エンジェル [競作]
ークリスマスの夜に、天使が舞い降りてきたー
何もないイヴだった。
バイト先からもらってきたケーキだけが、ポツンとテーブルの上に載っていた。
ホールのケーキを丸ごと食べるなんて、子供の頃は憧れたけど、今となっては虚しいだけだ。
窓辺に置いてあるオルゴールを手に取る。
たしか、小学校のときに女の子からもらった。
考えてみれば、あの頃が最大のモテ期だったかもしれない。
オルゴールをゆっくり回すと、やけに寂しい音を奏でた。
その時、窓の外に白いものが舞い降りるのが見えた。
ふわふわの長い髪、白いドレス、まるで天使のようだった。
彼女は僕と目が合うと、すがるように「開けて」と言った。
冷たい空気と共に舞い込んできた彼女は、氷のように冷え切っていた。
ストーブに手をかざすと、少し落ち着いた様子で「あったかい」と言った。
赤く燃える横顔が、とてもきれいだった。
「ねえ、それ何?オルゴール?」
「あ、ああ…古いけどね。ここを回すと音が出るよ」
「ふーん」と彼女は白い指でつまみを回した。
「あ、この曲知ってる。何だっけ?」
「“翼を下さい”だよ」
「ああ、そうだわ。翼を下さい…。いいわね。翼か…私も翼が欲しいわ。翼があれば飛べるのにね」
彼女はそう言って、夜空を見上げた。
―翼を失くした天使―
きっと飛べなくなって、僕の部屋に来たんだろう。
「ねえ、ケーキ、食べないの?」
「うん、ケーキ屋でバイトしててさ、実は見るのもウンザリなんだ」
「そう、じゃあ私が食べてあげようか。あ、そうだ!パーティしようよ。ワインとかビールとかガンガン飲んで騒ぐの。近所に聞こえるくらいにね」
「あ…お酒は…」
「ないの?」
「うん。あ、じゃあ買ってくるよ。コンビニすぐそこなんだ」
僕は上着を羽織って外へ出た。
彼女のためだと思えば、ちっとも寒くなかった。
コンビニでワインとチキンとサラダを買った。顔がゆるんでいるのが自分でもわかる。
部屋で待っている人がいる。そう思うと、帰りの足取りも軽くスキップしたい気分だった。
勢いよくドアを開けた。
「ただい…ま…」
彼女はいなかった。
テーブルの上に、オルゴールとケーキ。
ケーキのイチゴが3つなくなっていた。オルゴールが、忘れた頃に間抜けな音でピンッと鳴った。
イチゴが好きな天使は、翼をもらって飛んでいってしまった。
僕はその時、本当にそう思ったんだ。
***
数日後、賑わう街中で彼女を見た。
僕の天使は、男を腕を組んで歩いていた。
見覚えがある。あの男は、同じアパートの、僕の真上の住人だ。
確か、単身赴任の中年男。
なんだ、そういうことか…
彼女はあの男と不倫している。ふたりでイヴを過ごしていたら、突然奥さんが訪ねてきて、彼女はベランダに追い出された。
そして寒さに耐え切れず、手摺りを伝って僕の部屋のベランダに舞い降りた。
そんなところだろう。
まったく…。何が天使だ。
彼女の背中には、翼のかけらも見えなかった。
このお話は、矢菱虎犇さんからのお誘いを受けて書きました。
クリスマス競作企画です。
ちょっとしたお約束があって、クリスマスにちなんだ話であること・他のブロガーさんの話に出てくる登場人物やアイテムを話に入れること。
すごく楽しいですね♪
皆さん、力作ぞろいです。
宝箱のようなお話は、こちらからどうぞ。
http://blog.goo.ne.jp/kyosaku1224
ちなみに私がコラボしたのは、矢菱虎犇さんの『ホーリーナイト』とヴァッキーノさんの『プレゼント』です。
どんなお話かな~。
気になる方はチェックして!!
