ゆきおんな

雪山で助けた、あの男のことが、あたしは忘れられない。
そりゃあ、あたしは妖怪だから、きっとあの人を怖がらせただろう。
「私のことを誰かに話したら、殺すよ」なんて、心にもないことを言ったりした。
殺したいほど好きなのは、事実だけどね。

妖怪と人間の恋が、許されないのはわかっている。
だけどひと目だけ、ひと目だけでも、逢いたかったんだ。

ひどく寒い夜、あたしは吹雪といっしょに里に下りた。
人間の女に化けて、あの男の家を訪ねた。

「すみません。この吹雪で道に迷ってしまいました。ひと晩泊めていただけないでしょうか」
「どうぞどうぞ、ひと晩と言わず、何日でも泊まってください」
ああ、やっぱり思ったとおり優しい人。
「お食事は食べました？簡単なものなら作れますよ」
「まあ、そんなお食事なんて、けっこうですわ」
「そうですか。じゃあお部屋にご案内します。あ、お風呂は10時までですからね」
「……？」
「いやあ、最近スキー客が減っちゃってね、部屋はがら空きなんですよ」
「あの～、ここって？」
「え？ペンションですけど？看板かかっていたでしょう。『ペンション・スノーレディ』って」

ペ・ペンションって何？おかしい。たしかにこの男だ。間違うはずがない。

「あの、つかぬ事をうかがいますが、雪山で遭難したことは？」
「え？オレですか？ないですよ。オレ、寒いの苦手だから雪山なんか行きませんよ。
あ、そういえばオレのじいちゃんが雪山で遭難したって言ってたな。
もう５０年も前の話ですけどね」
「ご、５０年？」
「その時じいちゃん、すごくきれいな女の人に助けてもらったそうです。
ほら、ここら辺って雪女の伝説があるでしょう。だからみんなで、それは雪女だって言ったんですよ。
だけどじいちゃん、『雪女があんなに優しい女のはずがない』って言い張ってね。
惚れてたのかな…。ときどき懐かしそうに山を見ていたな…
あれ？お客さん？あれ？いなくなっちゃった。
しまった。雪女の話なんかしたから逃げられちゃったかな」

あたしは、雪山に帰った。
『優しい女』と言ってくれた。
あんたのその言葉を胸に、ここでずっと生きていくよ。
100年先も、ずっとあんたを忘れない。


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コメント 19

最初、まったく勘違いして読み進めてましたよ。
雪女と雪男の恋かと思ってたんです。
で、そう頭っから決めつけて読んだでたんで、
なんか変だなあって。
そしたら、読み違ってました。
妖怪って、たいへんですねえ。（なんかコメント変ですね(笑)）
by ヴァッキーノ (2010-11-30 20:09) 

浦島太郎のお話を思い出すまでもなく、人間時間と妖怪時間が同じなはずはないですもんねぇ。
僕は「雪女のおんがえし」かと思いました。
「決して見てはいけませんよ」と奥の部屋にこもっては、「かき氷」を作って男に食べさせる話。
男が頭の横のところがキーンとして、アイスクリーム頭痛をおこしても、ひたすらかき氷。男の舌がイチゴの合成着色料で真っ赤になってもかき氷。
おそまつ！シュタタタタタ（逃）
by 矢菱虎犇 (2010-11-30 20:30) 

世代を超えた愛ってしばし映画とかで観ますけど、自分でそういうのが
でるとわかっていてもこういうのには、なんというかキュンときてしまうのですよねー。
この話、その時間軸が違くて、やっと巡り合えたのに、求めていた人に出会えない。しかし、向かった先でその人の痕跡に触れられる。最高に切ないはずなのに最高にうれしい、そういう感情が描かれて凄いです。

by hiro1468 (2010-11-30 22:06) 

わっ！切ない女心ですよねぇ。雪女だってやはりオンナ。
『優しい女』と言ってくれた・・・あんたのその言葉を胸に。。。
涙・涙・涙なくしては、読めない（グシュン）

りんさん。どこクリックしたらいいのですか？ショート・ショート？
gooblogよくわからないけどクリック。(グシュン)

by haru (2010-11-30 22:18) 

こんばんは！

100年先も、ずっとあんたを忘れない。

この最後の締めの言葉！いいですね！
唇を噛み締めたゆきおんなが、脳裏に浮かんできます。

永遠の片思い…なんとも切ない物語ですが、やはり人間も妖怪も恋をすれば純粋な気持ちになるんでしょうね！
by 星鉄 (2010-11-30 22:45) 

