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エメラルド [ファンタジー]

昼下がりの公園で、不思議な少女と出会った。
吸い込まれるような美しい緑色の瞳をしていた。
15か16…もっと若いかもしれない。落ち葉の中に立っているのに、ずいぶんと薄着だ。

僕が包みを開けてサンドイッチを取り出すと、少女はその美しい目でじっと見た。
僕ではなく、サンドイッチを。
「ひとつ食べるかい?」
サンドイッチを差し出すと、少女は微笑んで受け取った。
「学校は休みなの?」
僕が尋ねると、少女は微かに首を傾げた。
言葉がわからないようだ。無理もない。この目の色を見ても、日本人ではないだろう。

少女はおいしそうにサンドイッチを食べた。
「おいしいだろう。妻が作ったんだ。妻は料理が上手でね」
少女はまるで聞いていなかったが、僕は続けた。
「妻は、まさか僕が公園で弁当を食べてるなんて思ってないよ。5日前にね、会社が倒産したんだ。社長は会社の金を持って逃げちまった。退職金もなしだよ。だけど妻にはまだ言っていない。心配をかけたくないんだ。心臓が弱いからね」
少女は2つ目のサンドイッチに手を伸ばし、満足そうに微笑んだ。

翌日も少女はいた。
「今日は焼き肉弁当だよ。食べてごらん。この玉子焼きも最高だよ」
少女はちょっと教えただけで、箸を上手に使いこなした。
「おいしいだろう。君は15歳くらいかな?本当なら僕にも、君くらいの子供がいてもおかしくないんだよ。妻の体が弱いからね、子供は諦めたんだ。まあ、子供がいない分、僕たちはお互いがとても大切なんだよ」
仕事はなかなか見つからない。妻のためにも、早く見つけなければ。

少女はいつのまにか弁当を平らげていた。
「おいしかったんだね。そうだ。明日から弁当を2つ作ってもらおう」
僕は夕方まで歩き回って家に帰ると、妻に言った。
「会社の後輩がさ、カップ麺ばかり食べているんだよ。悪いけど、可哀想な彼のために、もうひとつ弁当を作ってはくれないかな?」
「あらあら、毎日カップ麺じゃ可哀想ね。いいわよ、ひとつもふたつも同じよ」
妻は笑顔で言った。少し罪悪感を感じた。

翌日、少女はとても嬉しそうに弁当の包みを受け取った。
「ハローワークに行っても、いい仕事ってないな。妥協はしたくないけど、寒くなる前に仕事を決めないとな。君はそんな薄着で寒くないの?ハーブティーを飲むかい?」
僕がポットのお茶を注いであげると、少女は白い指でカップを包んだ。

そんな日が数日続いたある日、公園に行くと少女が空を見上げていた。
「空に何かあるのかい?」
少女が指さす方を見ると、ひとすじの光が見えた。
光は徐々に大きくなり、こちらに近づいてきた。
赤や緑のランプを点滅させて近づいてきたそれは、紛れもなくUFOだった。
僕は驚いて、みっともなく尻餅をついた。

UFOが少女の真上に来ると、少女は僕をまっすぐに見て、そして初めて言葉を話した。
話したというより、送ったという方が正しい。
僕は少女の声を耳ではなく、頭の中で聞いたのだ。
「いままで親切にしてくれてありがとう。プレゼントを受け取ってください」
少女はそう言うと、両手で瞼を押して、自分の片方の瞳を取り出した。
少女の右目は空洞になった。そしてその手に美しい緑色の宝石が乗っていた。
キラキラと光る少女の瞳は、まるでエメラルドだ。
僕の手にエメラルドを残し、少女は空へ消えていった。

帰りに宝石店で見てもらうと、それはとても高価な物だった。
売ってくれと店主は大金を示したが、売らなかった。
僕はそれを、迷わず妻にプレゼントした。「いつもおいしいお弁当をありがとう」と言葉をそえて。
「きれい」と妻は涙を流した。
それから妻は、毎日飽きもせずエメラルドをながめ、おいしい弁当を作った。
僕はようやく仕事を見つけ、もう公園で弁当を食べることはなくなった。

時おりあの公園に行って、少女の姿を探した。
すっかり寒くなった公園に、美しい迷子の宇宙人はもういない。

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海野久実

犬の散歩の時間は、お話の発想タイムなんですが、今日はりんさんのこのお話の続きしか考えられなかったです(笑)

このお話はこのまま終わるとは思えないんですよね。
少女の目から取り出された石はエメラルドに似てはいてもエメラルドではない。地球に存在しない宝石なんです(決めつけ)
それを見た宝石店の店主はどれほどそれを欲しかったでしょうか?
どうしてでも手に入れたいと後をつけたかもしれませんね。
ひょっとして盗みに入ったかも。
盗んだそれを誰かに売るんですが、その売った相手が腹黒いやつでどこで手に入れたかを聞き出す。
と言う風にどんどん事が大きくなってゆく。
最後にはどこかの国の諜報局まで登場させますか?
その緑の宝石はもの凄い可能性を秘めているわけですね。
その一つにその宝石を数日、身に着けていただけの主人公の奥さんの病気が回復していたんです。
また兵器に応用しようとしてもとんでもない物が出来ると言う感じ。
このままでは主人公とは関係のない話にどんどんなっちゃいそうなので、奥さんにはその石との間に強いきずなが生まれているとかですね。
すごい争奪戦の末に、それを持って逃げようとした飛行機が墜落して行方不明。
でも、奥さんにはその石のありかを感じる事が出来るんですね。
それで、それを軍事利用しようとする国や、金儲けに利用しようとする悪いやつらにも負けない力を持った本当に地球のための事を思っているある人物が主人公の前に現れて、その石を探しに行きます。
その石によって、明るい未来が開けそうな予感を感じさせつつ終わると言う、そんな感じですね。