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何もないイヴだった。
バイト先からもらってきたケーキだけが、ポツンとテーブルの上に載っていた。
ホールのケーキを丸ごと食べるなんて、子供の頃は憧れたけど、今となっては虚しいだけだ。
窓辺に置いてあるオルゴールを手に取る。
たしか、小学校のときに女の子からもらった。
考えてみれば、あの頃が最大のモテ期だったかもしれない。
オルゴールをゆっくり回すと、やけに寂しい音を奏でた。
その時、窓の外に白いものが舞い降りるのが見えた。
ふわふわの長い髪、白いドレス、まるで天使のようだった。
彼女は僕と目が合うと、すがるように「開けて」と言った。
冷たい空気と共に舞い込んできた彼女は、氷のように冷え切っていた。
ストーブに手をかざすと、少し落ち着いた様子で「あったかい」と言った。
赤く燃える横顔が、とてもきれいだった。
「ねえ、それ何?オルゴール?」
「あ、ああ…古いけどね。ここを回すと音が出るよ」
「ふーん」と彼女は白い指でつまみを回した。
「あ、この曲知ってる。何だっけ?」
「“翼を下さい”だよ」
「ああ、そうだわ。翼を下さい…。いいわね。翼か…私も翼が欲しいわ。翼があれば飛べるのにね」
彼女はそう言って、夜空を見上げた。
―翼を失くした天使―
きっと飛べなくなって、僕の部屋に来たんだろう。
「ねえ、ケーキ、食べないの?」
「うん、ケーキ屋でバイトしててさ、実は見るのもウンザリなんだ」
「そう、じゃあ私が食べてあげようか。あ、そうだ!パーティしようよ。ワインとかビールとかガンガン飲んで騒ぐの。近所に聞こえるくらいにね」
「あ…お酒は…」
「ないの?」
「うん。あ、じゃあ買ってくるよ。コンビニすぐそこなんだ」
僕は上着を羽織って外へ出た。
彼女のためだと思えば、ちっとも寒くなかった。
コンビニでワインとチキンとサラダを買った。顔がゆるんでいるのが自分でもわかる。
部屋で待っている人がいる。そう思うと、帰りの足取りも軽くスキップしたい気分だった。
勢いよくドアを開けた。
「ただい…ま…」
彼女はいなかった。
テーブルの上に、オルゴールとケーキ。
ケーキのイチゴが3つなくなっていた。オルゴールが、忘れた頃に間抜けな音でピンッと鳴った。
イチゴが好きな天使は、翼をもらって飛んでいってしまった。
僕はその時、本当にそう思ったんだ。
***
数日後、賑わう街中で彼女を見た。
僕の天使は、男を腕を組んで歩いていた。
見覚えがある。あの男は、同じアパートの、僕の真上の住人だ。
確か、単身赴任の中年男。
なんだ、そういうことか…
彼女はあの男と不倫している。ふたりでイヴを過ごしていたら、突然奥さんが訪ねてきて、彼女はベランダに追い出された。
そして寒さに耐え切れず、手摺りを伝って僕の部屋のベランダに舞い降りた。
そんなところだろう。
まったく…。何が天使だ。
彼女の背中には、翼のかけらも見えなかった。
このお話は、矢菱虎犇さんからのお誘いを受けて書きました。
クリスマス競作企画です。
ちょっとしたお約束があって、クリスマスにちなんだ話であること・他のブロガーさんの話に出てくる登場人物やアイテムを話に入れること。
すごく楽しいですね♪
皆さん、力作ぞろいです。
宝箱のようなお話は、こちらからどうぞ。
http://blog.goo.ne.jp/kyosaku1224
ちなみに私がコラボしたのは、矢菱虎犇さんの『ホーリーナイト』とヴァッキーノさんの『プレゼント』です。
どんなお話かな~。
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2010-11-26 00:20
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コメント(16)
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わあ、ステキ、ステキ!
天使ってイタズラしちゃうからなぁ、
不倫相手そっくりとかしちゃって僕の目をうまく欺いたけど、
天使、ホンモノのエンジェルなんですよ~
ピボピボッ(森永のCMの最後のアレ)
僕はなんつっても、
オルゴールが、忘れた頃に間抜けな音でピンッと鳴った。
が好き!こんな表現が僕も使いたい、あるはい使えるようなちゃんとした文章が書きたいなぁ。
りんさん、ありがとうございます。
リンクしますね!
by 矢菱虎犇 (2010-11-26 07:18)
しかし、凄まじい勢いで、クリスマス競作企画に作品がドシドシ集まってきますね!
ちょっと目を離してる隙に、すごいことになってるじゃないですか~。
おりんさんも書いたってんで、すっ飛んできましたあ!
