シンデレラの野望：りんのショートストーリー：SSブログ

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シンデレラの野望　[名作パロディー] [編集]

さっきね、親切な魔法使いがやってきて、ボロボロの服を素敵なドレスに変えてくれたの。
それからネズミとかぼちゃを馬車に変えてくれたのよ。
これでお城の舞踏会に行けるわ。
だけどね、１２時を過ぎると魔法が解けてしまうんですって。
食べ放題のバイキングじゃあるまいし、時間制限なんてしょぼいわね。
まあ、とにかくお城に行って１２時までに王子様を落とさなくちゃ。
ぜったい玉の輿に乗ってやるわ。意地悪な継母と義姉様を見返してやるのよ。

お城の門番は、すぐに中へ入れてくれたわ。ボロボロの服だったら門前払いだったわね。
人を見かけで判断する最低の奴らだわ。
ホールには、きらびやかなシャンデリアがあって、華やかなダンスが繰り広げられていた。
それに、豪華なお料理がたくさん。まずは腹ごしらえよ。
ローストビーフにケーキにテリーヌ。ワインも頂いちゃおう。

おなかが一杯になったところで、王子様を探したの。
派手な女たちに囲まれている、あの人がそうね。よかった。わりとイケメンだわ。
あたしは、王子様がひとりでバルコニーに出たのを見つけると、すぐに後を追ったわ。
「王子様、わたくしと踊っていただけませんか？」
「あん？誰だお前？見かけない顔だな」
「誰だっていいでしょう。こんないい女が誘ってるのよ。早く行きましょう」
「ふん。どうせ玉の輿狙いだろう。女はみんなそうさ」
あらら…。意外とひねくれてるのね。

「玉の輿に乗りたいなら、おやじとおふくろに取り入ればいいだろう。どうせ結婚相手は親が決めるんだ」
「そうなの？なあんだ。それで、お父様とお母様はどこにいるの？」
「お前、現金だな」
「だってお城で暮らしたいんだもん。玉の輿、上等よ」
「ふん。お城の暮らしなんて退屈なだけだ」
「あんたねえ。毎日おいしいもの食べて贅沢できるのが、どれだけ幸せかわかんないの？町に出てごらんなさい。明日の食事にも困る人がいっぱいいるわ。そんなにお城が嫌なら家出でもすれば？あんたに庶民の暮らしが出来るとは思えないけどね」

ああ…言いたいこと言っちゃった。ワインのせいかしら。
もう帰らなくちゃ。１２時１０分前だわ。
「あたし帰るわね」
くるりと背を向けたら、王子様が「待てよ」とあたしを呼び止めた。
「まだ話が終わってないだろう」
「だめだめ。１２時までに帰らなきゃいけないの」
王子様があたしの腕を掴んだから、あたし思わず靴を片方脱いで投げつけたの。
ガラスの靴よ。
そして王子様が怯んだ隙に逃げて帰ったの。
だって１２時過ぎると、馬車がかぼちゃに戻っちゃうのよ。この夜道を歩いて帰るなんてまっぴらよ。

家の近くで、魔法は解けた。素敵なドレスはボロボロになり、馬車はかぼちゃとネズミになっちゃった。
だけどね、靴だけは魔法がかかったままだったの。きっと片方をお城に置いてきたせいよ。王子様の持ち物になったから魔法使いも手を出せなかったのかしら。
玉の輿は夢と散ったけど、ごちそうが食べられたからよかったわ。

翌日、ガラスの靴を持った王子様が家に来たの。
「この靴の持ち主を探している」
ああ、やばい。あたしの靴だわ。さんざん失礼なことを言ったから怒ってるのね。見つかったら牢屋に入れられるかも。
バカな義姉様たちは嬉しそうに靴を履いているわ。まあ、ゾウみたいな足に履けるわけがないけどね。
「もうひとり娘がいるだろう」
「いますけど…あの子はお城など行ってませんよ」
「いいから連れてこい」
…ああ、もう終わりだわ。
あたしは王子様の前に立った。すっぴんだから気づかないと思うけど、靴は当然あたしの足にぴったりとはまった。

「おまえ、きのうの女だな」
王子様はそう言うと、懐から大きな指輪を出した。
「結婚してください」
「はい？結婚？あたしと？」
「おまえとなら、退屈しないで暮らせそうだ」
「でもあたし、ご両親に気にいられる確率は極めて低いわよ」
「そういうのも面白い」