これは長編になりますよー(笑)
by 海野久実 (2011-11-09 16:41) 

矢菱虎犇

言葉もわからない、エメラルド色の瞳の少女!
ボクなら会った時点で、『こいつナニモノだぁ?』、あっち行きなさい、シッシッ
だからその後の展開もなし。
毎日寂しく公園で昼飯を食べるだけ、って人生になるんだろうなぁ~シクシク

by 矢菱虎犇 (2011-11-09 20:04) 

川越敏司

むむむ! これは実話か? りんさんもだんなにお弁当を2つ作ったことがあるのか? 意味深だなあ。。。と思ったら、とんでもない方向に行きましたね。いきなり目を取り出されたら、ふつう逃げると思うのですが(^^;
お弁当が宇宙人の口にあってよかったですね。
by 川越敏司 (2011-11-10 07:38) 

海野久実

あ、これは「SF」ではなく「ファンタジー」カテゴリですね。
宝石店で見てもらうという場面があったために妄想が暴走しました(笑)
by 海野久実 (2011-11-10 12:07) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
すごい発想力ですね。こんな風に話を広げて行くのは楽しいですね。
この宝石で妻の病気が治るというのは、いいですね。
>妻が石を感じることが出来る…のところは、妻が作った弁当に反応するとかだと話も繋がって面白いかも(ちょっとコミカルになっちゃう)

カテゴリーは、SFにすると少女が宇宙人だとばれてしまうので、あえてファンタジーにしたんです。
本当はどちらでもいいんですけどね^^
by リンさん (2011-11-10 19:32) 

リンさん

<矢菱さん>
きっと少女がすごく可愛かったんじゃないですか?(笑)
ホームレスみたいな人だったら、私も逃げます(爆)
by リンさん (2011-11-10 19:36) 

リンさん

<川越さん>
実話じゃありませんよ~(笑)
夫が公園でお弁当食べてたら問題ですよ^^;
この話。目を取り出すっていう発想から始まったんです。
気持ち悪いですよね^^この人はたぶん腰を抜かして逃げられなかったんだと思います^^
by リンさん (2011-11-10 19:39) 

もぐら

お弁当がとっても美味しかったんですね。
命あるものには優しくしなさいってことですね。

ミドリ色の瞳。
ウルキオラみたい・・・。(・・;)
by もぐら (2011-11-10 19:43) 

春待ち りこ

いい話ですね~。
見返りを求めない善意が
こうした形で報われるタイプのお話は大好きです。
読んでいて、気持ちがいい!!!

きっとこのエメラルドは
澄んだ輝きをはなっているんでしょうね。。。
素敵♪
優しさは。。。国境を超える。。。
あっ。。。この場合、星境?も超えるんですね。( *´pq`)クスッ

楽しみました。ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2011-11-11 00:08) 

リンさん

<もぐらさん>
そうです。お弁当が美味しかったんですよ。
テーマは夫婦愛です。夫婦愛といえば愛妻弁当…か?
私も毎日作ってますが、宝石もらったことはありません^^

ウルキオラってなんやろう?って思ってググってみました。
マンガだったのね。知らんかったわ~(関西弁)
by リンさん (2011-11-11 18:49) 

リンさん

<りこさん>
ありがとうございます。
日本の昔話だと、お礼に小判とかもらって幸せに暮らすんだろうけど、この場合は夫婦愛がテーマなので、妻にプレゼントにしたんです。
美味しいものは宇宙共通?
愛は星境を超えましたね^^
by リンさん (2011-11-11 18:55) 

ケリー

とても暖かい心温まるお話しに
気持ちが穏やかになってきました。ちょっと嫌なことのあった日・・・
こんなお話を読ませていただき嬉しくなりましたよ!!

ちなみに私の誕生石はエメラルドです^^
by ケリー (2011-11-11 20:59) 

かよ湖

素敵なお話ですね。
そして、リンさんは色々なジャンルのお話を書けて、素晴らしいなぁ、と思います。
童話「幸福な王子」(だっけ?)を思い出しました。自分の瞳を失ってまで相手を想う気持ちの少女・エメラルドをお金に換えない僕、それぞれの未来はエメラルドのように輝いていてほしいですね。
by かよ湖 (2011-11-11 23:43) 

リンさん

<ケリーさん>
ありがとうございます。
そう言っていただけると大変うれしいです。
ケリーさん、5月生まれですか。
私の誕生石はダイヤモンドです^^
by リンさん (2011-11-14 21:14) 

リンさん

<かよ湖さん>
ありがとうございます。
読んで下さる方が飽きないように、毎回違うタイプの話を書くようにしています。楽しんでもらえて嬉しいです。

私利私欲に走らない彼らの未来は、きっと輝くと思います。
エメラルドみたいにね^^

by リンさん (2011-11-14 21:19) 

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