いやあ、ボクは翼がはえててよかったです(笑)
そんなこんなで、だからこの天使は、ガンガン盛り上がりたかったんですね。
こんなことがあったら、いいなあ。
それにしても、この上に住んでる男は、サイテーな奴ですね。
それでも、また腕を組んで歩いてるってんだから、よっぽどイイんでしょうねえ。
それでは、また!
パタパタパタパタ~(飛んでいく音)
by ヴァッキーノ (2010-11-26 19:13)
<矢菱さん>
あくまでも天使を信じる気持ち、わかりますよ~。
でも、この女は意外と悪魔かも…^^
最初は、不倫相手の男性が迎えに来るっていう設定を考えていたんです。
でも矢菱さんの『ホーリーナイト』を読んで、翼をもらって飛んでいった というふうに変えました。
いや~、今回の競作は本当に楽しいですね♪
by リンさん (2010-11-27 00:17)
<ヴァッキーノさん>
ありがとうございます。
競作すごいことになってますね。
特に、ヴァッキーノさんの『プレゼント』 続編の続編?ふろく?すご~い!!楽しいですね。
ええ?ヴァッキーノさん、翼持ってるの?
いいなあ。私も飛びたいです~^^
by リンさん (2010-11-27 00:21)
競作企画なんですか^^ いろんなことにチャレンジしてるんですね♪
>オルゴールが、忘れた頃に間抜けな音でピンッと鳴った。
この一文が とってもnice! です~(〃∇〃)
by めりー (2010-11-27 01:23)
りんさんすごいところを突いてきましたね。
女は、天使か堕天使か・・・?!
さぁ、女性としてはどちらも選びがたい女心ですよね。
『エンジェル』が繋がって行ったら・・・
どちらの天使が最後に顔を見せてくれるのでしょうか
楽しみ、楽しみで~す。
by haru (2010-11-27 11:13)
皆様も言われていますが、オルゴールの表現がいいですねえ。
でもそれよりも、私ならファンタジーのままでとじちゃうようなところを、
一気に現実へと引き下ろす、この感覚が好きですーw
だからこそ近しい感じがして・・・・・・vV
自分もこんな経験しちゃうんじゃないかって、不安と期待感を抱かせられますね。
いえ、不倫はしないですけどw
by 愛輝 (2010-11-27 19:14)
<めりーさん>
競作に誘っていただくようになって、楽しみが増えました。
今まで交流がなかった方のお話しも読めていいですよ^^
オルゴールの音を表わすのに、「ピンッ」でいいかな?とちょっと悩んだんです。受け入れてもらえてよかった^^
by リンさん (2010-11-28 00:54)
<haruさん>
ありがとうございます。
>天使か堕天使か… そうですね。みんなふたつの顔をもっているかもしれませんね。
エンジェルが繋がってくれたら、嬉しいですね^^
by リンさん (2010-11-28 00:58)
<愛輝さん>
ファンタジーで終わったほうが、この男の人にとっては幸せでしたね。
来年は、本当の天使と恋に落ちて欲しいものです^^
たしかに、現実にないとは言えない話ですね。
by リンさん (2010-11-28 01:03)
りんさんのエンジェルに私のblogにも登場してもらいました。
締めくくりは、りんさんのエンジェルが、とってもいいなぁって
思ったので。(勝手にスミマセン)ここから、またエンジェルに
羽ばたいてもらいたいナァ~なんて思ってます。
by haru (2010-11-28 10:54)
<haruさん>
ありがとうございます。
どんな風に登場するのか楽しみです。
さっそくうかがいますね^^
by リンさん (2010-11-28 22:08)
もう12月ですね。早いー。
そして またまたお願いです。
こちらの作品 12月のさとる文庫のクリスマス企画で朗読させて
いただきたいのです。
よろしくお願いいたします。m(__)m
by もぐら (2011-12-03 19:37)
<もぐらさん>
クリスマス企画ですか。
楽しそうですね。もちろんOKですよ。
ぜひお願いします^^
by リンさん (2011-12-03 23:06)
いつもありがとうございます。
よろしくお願いいたします。m(__)m
by もぐら (2011-12-04 23:34)
ありがとうございます。
さとる文庫 配信しました。
よろしくお願いいたします。m(__)m
by もぐら (2011-12-18 12:00)