人間と雪女の寿命の違いが産んだ悲劇（悲劇ですよね）ですね。
こいうアイデアはＳＦではよく使われます。
光速に近いスピードで、恒星間飛行して、地球に帰還。相対性理論で、地球と、宇宙船とに時間のズレが。宇宙船内では数年だけれど、地球では何十年も経っていた。
by 雫石鉄也 (2010-12-01 10:06) 

＜ヴァッキーノさん＞
雪女と雪男の恋ですか？
フフ、そっちは簡単に成就しそうですね＾＾
まあ、雪男は遭難しないから、出会うこともないですね（笑）
by リンさん (2010-12-01 15:47) 

＜矢菱さん＞
ご飯もおかずもかき氷。
それって拷問ですね（笑）　面白いな～
いくら美人でも、「帰ってくれ」って追い出されますね＾＾
by リンさん (2010-12-01 15:50) 

＜hiro1468さん＞
ありがとうございます。
切ない感じが伝わってもらえたら嬉しいです。
時空を超えた愛って、哀しい結末が多いですね。
犬夜叉は最後結ばれたけど（漫画だからね＾＾）
by リンさん (2010-12-01 16:00) 

＜haruさん＞
ありがとうございます。
そんなに感動してもらえるなんて…。
あ、こっちもうれし泣き…（グシュン）

クリックは、ショートのところをポチっとして頂けるとうれしいです＾＾
by リンさん (2010-12-01 16:03) 

＜星鉄さん＞
ありがとうございます。
雪女って、原作もけっこうラブストーリーだと思うんですよ。
人間に化けて男と結婚した雪女は、けっきょく男を殺せなかったんですよね。妖怪にも、情があるってことですかね。
by リンさん (2010-12-01 16:06) 

＜雫石鉄也さん＞
宇宙時間と地球時間は、確かに違うでしょうね。
いろいろな悲劇が生まれそうです。
まさに浦島太郎みたいですね。
by リンさん (2010-12-01 16:10) 

はじめまして♪
りこと申します。
サイトーさんのブログからやってきました。
素敵なお話がいっぱいでわくわくです。
５０年とか１００年って、人間にしたら長いけど。。。
それって、相対的なものですもんね。
。。。面白く読ませいただきました。
また、遊びに来ます。

すっごく勉強させていただきました。
ありがとう！！！
by りこ (2010-12-02 10:14) 

＜りこさん＞
コメントありがとうございます。
私もサイトーさんのブログでりこさんのお話読みました。
すごく可愛くて優しいお話ですね。
ブログはやってないのかしら？
他のお話も読んでみたいです。

＞勉強させていただきました…いえいえ、こちらこそ、勉強させていただきましたよ＾＾　ありがとうございました。
また来てね！
by リンさん (2010-12-02 17:48) 

りんさん。。。
すみません。
今、ミクシィしか動かしてないので（汗）
ここは、素敵な作品を載せられている方が多いので
ブログを開設しようかどうしようかと。。。検討中です。

また来ますね。
よろしくお願いします。
by りこ (2010-12-02 21:35) 

＜りこさん＞
ブログ開設したら、ぜひ教えてくださいね。
ヨロシクです＾＾
by リンさん (2010-12-03 09:35) 

むちゃくちゃいいと思います。
特に最後の１行が効いていますね。
この作品をぼくのブログに掲載できたら、ブログの格も上がると思うのですが、お許しを願えれば幸いです。
よろしくです!
(お礼に……といっても、大したお礼はできませんが、りんさんの作品の素晴らしさの宣伝をさせていただきます（笑））
by サイトー (2010-12-03 23:33) 

＜サイトーさん＞
ありがとうございます。
最後の1行は、下書きのときはなくて、PCにアップしたときに何となく付け足したんです。
そういうのが、思いがけず気に入ってもらえることって、ありますよね＾＾

サイトーさんのブログで紹介して頂けるなんて嬉しいです。
おかげで、りこさんとも交流が出来たし。
よろしくお願いします。
by リンさん (2010-12-04 18:03) 

＞りんさん
ブログでの承諾ありがとうございます。
さっそくブログにＵＰいたしました。

＞サイトーさんのブログで紹介して頂けるなんて嬉しいです。
＞おかげで、りこさんとも交流が出来たし。

こちらこそ恐縮です。
いろいろなひとの作品を紹介して、交流の切欠をつくれたらと思います。
これからもよろしくお願いします！
by サイトー (2010-12-05 19:40)