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スカイツリーからあなたへ [ファンタジー]

スカイツリーさん、こんにちは。
もうすぐオープンなのね。楽しみでしょうね。
ああ…わたしも、あなたの展望台から富士山や東京湾を眺めてみたいわ。
わたしが住んでいた家も、きっと見えるわね。

だけど不思議だわ。
毎日毎日見上げていたあなたを、上から見下ろしているなんて。
わたし、空の上にいるのよ。そう、天国。
天国では、父と母が待っていてくれたわ。だけどずるいのよ。
ふたりとも、わたしよりも若いの。
それだけわたしが長生きした…ということね。

結婚は一度したけど失敗したの。
子供はいないわ。だけど全然寂しくなかった。
わたしは教師をしていたから、教え子が子供みたいなものよ。
大人になっても、たくさんの子が訪ねてきてくれた。
だから寂しくなかったのよ。

それにしても残念。
あと3か月、長生きできたらよかったのに。
一番乗りであなたの中に入りたかったな。
だってね、あなたが小さいころからずっと、写真を撮っていたのよ。
だんだん高くなって立派になって。
まるで孫の成長を見ているようだったわ。
おかしいかしら?でも本当よ。

ちょっとだけ、そっちに行ってもいい?
ええ、もちろん誰にも見つからないようにするわ。

わあ、やっぱり素敵。このガラス張りの床から下を見たかったの。
わたし、高いところが大好きなのよ。
いい眺めね。わたし、こんな街に住んでいたのね。
あら?ねえ見て。あそこに集まっているのは、わたしの教え子たちよ。
何をしているのかしら。ちょっと見てくるわ。

ねえ聞いて。あの子たち、わたしが撮ったスカイツリーの写真を飾って、写真展を開いてくれたのよ。
病院に来てくれたときに、カメラを渡したの。続きを撮ってほしかったからよ。
ああ、なんていい子たちでしょう。夢みたいだわ。

ねえ、スカイツリーさん。最後にお願いがあるの。
写真を撮らせて。
ええ、カメラはないわ。心のシャッターで、想い描いた絵を撮るの。
それじゃあ、撮るわよ。
『カシャ』
そろそろ行くわね。スカイツリーさん、本当にありがとう。

****

スカイツリー近くの小さなギャラリー。
先生の追悼記念に開かれた写真展。

写真が1枚増えていることに、最初に気づくのは誰だろう。
スカイツリーの展望台から、笑顔で街を見守る先生の写真。
教え子たちへ最後のプレゼントだ。
それは、もしかしたらスカイツリーからの贈り物かもしれない。

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haru

わ~♥ 素敵なお話。
それにしても、いつもタイムリーなことを次々とお話にしてとってもステキ!
最初から、こんなことを書いちゃっていいの?みたいな気で読んでました。
そうしたら、最後の最後に写真が1枚増えている。(;゚Д゚)!
やっぱり、りんさんダー!なんてね。とっても楽しく読ませてもらいました。
ありがとですです。(^o^)/

by haru (2012-05-11 19:40) 

海野久実

いいですねー
これぞりんさんと言う感じのお話でした。
ブラックりんさんではなくて(笑)
増えている写真を見つけた子供はひょっとして怖がっちゃうかもしれませんね。
でもまあ、笑顔の写真なら問題ないでしょう。

最後に張り付ける写真は、僕ならそう言う写真を合成で作っちゃうところですねー
by 海野久実 (2012-05-11 20:49) 

かよ湖

楽しさと、ちょっぴり寂しさと、でも大きな温かさが織り交ぜられた素敵なお話ですね。
それにしても、リンさんの想像力の幅広さとスピード感はすごいですね。コメントを入れよう!と思うたび更新されていて、いつも読んだだけで満足してしまう私です。。。
by かよ湖 (2012-05-11 23:59) 