何故かしら。きのうお城で見た王子様より、いい男に見えるわ。
あたしは王子様に手をひかれ、本物の馬車に乗った。
きっと幸せなプリンセスになるわ。

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2011-09-29 19:22 nice!(7) コメント(24) トラックバック(0)

nice! 7

ぷふっ！きゃはは！私は、りんさんのこういうお話大好きです。
シンデレラの野望とは。ビックリ！どうしてこんな事が思いつくのでしょうか（笑）
また、朗読させてもらいたいなあ。ああ画像が難しそう。
by haru (2011-09-29 20:12)

りんさん、
最後は裸足で窓から飛び出すとか、もうひと波乱あるかと。。。でも、おもしろいです。
現実的で冷めたシンデレラ。でも、これだけしたたかなら、家でも天下をとっていそうな気がしますけど。
by 川越敏司 (2011-09-29 20:49)

本物のシンデレラより。。。本物っぽい！！！
この人間臭いシンデレラ。。。最高です。
思いっきり笑ってしまいました。
こんなシンデレラなら、お城で暮らしても
きっと、素敵な人生が送れるでしょう。
王子様もなかなか魅力的♪

楽しみました。ありがとっ♪
by 春待ち　りこ (2011-09-29 22:36)

『ぶっちゃけシンデレラ』っていう感じが面白いですね！
だってコレ、お話が大筋で童話のまんまじゃないですか。
このお話のシンデレラや王子を優等生っぽくアレンジして、ガラスの靴を投げつけたんじゃなく落としたことにしちゃえば、よく知られている『シンデレラ』が成立しちゃうわけですもん。なんか実話の映画化で、フツーのオッサンがブラピに変更！みたいな可笑しさっす。
by 矢菱虎犇 (2011-09-30 04:29)

ストーリーはそのままで、心で思っている事が全然違う。
パロディーを書くとき、この手法、なかなか良いですね。

ところで、彼女はしっかりした王妃になりそうですが、まかり間違っても白雪姫のお母様だったと言う事にはならないでほしいですね。
by 海野久実 (2011-09-30 08:29)

なんて親しみのもてるシンデレラ！
王子様も、嫌味なやつかと思えばいい感じにドライで、
いいなあ。こんなパロディ集がほしいかもしれませんｗ
by 愛輝 (2011-09-30 12:35)

＜haruさん＞
ありがとうございます＾＾
朗読してくれるんですか？めっちゃ嬉しいです♪
画像はharuさんのコスプレでどうですか？（笑）
by リンさん (2011-09-30 17:31)

＜川越さん＞
今回はいちおう原作に忠実に（？）書いたので、最期はやっぱりハッピーエンドにしてみました。
だけど結婚してからは一波乱も二波乱もありそうですね。
by リンさん (2011-09-30 17:34)

＜りこさん＞
いつもありがとうございます。
シンデレラの話って、結局シンデレラがきれいだから王子様が惚れちゃったんでしょう。
それってどうなの？って思いませんか？
こっちの方がリアルですよね（笑）
by リンさん (2011-09-30 17:39)

＜矢菱さん＞
ありがとうございます。
思いっきりぶっちゃけてみました。
フツーのおっさんがブラピに変更？なんですか、それ？
たしかにフツーのおっさんでは誰も見ませんね＾＾
by リンさん (2011-09-30 17:50)

＜海野久実さん＞
シンデレラの本音です（笑）
こういうのを考えている時がいちばん楽しいんですよ。

シンデレラが鏡を見て「いちばん美しいのは？」とか言うんですか？
それも面白いですね＾＾
by リンさん (2011-09-30 17:53)

＜愛輝さん＞
王子様に毒舌を浴びせて玉の輿なんて、上手くいきすぎですね。
でも、実際そういう女の子が新鮮だったのかも。
花より男子の道明寺もそうでしょう？（笑）
by リンさん (2011-09-30 17:59)

さすが！リンさんのお話は本当に面白いですね。
童話でも、隠された本音で現代的に綴ったら、こういう事ですよね。
次回は、何のパロディなんだろう？期待してます！ワクワク！
by かよ湖 (2011-10-01 00:24)

りんさん、たった今、朗読・動画UPしましたよ。りんさんの
イメージのシンデレラに少しでも近づいいるでしょうか？

＞画像はharuさんのコスプレでどうですか？（笑）
こら！
by haru (2011-10-01 16:16)

白雪姫のディズニーアニメが好きで、
何度も観るんですけど、
シンデレラってのもありましたね。

おりんさんのガラスの靴に関する解釈が素敵です。
＞王子様の持ち物になったから魔法使いも手を出せなかった
なるほど。
そういうことだったんですねえ。

ボクも男シンデレラになって、ヒモになりたい！
by ヴァッキーノ (2011-10-02 12:21)