえさん、本読んで」
キタ、キタ、キタ~!!ついに来たわ。
「ようこそ!あおぞら読み聞かせへ。お気に入りの本は持ってきたかな?」
「うん」
「さてさて、何の本かな。おねえさんが面白おかしく読んであげるわ」
「じゃあこれ、お願いします」
ん?これは??
「ゲームの説明書だよ。あのね、ママが忙しいから公園のおねえさんに読んでもらいなさい、だって」
やっぱり…そういうことなのね。
それならそれでいいわ。
その説明書、私が面白おかしく読んであげようじゃないの。
私は声色を使って、子供向きに説明書を読み聞かせた。
「いいかい?まず電源を入れるよ。それから一緒に旅をするボクに名前をつけておくれ。カッコいい名前をたのむよ。入力の仕方はわかるかな?」
きっと子供はわくわくしながら続きを待っている…と思ったら、その子はニコリともせずに、目線をゲームに落としたまま言った。
「あの、そういう演出はいいですから、先に進んでもらえますか」
ガラガラガラ… 私のあおぞら読み聞かせの会が、閉店する音を聞いた。
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本好きの子供を増やしたい。
きっと楽しい会になるだろう。
『みんな集まれ!!
毎週日曜日、児童公園で読み聞かせをやるよ。
お気に入りの本を持ってきてね。まってるよ!』
こんな貼り紙をしたものの、なかなか人は集まらない。
活字離れが進んでいるのかしら。
公園にも人は疎らだ。子供はどこで遊んでいるのかしら。
そんな事を考えていたら、ひとりのおじいさんがこちらに向かって歩いてきた。
「本を読んでくれるというのは、あんたかね」
「はい、いらっしゃいませ。あおぞら読み聞かせへようこそ!」
「じゃあ頼むよ」とおじいさんは鞄から本を取り出した。
しかし、小さな子供を連れている様子はない。
「あの、おじいさん、お孫さんはいないのかしら?」
「孫はいないよ。孫がいないとダメなのかい?」
「いいえ、そんなことはないですよ」
困った。子供向けの本しか読んだことがない。難しい本だったらどうしよう…
と迷いながらも、おじいさんから本を受け取った。
「え?本ってこれですか?これって…」
「取扱説明書だ。ケイタイの」
「取説…これを読めと…」
「ああ、ケイタイ買ったけど使い方がわからん。嫁にも恥ずかしくて聞けないし、あんたが読んで教えてくれ」
「はあ…」
仕方なく私は、取説を開いて読み始めた。
「1、充電します」
「そんなことはわかっておる!メールだ、メールのところを読んでくれ」
「はい…」
そして私は懇切丁寧に説明書を読んであげた。
おそらく自分の機種よりも、余程詳しくなったのは間違いないだろう。
そのあと、おばあさんがやってきた。
「説明書を読んでくれるのは、あんたかい?
デジカメ買ったんだけど、さっぱりわからないのさ。
あ、デジカメっていっても亀じゃないよ。カメラだよ。
知ってるかい?」
「…知ってます」
そんなふうに口コミで広がり、お年寄りが次々説明書を持ってやってきた。
中には出張読み聞かせを頼む人もいた。
「洗濯機の使い方を教えておくれ」
とか
「でーぶいでー(DVDだと思われる)を見たいんだけど」
などなど…
そんな日々を繰り返すうちに、私はすっかり人気者?になった。
しかもプロ並みに家電に詳しくなったのは言うまでもない。
これでいいの?これじゃダメじゃん!
自問自答する私のところに、ついにひとりの子供がやってきた。
「おねえさん、本読んで」
キタ、キタ、キタ~!!ついに来たわ。
「ようこそ!あおぞら読み聞かせへ。お気に入りの本は持ってきたかな?」
「うん」
「さてさて、何の本かな。おねえさんが面白おかしく読んであげるわ」
「じゃあこれ、お願いします」
ん?これは??
「ゲームの説明書だよ。あのね、ママが忙しいから公園のおねえさんに読んでもらいなさい、だって」
やっぱり…そういうことなのね。
それならそれでいいわ。
その説明書、私が面白おかしく読んであげようじゃないの。
私は声色を使って、子供向きに説明書を読み聞かせた。
「いいかい?まず電源を入れるよ。それから一緒に旅をするボクに名前をつけておくれ。カッコいい名前をたのむよ。入力の仕方はわかるかな?」
きっと子供はわくわくしながら続きを待っている…と思ったら、その子はニコリともせずに、目線をゲームに落としたまま言った。
「あの、そういう演出はいいですから、先に進んでもらえますか」
ガラガラガラ… 私のあおぞら読み聞かせの会が、閉店する音を聞いた。
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2010-07-17 18:21
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コメント(6)
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文章ってのは何のために、誰のために書かれるかっていうのがとても重要だと聞いたことがあります。
児童書なんかは何歳向きってはっきり書いてあるけれど、大人の本は自分向きかどうか、見極めていかなくちゃなりませんね~
そういう意味で、究極の『目的をもつ文章』って取扱説明書ですよねぇ
どんな技巧が使われていようと、どんな面白さが込められていようと関係ない。
とにかく商品を使いこなす的確な説明だけが求められているんですから。
そこに「心」を求めると、カックンをくらっちゃいますねぇ。
by 矢菱虎犇 (2010-07-19 16:00)
人に物を説明するのが苦手で、しかも、人の説明をロクに聴かないという
ボクにとって、こういうお姉さんがいてれたなら、1回は頼みたいなあ。
あ、ボクはこのお話を読む前、タイトルだけ見て、本当の読み聞かせ会を
おりんさんがやってて、それでその報告の記事かと思ってましたよ。
違ったんですね(笑)
よく読まないうちに早合点してました。
by ヴァッキーノ (2010-07-19 18:41)
< 矢菱さん>
取説って、読むのが面倒だけど、ないと困るんですよね。
お年よりは特に大変だろうな~と思います。
それで思いついたお話です。
確かに取説に心はいらないかな…(^0^)
by リンさん (2010-07-20 18:04)
<ヴァッキーノさん>
私もこのお姉さんに頼みたいですね。
いっそ便利屋に名前を変えれば…と思います(笑)
読み聞かせは好きですけど、自分の子供に読んであげるのが精一杯です。
by リンさん (2010-07-20 18:08)
お年寄りの方はともかく、
子どもは自分で読めよ、と言いたくなりますねw
だって精神年齢高そうだし。
まあ、妙に冷めた子どもは増えているので、
時代を反映しているなあという気はします。
もう子どもじゃないですけど、私もこういう冷めた感じです。
ヒーローショーとかで、こんにちはーなんて言われて
100%返事できないタイプです。・・・・・・難儀だなあ。
by 愛輝 (2010-07-20 21:35)
<愛輝さん>
そうですね。子供は甘やかしちゃダメですね。
愛輝さん、冷めた子供だったんですか。
うちの娘は、ヒーローショーの怪獣が怖くて毎回大泣き。
ある意味可愛かったのね。
by リンさん (2010-07-20 23:43)