矢菱虎犇

スカイツリーを見上げたり写真を撮ったりする人たちの思いとか、ツリーが見守るようにそびえ立つ姿とか、そういうのを先生と教え子に結びつけるってのが、流石りんさんですねぇ。ボクなんて、スカイツリーの建設の様子を見た途端、あっちゃ~、バベルの塔作ってるよって思いました(笑)
by 矢菱虎犇 (2012-05-12 10:08) 

ヴァッキーノ

そうそう、そうなんですよね。
スカイツリーの写真を成長記録みたいに
ずっと撮り続けてる人もそうですけど
なにかを未完成のまんま続けてる人にとって
死っていうのは、切実ですね。
途中で終わっちゃうんですから。
スカイツリー完成も当然の事のように撮影できるんだろうなあ
って、勝手に思い込んでて、途中で交通事故とかで死んじゃった人がいるんでしょうね。
きっと。
by ヴァッキーノ (2012-05-12 11:59) 

dan

旬の話題を素敵な作品にしてしまうリンさん。
いつもの事ながら、その手腕に言葉がありません。
写真を通して幸せな先生と生徒、スカイツリーとの
関わりがいいですね。
by dan (2012-05-12 18:11) 

雫石鉄也

見事です。
ショートショートとしては「実は死んでいた」ネタですが、それをオチに持ってこず、最後に写真の枚数を増やすことで、落としましたね。
ラストの1行も効いてます。
by 雫石鉄也 (2012-05-14 14:00) 

もぐら

スカイツリーってずっと話題になってましたが、あまり感心がなかったんです。
でもりんさんのこの作品を読んで、もうちょっと感心を持って見ていれば
よかったかなって思いました。
いろんな思いで見守っていた人、見守っていく人がいるんだなぁって
とってもステキなお話でした。
by もぐら (2012-05-14 16:42) 

リンさん

<haruさん>
いつもありがとうございます。
スカイツリー、行けるのはいつになるやら^^;
テレビで特集を見るたびに、行きたくて行きたくて。
そんな思いで書いてみました^^
by リンさん (2012-05-14 17:15) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
最初は、写真を見つけた教え子の会話で1枚増えていることを書こうと思ったんですが、だらだらと長くなってまとまらなかったので変更しました。
教え子は、写真を見つけて驚くけれど「先生が笑っているからいいか」ということになるのです^^

写真の合成、技術があればぜひやりたかったです(汗)
by リンさん (2012-05-14 17:19) 

リンさん

<かよ湖さん>
ありがとうございます。
思いついたらすぐに書くんですけど、私の場合難しい話は書けないので、その分早いのかも(笑)
かよ湖さんも、お父さんが大変な時にコメントしてくれてありがとう。
読んでくれるだけでも、すごく嬉しいですよ^^
by リンさん (2012-05-14 17:23) 

リンさん

<矢菱さん>
きっとあの近所に住んでいる人は、出来上がるのをずっと見守ってきたんでしょうね。
羨ましいです。時代の証人みたい^^
バベルの塔ですか。なるほど。矢菱さんらしいなあ。
by リンさん (2012-05-14 17:33) 

リンさん

<ヴァッキーノさん>
確かにそうですね。
そんなふうに考えてみると、ブログもそうですよね。
覚悟もなく突然終わることになっちゃったら、絶対心残りですよね。
by リンさん (2012-05-14 17:36) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
danさんは、東京でスカイツリーを見たのでしょうか^^

私は季節に合った話を書くことを心がけています。
今はスカイツリーだな、と思って書きました。
褒めていただけて光栄です(ペコ)
by リンさん (2012-05-14 17:39) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
いつも見上げていたスカイツリーを、空から見下ろしているところを描きたかったんです。
それで、年配の女性を主人公にしてみました。
写真のオチは、あとから思いつきました。
このオチは、自分でも気に入っています。
by リンさん (2012-05-14 17:43) 

リンさん

<もぐらさん>
私はミーハーなので、こういう新スポットにはすぐに行きたくなっちゃうんです。
スカイツリーはチケット手に入らなそうだから、近くまで行って見上げてこようかなと思います。
by リンさん (2012-05-14 17:46) 

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