長袖が欲しいぞ：りんのショートストーリー：SSブログ

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長袖が欲しいぞ　[コメディー] [編集]

ああ…今月も赤字だ。
こんなことなら養育費もらえばよかった。
とにかくすぐに別れたくて、慰謝料も養育費も請求しなかったなんて、バカだ、私はバカだ。
正社員にしてくれると言った店長は、最近逃げ腰だし、シフトは減らされるし。
別れた夫に頼るのはプライドが許さない。ああもう！どうすりゃいいのさ。

「ただいまんとひひ！」
「あら、お帰り太郎」
「母ちゃん、長袖の体操服買っておくれよ。半袖はおいらだけだぞ」
「去年のがあるでしょう」
「もう着られないよ。おへそが出ちゃうぞ」
「そのくらい我慢しなさい」
「やだやだ！長袖買っておくれよ。長袖買っておくれよ～」
「ない袖は振れないんだよ！さっさと宿題やりな」

　＊

母ちゃんはホントにケチだな。最近お菓子も買ってくれないぞ。
父ちゃんと離婚したからだ。
離婚の原因なんだっけな。たしか…せいかくのすいっち？
そうだ！母ちゃんがダメなら父ちゃんに買ってもらおう。
おいら、父ちゃんの会社知ってるぞ。今から行って来よう。
自転車で行けば３０分で着くぞ。

「着いたぞ～」
「いらっしゃいませ。あら、坊やひとり？」
「おばさん、おいらの父ちゃんいますか？」
「お父さんの名前は何かな？おねえさんに教えて」
「吉田だぞ。おばさん」
「吉田さん？ああ、顔の濃い人ね。今営業に出てるわ。おねえさんが連絡とってあげるわね」
「ありがとう。おばさん、いい人だぞ」
「おねえさんだっつってるだろ！今度おばさんって言ったら殴るよ」

　＊

ああ…今月の営業成績最下位だ。また部長に嫌味言われるな。
会社帰りたくないな。だいたい生活に張り合いがないんだ。
家庭があるときはやりがいもあったけど、離婚しちゃったもんな。
離婚の原因、いまだにわからないんだよな。オレ、何かしたかな？
再婚でもしようかな。いまさらめんどくさいな～。
♪♪♪
「はい、吉田で～す。え？息子の太郎が会社に来てる？何しに来たんだろう。あ、代わってください」
「父ちゃん、お久しぶりの照り焼きだぞ」
「太郎、いったいどうした？」
「母ちゃんが長袖の体操服を買ってくれないぞ。ない袖は振れないんだと。なあ父ちゃん、袖振ると金が出るのか？」
「そうか。金に困っているのか。これは復縁のチャンスかも。よし太郎、父ちゃんに任せなさい。夜家に行くから」

その夜

「何だって？ホントに父ちゃんが家に来るの？」
「うん。きっと袖からお金出してくれるぞ」
「まさか、よりを戻そうとしてる？どうしてもと言うなら考えてもいいけど…。ねえ太郎、父ちゃん元気だった？」
「うーん、よくわからないぞ。おねえさんは元気だったけど」
「…おねえさん？おねえさんって誰？」
「父ちゃんのことを、濃い人って言ってたぞ」
「恋人？父ちゃんのこと、恋人って言ったの？」
「うん。いい人だぞ」
「じゃあ再婚の報告に来るのか？期待させてなんてやつ！どこまで私を袖にしたら気が済むのよ」
あれ？おいら何か間違ったかな？どうでもいいけど長袖の体操服、早く欲しいぞ。

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2011-10-06 00:00 nice!(5) コメント(14) トラックバック(1)

nice! 5

楽しいっすね～！なんかお話から元気をもらった気がします。
ポンポンと視点人物が変わっていくのが違和感がないどころか、思いがよどみなく伝わってさわやかに感じました。
ダジャレのジャブ攻撃にフトンがクスクス震えて、「濃い人」でフットンダ～になりました。
『ホテル・ハイビスカス』って映画、御存知でしょうか？チビッコが『イッテラッキョー！！』『タダイマンゴー！！』『オカエリンゴー！！』なんて叫ぶ、元気印ハートフル沖縄映画です。
by 矢菱虎犇 (2011-10-06 05:51)

願わくば誤解が解けて、
長袖もちゃんと買ってもらえますように。
by 浅葱 (2011-10-06 20:15)

なんだろう・・・・・・さすが家族ですね、といえばいいのか。
離婚自体は暗いはずなのに、明るくなってくるｗ
本当に、長袖買ってもらえるといいですね。
by 愛輝 (2011-10-07 00:59)

軽快に読めました。
りんさんはコメディもいけますね。
ところで、矢菱さんがおっしゃてる「ホテル・ハイビスカス」面白いですよ。TBしましたが、お勧めです。
by 雫石鉄也 (2011-10-07 04:37)

なんだか　小さい誤解が重なって離婚まで行っちゃたけど
ホントは仲がいいんじゃないの？って感じですね。
太郎くんがいい味だしてる～。
カギは太郎くんですね。

りんさんのこういうお話も大好き。
楽しかったです。

by もぐら (2011-10-07 16:07)

先ほど、わたしも作品をアップしましたよ！
影響されないように、他の人の作品は見ないで書きました。いつも悲劇やえげつない話ばかりではあきられてしまいそうなので、今回はラブコメにしました。

で、ようやく、りんさんの作品を見ました。クレヨンしんちゃんみたいですね！
視点がころころと変わって、ああ、そういうこと！　平渡さんと同様に、袖にまつわる表現のオンパレードですね。

わたしは最後にちょこっと使っただけです。今回もわたしの負けっぽいですね。
by 川越敏司 (2011-10-07 21:12)

僕もさっきアップしましたよ。
って、川越さんとは１日遅れですが。
さっそく川越さんにアドバイスをいただいて、ちゃっかり修正したりしました。
川越さんの作品とは違って、「袖」がストーリーに密接にかかわって来る作品です。

りんさんの作品はほんと、しんちゃんを思い出しますね。最後まで読んでもう一度読み直すと、この元夫婦のイメージとして、みさえとひろしの顔が浮かんでしょうがなかったです。

by 海野久実 (2011-10-09 00:26)