プレゼント

約１年ぶりに、みゆきから電話があった。
「ねえ、明日はバレンタインデーでしょう。私、あなたにプレゼントをあげたいんだけど」
「え？そんなのいいよ。だって、僕たち別れたんだし」
「あら、あなた別れるとき何て言った？友達に戻ろうって言ったでしょう。
だから、友達としてのプレゼント。今流行の友チョコよ」
「友チョコねえ…」
「私、あなたと付き合ってた時すごく楽しかったから、感謝の気持ちよ。明日田舎に帰るの。だから、これが本当の最後。気持ちにけじめをつけたいのよ」

みゆきの気持ちはよくわかる。
一方的に別れを切り出したのは僕だから、未練が残っていても無理はない。
僕は、みゆきの気持ちを考えて、受け取ることにした。

「わかった。もらうよ」
「よかった。じゃあ明日家に行くわ」
「いや、明日はちょっと…」
「そっか。新しい彼女が来るのね」
「うん、まあ…。ごめん」
「別に謝ることじゃないわ。もう別れたんだもん。大丈夫よ、プレゼントだけ置いたら帰るわ」
「いや…彼女と外で食事してから、一緒に帰る予定なんだ」

「そう…わかった。じゃあ、鉢合わせしないように、あなたが帰ってくる前にプレゼント置いてくる。平気よ、合鍵で入るから」
「合鍵？」
「うん、うっかり返すの忘れていたの」
「そうだっけ？」
「うん、大丈夫よ。本当にプレゼントだけ置いたら帰るわ。鍵は郵送するね」

「ねえ、そのプレゼントって変なものじゃないよね」
「いやだ。何疑っているの。すごく可愛いものよ。彼女も気に入ると思うわ」
「インテリアとか？」
「まあ、そんなところね。本当は直接渡したかったけど、会わない方がいいのかもね」
「うん。田舎に帰っても元気でね」
「ええ、あなたも元気でね」

みゆきは、明るく「さよなら」と言って電話を切った。
田舎に帰ってやり直すのか。それもいいかもしれない。僕は、みゆきの幸せを祈った。

翌日、新しい彼女と食事をして、一緒に家に帰った。
「部屋を片付けるからちょっと待って」と、彼女をドアの前に残して部屋に入った。
みゆきのプレゼントを確認する必要がある。手編みのセーターの可能性もある。
彼女に見られてまずいものなら、押し入れにでも隠せばいい。

リビングには、電気と暖房がつけっ放しだった。
まさか、みゆきがまだいるのか…？
僕は、おそるおそるドアを開けた。

中には、みゆきはいなかった。
そして真ん中に、みゆきが置いて行ったプレゼント。
それは…
かごに入って、スヤスヤ眠る赤ん坊…。
その寝顔は、僕にそっくりだった。

添えられていた手紙に、赤ん坊の名前と生年月日。
身に覚えは…もちろんある。

僕は、力が抜けてその場に座り込んだ。
「ちょっと、寒いんだけど。早く開けてよ」
彼女がドアをドンドン叩く音に、赤ん坊が泣きだした。
僕も泣きたかった。


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コメント 18

「すごく可愛いものよ」の時点でプレゼントが判ってしまい
思わず「げげっ」と言ってしまいました。
彼女はこのエンディングを描いて子どもを産んだのでしょうか。
あな、恐ろしや。

by 浅葱 (2011-02-13 18:14) 

浅葱さんには判ってしまった様ですが、僕には全くわかりませんでした。
これって女性と男性の違いですか？
ほんわかほのぼのと言うイメージの、りんさんの作品を読む時は、こんなブラックな結末になるなんて言うのは予想していないからかもしれませんね。
油断しちゃったか～
しかし、きっちり面白くまとまった良い作品だと思います。
by 海野久実 (2011-02-13 20:23) 

うわぁ～現実にありそうで怖いお話ですね。
でもプレゼントってなんだろうって予想がつきませんでした。^^;
by ナビパ (2011-02-13 21:01) 

ラブストーリーだと思って読みはじめましたが。。。
ホラーでしたね。(^w^)ぷぷぷ・・・

赤ちゃんだとわかった瞬間
ニヤリとしてしまいました。

ブラックな展開もいいですね。結構好きかも。
ｸｽｸｽ(´艸｀o)ﾟ.+:
by 春待ち　りこ (2011-02-13 22:24) 

