はだかの成金 [名作パロディー]
株で大金持ちになった成金男が、高級時計店を訪れた。
「ロレックスにも飽きた。この店でいちばん高い時計を出してくれ」
「かしこまりました」
店主は奥からガラスの箱を大事そうに抱えてきた。
おもむろに手袋をはめると、慎重にふたを開けた。
しかしそこには、何も入っていなかった。
「いかがです?素晴らしいでしょう」
「何も入ってないじゃないか」
「あ…お客様には見えませんか。それは失礼しました。
実はこれは、本物を見分ける眼力の持ち主にこそ見える品物でして。
お客様なら見えると思ったんですが…」
成金男は慌てて
「あ、冗談だよ。もちろん見えるさ。うん、いいね、その時計」
「でしょう。お客様なら見えると思いました」
「ちょっと、付けてみたいんだが」
「かしこまりました」
店主は成金男の腕に手を回し、時計を付ける振りをした。
「まるで感触がないぞ」
「それはそうでございますよ、お客様。まるで体の一部のようにお客様にフィットしておりますから。本当にいい時計とは、そういうものでございます」
「なるほど。うん、それもそうだ」
成金男はそれを買い、上機嫌で店を出て、秘書に尋ねた。
「いい買い物をした。ところでお前にはこの時計が見えるか?」
秘書は首を振った。
「いいえ、私は凡人ですから、まるで見えません」
「そうだろう。そうだ、いいことを思いついた。
俺はこの時計が見える女と結婚する。俺の妻になるほどの女は、本物を見分けられる女でないといけない」
「それはいい考えでございますね」
それから成金男は、パーティーで好みの女性を見つけると
「この時計どう?」と聞いて回った。
女達はたいてい首をかしげるか、ジョークと受け止めて笑うかのどちらかだった。
あるとき、ひとりの女が成金男の左腕をじっと見て言った。
「今何時かしら?」
どうやらこの女には時計が見えるらしい。
なかなか美しい女だ。よし、この女に決めよう。
成金男はそう思い、時間を教えようと腕を見た。
「…あ、見えないんだった…」
女は呆れた顔で「わからないならいいわ」と背を向けた。
「待ってくれ」
成金男は女を呼びとめ、腕を出して聞いた。
「君にはこの時計が見えるんだろう?教えてくれ、どんな時計なんだ。
色は?形は?光っているのか?」
「はあ?時計なんか見えないわよ。あたしはね、あなたが金持ちそうだったから声をかけたのよ。そのプラダのバッグから、どんな高級な時計が出てくるかと楽しみにしてたのに、時計も持っていないなんて問題外よ。
あたしは時計で男を判断してるからね」
女はくるりと背を向けた。
もし成金男が今までどおりロレックスを付けていたら、このふたりは案外うまく行ったかもしれない。
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「はだかの王様」をパロってみました。
ちなみに私は高級時計にはまったく興味ありません(ホントです)
「ロレックスにも飽きた。この店でいちばん高い時計を出してくれ」
「かしこまりました」
店主は奥からガラスの箱を大事そうに抱えてきた。
おもむろに手袋をはめると、慎重にふたを開けた。
しかしそこには、何も入っていなかった。
「いかがです?素晴らしいでしょう」
「何も入ってないじゃないか」
「あ…お客様には見えませんか。それは失礼しました。
実はこれは、本物を見分ける眼力の持ち主にこそ見える品物でして。
お客様なら見えると思ったんですが…」
成金男は慌てて
「あ、冗談だよ。もちろん見えるさ。うん、いいね、その時計」
「でしょう。お客様なら見えると思いました」
「ちょっと、付けてみたいんだが」
「かしこまりました」
店主は成金男の腕に手を回し、時計を付ける振りをした。
「まるで感触がないぞ」
「それはそうでございますよ、お客様。まるで体の一部のようにお客様にフィットしておりますから。本当にいい時計とは、そういうものでございます」
「なるほど。うん、それもそうだ」
成金男はそれを買い、上機嫌で店を出て、秘書に尋ねた。
「いい買い物をした。ところでお前にはこの時計が見えるか?」
秘書は首を振った。
「いいえ、私は凡人ですから、まるで見えません」
「そうだろう。そうだ、いいことを思いついた。
