右手がやりました [コメディー]
私は、ベテランの万引きGメンだ。
お菓子コーナー、大きめのコートの女。あの女、絶対にやる。
女は右手でチョコレートを掴むと素早くポケットに入れた。
続いてガム、のど飴。慣れた手つきだ。
女が店を出るのを追って声をかけた。
「ポケットの物、お金払ってないよね」
なるべく優しく言いながら、女を事務室に連れてきた。
店長と私を前にして、女はひどくうなだれていた。
そして右手をじっと見てから言った。
「すみません。わたしが至らないばっかりに、わたしの右手がとんでもないことを…」
「はあ?」
「右手には、わたしからよく言い聞かせますので、お許しください」
「あなた何言ってるの?右手が勝手にやったとでも言いたいの?」
「はい。右手が勝手にやりました」
「あのね、あなたの右手は、あなたの意志で動いてるんじゃないんですか?」
「普段はそうですが、時々言うことを聞かなくなるんです。ホントに困った子…いや、困った手です」
私と店長は顔を見合わせた。この女、どうかしている。
らちがあかないので、女の夫に連絡して来てもらいことにした。
しばらくして夫が、血相を変えて事務室に飛び込んできた。
「バカヤロー」
と夫は女の右手をぴしゃりと叩いた。
「おまえが甘やかすから、右手のヤツがつけあがるんだ!」
「まあまあ、ご主人落ち着いて」
「ああ、店長さん、すみません。妻の右手がとんでもないことを」
ああ…、こいつもどうかしている。
「妻は右手が可哀想だと、冬には洗い物をしないんです。その上クリームをたっぷり塗って寝るんですよ。手袋でガードまでしてね。そんなふうだから、右手はすっかり過保護に育ち、こんなことを…。本当に、なんてお詫びしていいか」
「意味がわかりませんが…」
「いえね、僕も悪いんです。婚約指輪に結婚指輪。左手にばかり贈り物をしました。えこひいきと言われても仕方ない。右手がひがむのも無理はないんです」
「…関係ないと思いますが」
「とにかく、僕たち家族でよく話し合いますから、今回のことは大目に見て下さい」
夫婦は何度も何度も頭を下げた。
心なしか、女の右手も反省しているように見えたり見えなかったり…。
何より私と店長がひどく疲れてしまったので、「二度としない(させない)」と約束させて夫婦を帰した。
「やれやれ、何だかうまくごまかされたような気がしないでもないな」
と店長が頭をかいた時、私の右手がうずうずと動いた。
気づくと私の右手は、店長の頭からカツラをむしり取り、窓から投げ捨てていた。
「な、何をするんだ!君は!!」
「すみません。右手がやりました」
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お菓子コーナー、大きめのコートの女。あの女、絶対にやる。
女は右手でチョコレートを掴むと素早くポケットに入れた。
続いてガム、のど飴。慣れた手つきだ。
女が店を出るのを追って声をかけた。
「ポケットの物、お金払ってないよね」
なるべく優しく言いながら、女を事務室に連れてきた。
店長と私を前にして、女はひどくうなだれていた。
そして右手をじっと見てから言った。
「すみません。わたしが至らないばっかりに、わたしの右手がとんでもないことを…」
「はあ?」
「右手には、わたしからよく言い聞かせますので、お許しください」
「あなた何言ってるの?右手が勝手にやったとでも言いたいの?」
「はい。右手が勝手にやりました」
「あのね、あなたの右手は、あなたの意志で動いてるんじゃないんですか?」
「普段はそうですが、時々言うことを聞かなくなるんです。ホントに困った子…いや、困った手です」
私と店長は顔を見合わせた。この女、どうかしている。
らちがあかないので、女の夫に連絡して来てもらいことにした。
しばらくして夫が、血相を変えて事務室に飛び込んできた。
「バカヤロー」
と夫は女の右手をぴしゃりと叩いた。
「おまえが甘やかすから、右手のヤツがつけあがるんだ!」
「まあまあ、ご主人落ち着いて」
「ああ、店長さん、すみません。妻の右手がとんでもないことを」
ああ…、こいつもどうかしている。
「妻は右手が可哀想だと、冬には洗い物をしないんです。その上クリームをたっぷり塗って寝るんですよ。手袋でガードまでしてね。そんなふうだから、右手はすっかり過保護に育ち、こんなことを…。本当に、なんてお詫びしていいか」
「意味がわかりませんが…」
「いえね、僕も悪いんです。婚約指輪に結婚指輪。左手にばかり贈り物をしました。えこひいきと言われても仕方ない。右手がひがむのも無理はないんです」
「…関係ないと思いますが」
「とにかく、僕たち家族でよく話し合いますから、今回のことは大目に見て下さい」
夫婦は何度も何度も頭を下げた。
心なしか、女の右手も反省しているように見えたり見えなかったり…。
何より私と店長がひどく疲れてしまったので、「二度としない(させない)」と約束させて夫婦を帰した。
「やれやれ、何だかうまくごまかされたような気がしないでもないな」
と店長が頭をかいた時、私の右手がうずうずと動いた。
気づくと私の右手は、店長の頭からカツラをむしり取り、窓から投げ捨てていた。
「な、何をするんだ!君は!!」
「すみません。右手がやりました」
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2012-02-06 19:11
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コメント(16)
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右手のせいにできるのなら、やりたいことが
あるのよね^^
以前働いていた職場のの弱いものいじめをしていた上司
(何も言えない人に恐ろしく攻撃的で気の毒だった)の
顔にビンタでもしたいなぁ!!