キャー！りんさんの作品だと思うと　よけい怖いのは私だけ？
りんさん　最近なんかあった？
悩みがあるなら相談に乗りますよ。

な～んて思わず心配してしまうほどよくできたお話です。
ブラックりんさん　降臨中。
by もぐら (2011-02-13 23:26) 

私は、オチが判りませんでした。ちょっとした衝撃でした。
しかし、男として感想がいいにくい作品ですね。
恐いですね、といえば、みゆきが悪役になって、ぼくが被害者になります。そうですと、子供をはらませるだけで、責任を取らない、無責任男の肩をもつことになります。そうすると、私は世のご婦人方を敵に回すことになります。こういう事態は絶対にさけたいです。
どういって、感想をいえばいいのでしょう。
by 雫石鉄也 (2011-02-14 10:39) 

怖いですねぇ～！恐ろしいですねぇ～！

でも……当然と言えば当然ですよね。
みゆきは、ウソは言っていないのですから、
確かに赤ちゃんてすっごく可愛いい。
気持ちにけじめをつけ、田舎でやり直すのですから。
みゆきはしっかりと、けじめをつけたのでしょう。

　(・_・)エッ....?男の気持ち？
そんなのにかまっている場合ではないですよね。(￣ー￣)ﾆﾔﾘ

すごいなぁ～。りんさんカッコイイ！！
by haru (2011-02-14 11:52) 

たしかに、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるなんて言いますけど
まさか、こんな！
こうなったら、この男が、次に入ってくる女に
「僕からのプレゼント」
って、赤ちゃんを渡すしかない！
ダメかあ！
by ヴァッキーノ (2011-02-14 22:07) 

＜浅葱さん＞
わかっちゃいましたか（笑）
計画的だったら、本当に怖いですね。。。
by リンさん (2011-02-15 18:38) 

＜海野久実さん＞
ありがとうございます。
そうか、男性と女性で、感じ方が違いますよね（当然だけど）

たまにブラックも書いてみたりします。
油断大敵です（笑）
by リンさん (2011-02-15 18:44) 

＜ナビパさん＞
こんなプレゼントもらったら、怖いですよね。
でも、見てるうちに可愛くなって、幸せになれる？かも＾＾
by リンさん (2011-02-15 18:45) 

＜りこさん＞
ふふ…ある意味ホラーですね＾＾
この後どうなるんだろう…って想像させる終わり方って、結構好きです＾＾
by リンさん (2011-02-15 18:48) 

＜もぐらさん＞
なんにもないですよ～（笑）
たまに、こういうホラーを書きたくなるんですよ。ヒヒヒ
心配してくれてありがと(^○^)
by リンさん (2011-02-15 19:26) 

＜雫石鉄也さん＞
感想が言いにくいと言いながら、コメントありがとうございます。
私は、母親目線で読むと、赤ちゃんを置いていくのはちょっとひどいな、と思うのです。
だからみゆきは、田舎に帰ると言いながら実は近くで復縁の機会を狙っているとか。そういう結末にしたらどうでしょう。
そこまで書けばよかったですね＾＾
by リンさん (2011-02-15 19:31) 

＜haruさん＞
haruさんこそカッコいいわ～＾＾
赤ちゃんを押し付けられた男の人って、すごい動揺ですよね。
でも自分に似てると思ったら可愛くなるかな？
男の気持ちは…わかりませんねえ＾＾
by リンさん (2011-02-15 19:33) 

＜ヴァッキーノさん＞
あ、そのオチいいなあ。
彼女が「あれ？あたし産んだっけ？…って誰の子だよ！」とか、ノリツッコミしてくれるといいですね。（ありえないって）
by リンさん (2011-02-15 19:35) 

堂々と言い訳する。

ここにキャベツを置きっ放しにしてたんだけど、
妙に大きなキャベツだったから突然変異で生まれたんだね！
よかった、これで子育ての練習ができるよ！

バチッン！　やれやれ

by 銀河径一郎 (2011-02-17 01:04) 

＜銀河径一郎さん＞
キャベツ太郎ですか（笑）
そんな言い訳が通用するほど、女は甘くないですぜ。ホホ＾＾
by リンさん (2011-02-17 18:58)