俺はこの時計が見える女と結婚する。俺の妻になるほどの女は、本物を見分けられる女でないといけない」
「それはいい考えでございますね」
それから成金男は、パーティーで好みの女性を見つけると
「この時計どう?」と聞いて回った。
女達はたいてい首をかしげるか、ジョークと受け止めて笑うかのどちらかだった。
あるとき、ひとりの女が成金男の左腕をじっと見て言った。
「今何時かしら?」
どうやらこの女には時計が見えるらしい。
なかなか美しい女だ。よし、この女に決めよう。
成金男はそう思い、時間を教えようと腕を見た。
「…あ、見えないんだった…」
女は呆れた顔で「わからないならいいわ」と背を向けた。
「待ってくれ」
成金男は女を呼びとめ、腕を出して聞いた。
「君にはこの時計が見えるんだろう?教えてくれ、どんな時計なんだ。
色は?形は?光っているのか?」
「はあ?時計なんか見えないわよ。あたしはね、あなたが金持ちそうだったから声をかけたのよ。そのプラダのバッグから、どんな高級な時計が出てくるかと楽しみにしてたのに、時計も持っていないなんて問題外よ。
あたしは時計で男を判断してるからね」
女はくるりと背を向けた。
もし成金男が今までどおりロレックスを付けていたら、このふたりは案外うまく行ったかもしれない。
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ちなみに私は高級時計にはまったく興味ありません(ホントです)
2010-06-17 10:16
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コメント(8)
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うーん、まあこの二人が付き合い出したら
とてつもなく迷惑な感じなので、
コレはコレでよかったのかもしれないですよね。
しかしこの時計屋さんは、善人なのか詐欺師なのか・・・・・・
教訓を与えてくれるいい人、ですね。私にとっては。
でも私も、高級時計買うくらいなら・・・その分美味しいもの食べそうです。
by 愛輝 (2010-06-17 16:20)
裸の王様のパロディ面白いですね。
この後の成金さんはどうしたのか
想像力を掻き立てられます。
by ナビパ (2010-06-17 19:14)
愛輝さんに激しく同意!
見栄っ張りな男には、見栄っ張りな女がお似合いかと。
とはいえ現代、社会的地位とか肩書きとか、ヘーコラしなきゃならない「見えないアレヤコレヤ」って王様の時代よりいっぱいありそうですねぇ!
かく言う僕も、職場に行けば『郷に従え』です、もちろん。
by 矢菱虎犇 (2010-06-17 21:49)
世の中、やっぱりカネですよね。
正直言って、カネで手に入らないものなんてないんじゃないかって思うことがあるんです。
健康第一なんて、きれいごとですよね。
健康だって、カネがなかったら、なんの意味があるんでしょう?
病気したって、カネさえあれば、どんな治療も受けられるわけですから!
などと、ダークな面を見せつけてみました(笑)
by ヴァッキーノ (2010-06-17 22:32)
< 愛輝さん>
そうですね。似たもの同士ですけど、間違いなく自己中ですね。
この時計屋さんは、きっと成金さんよりも1枚も2枚もうわてですね。
by リンさん (2010-06-18 21:30)
<ナビパさん>
ありがとうございます。
この成金さんは、本当は時計がないことに気付くでしょうか?
ご想像にお任せです(逃げ!)
by リンさん (2010-06-18 21:33)
見えないアレやこれ、ありますよね~。
権力振りかざしてる人が、ギャフンというところを見るのは楽しいですよね。
私も職場では郷に従ってます。
by リンさん (2010-06-18 21:39)
<ヴァッキーノさん>
ヴァッキーノさん、歪んでますよ~(笑)
お金ってあるに越したことはないけど、ありすぎると返って人間をダメにする気がします。
だから私は、あえて貧乏を選んでます。(なんてね)
by リンさん (2010-06-18 21:42)