「すみません、右手がやりました」
by ケリー (2012-02-07 08:17)
これはなかなか面白いですね。
>何だかうまくごまかされたような
だけのことかもしれないし、主人公も悪乗りしただけかもしれないし、そのわからなさ加減が良いですね。
僕の趣味なら、最後はもっとどんどんシュールな展開にしたいところなんですが、それはあくまで僕の趣味です。
by 海野久実 (2012-02-07 12:01)
結末がいろいろ考えさせられる話ですね。
その後の夫婦を考えてみました。
コン・ゲーム小説
「あははは、うまくいったね」
「今度はもっと高価なものでやろうよ」
SF
「お前の右手修理が必要だ」
妻が右手の親指を引っ張ると、手の甲のフタが開いた。中からチップを取り出した。
「これがダメね。ヨドバシで買うわ」
ホラー
「うう、また右手が痛くなったわ」
妻の右手が伸びてきて、私の首をつかんだ。ものすごい力だ。
ポルノ
「うふふ、あたしの右手がなぐさめてあげる」
彼女の右手が、僕のあそこに、ああああああ。
時代劇
「お前の右手のため、拙者は家中で笑いものだ。そこになおれ」
刀の鯉口に手をかけた。内儀はだまって右手をだした。
ハードボイルド
彼女の右手がまた過ちをおかした。
オレか、オレは探偵さ。
オレの女が犯したバカなマネの尻拭いをするため、ここにいるというわけさ。
実録ヤクザ小説
「姐さん、姐さんの右手の不始末、ワシにまかせてつかあさい」
「すまんねえ。ショーゾー。あん外道のためにアテの右手が」
「ワシがとってきちゃりますけん」
おそまつ。
by 雫石鉄也 (2012-02-07 13:33)
面白い!!!
読んでいくうちに
だんだん右手に人格がある気がしてきました。
左手ばかりに贈り物をして。。。
右手がひがむのも無理はないって件で
ごもっとも!!!と私の右手が大拍手
でも、左手が協力しなかったので
拍手の音はしませんでしたが。。。(笑)
今回も楽しみました。ありがとっ♪
雫石さんのコメントも楽しかったです。(#^.^#)v
by 春待ち りこ (2012-02-07 20:14)
わかります、わかります。
ボクも基本的に下半身のことは下半身のせいにしてしまいますから(笑)
りんさんのお話はもちろん、雫石さんのコメントも力入ってますねぇ。
ボクはコメントもブログも適当だもんなぁ~。「手抜き」ってヤツです。
by 矢菱虎犇 (2012-02-08 02:06)
カツラを取るだけじゃなくて、窓から投げ捨てちゃう!(笑)
店長がどんなにびっくりした顔したかと思うと、想像して
笑っちゃいましたヽ(^o^)丿
by クローヴ (2012-02-08 20:01)
あー私もカツラむしり取って、窓から捨てたかった。
前の職場の上司です。
「すみません。右手がやりました。」って。
すかっとしただろうなぁ。うふ♥
by もぐら (2012-02-09 16:30)
<ケリーさん>
そうですね^^
私も右手のせいにして殴りたい上司がいましたよ^^
「右手がやりました」で終わればいいですけどね(笑)
by リンさん (2012-02-09 23:27)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
これは一種の病気なのかな…と思いながら書いていました。
最後は主人公にうつってしまった。
だけど書き終わって読んでみたら、海野さんの言うように、よくわからなのが面白いかも…と思いました。
by リンさん (2012-02-09 23:32)
<雫石鉄也さん>
すごい!
色んなパターンを考えて下さってありがとうございます。
面白いですね。
SFにホラー、時代劇?(笑)
こういうオチをつけるのも面白いですね。
こんなのはどうですか?
「またやっちゃったわ」
「せっかく右手の移植手術成功したのに」
「きっと前の持ち主は泥棒だったのね」
…おそまつ(笑)
by リンさん (2012-02-09 23:43)
<りこさん>
そうです。右手はきっとひがんでますよ。
お箸持ったり鉛筆持ったり、こき使われて指輪はなし。
たまに右手をいたわってあげましょう(笑)
by リンさん (2012-02-09 23:50)
<矢菱さん>
こらこら、下ネタ禁止ですよ(笑)
雫石さん、いろいろ考えてくれて嬉しいです。
by リンさん (2012-02-09 23:53)
<クローヴさん>
店長さん、きっとカツラに気づいていないと思っていたんですね。
だからすごいビックリだったでしょうね(笑)
by リンさん (2012-02-09 23:55)
<もぐらさん>
前の上司さん、カツラだったんですか(笑)
右手のせいにしちゃえば許してもらえるのかな^^
私もやってみたいなあ^^
by リンさん (2012-02-09 23:58)
トーナメントに参加されてますねー
「自作小説!トーナメント」となっていますが、これはタイプミスなんじゃないでしょうか?
だって、トーナメントテーマのところに
>ブログに自殺小説を載せてる方なら誰でもOKです!
とありますよ。
「自殺小説!トーナメント」の間違いか、その反対かもしれませんけどね。
トーナメントテーマの方がタイプミスなのか。
そんなあいまいなトーナメントには参加しません(笑)
あ、もちろん応援はさせていただきますね。
by 海野久実 (2012-05-18 23:02)
<海野久実さん>
そうなんですよ。
ヴァッキーノさんが参加していたので、私も参加しました。
あとで「自殺小説」って書いてあるのに気づきました。
だけどたぶん入力ミスかな?と思うんですけど…。
自作と自殺、全然違っちゃいますね。
まあ、とにかく応援よろしくお願いします^^
by リンさん (2012-05-21 18:21)