国境なきリンゴの木 [ファンタジー]
A国とB国の間に、リンゴの木がありました。
ごく普通のリンゴの木でしたが、ある年突然、金色に輝くリンゴの実をつけたのです。
それはたいそう評判になり、多くの観光客が訪れるようになりました。
するとA国、B国がそれぞれ、リンゴの木の所有権を主張し始めたのです。
「この木はA国の木だ。こっちの方が枝が多い」
「いいや、B国の木だ。根っこがこちらに長く張っている」
二つの国は、境界線を引いて見張りの兵士に24時間監視をさせました。
誰もリンゴの木に近づけなくなったのです。
今まで国境など関係なく遊んでいた子供も、いっしょに遊べなくなりました。
引き裂かれた恋人同士もいます。
たった1本のリンゴの木が、二つの国の交流を完全に絶ってしまったのです。
ある日、カラスが金のリンゴをくわえて、ぽとりと落としました。
リンゴはころころと転がって、ちょうど境界線の上で止まりました。
何ともいえない甘い香りを放っています。
二つの国の兵士は、ずっと立ちっぱなしで疲れていたし、おなかもすいていました。
「落ちているんだから、食べてもいいよな」
そう言ってA国の兵士がリンゴに手を伸ばしました。
「ちょっと待った!それはB国のリンゴだ」
とB国の兵士が手を伸ばしました。
「A国の物だ。軸がこっちを向いている」
「B国の物だ。こっちに傾いているじゃないか」
お互いが、リンゴをはさんで睨み合っています。
そこへ、旅人が通りかかりました。
「半分にすればいいんじゃないですか?」
旅人はそう言うと、ナイフを取り出してリンゴを真ん中から二つに切りました。
みずみずしくて、なんて美味しそうでしょう。
旅人は、ひとつをA国の兵士に、ひとつをB国の兵士に渡しました。
兵士たちは戸惑いながらもそれを食べて、思わずため息を漏らしました。
「なんて美味しいんだ」
「ああ、こんな美味いリンゴは食べたことがない」
「王様たちは何をいがみ合っているのだろう。仲よく分け合えばいいものを」
「ああ、こんなにたくさん実が生っているのに、食べないなんてもったいない」
旅人は、ふたりの様子を見て言いました。
「私が何とかしましょう」
旅人はリンゴの実をいくつかもぎ取ると、それを半分に割りました。
そして半分に割ったリンゴを籠に入れてA国の国王のところへ向かいました。
「国王様、わたしは旅の者でございます。実は旅の途中で珍しい金のリンゴを拾いました。きっとカラスが落としたのでしょう。食べてみたら大変美味しかったので、国王様に献上したいと思って持ってきました」
旅人が金のリンゴを差し出すと、A国王は憮然としました。
「リンゴはなぜ半分なのだ!」
旅人は答えました。
「はい。実はここへ来る前に、B国王のところへ行って、リンゴを献上したのです。リンゴを拾ったのはB国でしたから。するとB国王は言いました。
それは私一人で食べるわけにはいかない。半分だけもらおう…と」
旅人は、にっこり笑いました。
「おお、B国王がそんなことを言ったのか…。私はなんて心が狭かったんだ。そうだ。こんなふうに分け合えばよかったのだ」
A国王は泣き崩れ、甘くてしょっぱいリンゴを食べました。
旅人はもちろん、B国王にも同じことをしました。
結果は大成功。
A国とB国はリンゴの実を分け合い、お互い協力し合って観光を盛り上げました。
リンゴの実は、色褪せることなくいつまでも、黄金に輝いていたそうです。
めでたし めでたし。
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ごく普通のリンゴの木でしたが、ある年突然、金色に輝くリンゴの実をつけたのです。
それはたいそう評判になり、多くの観光客が訪れるようになりました。
するとA国、B国がそれぞれ、リンゴの木の所有権を主張し始めたのです。
「この木はA国の木だ。こっちの方が枝が多い」
「いいや、B国の木だ。根っこがこちらに長く張っている」
二つの国は、境界線を引いて見張りの兵士に24時間監視をさせました。
誰もリンゴの木に近づけなくなったのです。
今まで国境など関係なく遊んでいた子供も、いっしょに遊べなくなりました。
引き裂かれた恋人同士もいます。
たった1本のリンゴの木が、二つの国の交流を完全に絶ってしまったのです。
ある日、カラスが金のリンゴをくわえて、ぽとりと落としました。
リンゴはころころと転がって、ちょうど境界線の上で止まりました。
何ともいえない甘い香りを放っています。
二つの国の兵士は、ずっと立ちっぱなしで疲れていたし、おなかもすいていました。
「落ちているんだから、食べてもいいよな」
そう言ってA国の兵士がリンゴに手を伸ばしました。
「ちょっと待った!それはB国のリンゴだ」
とB国の兵士が手を伸ばしました。
「A国の物だ。軸がこっちを向いている」
「B国の物だ。こっちに傾いているじゃないか」
お互いが、リンゴをはさんで睨み合っています。
そこへ、旅人が通りかかりました。
「半分にすればいいんじゃないですか?」
旅人はそう言うと、ナイフを取り出してリンゴを真ん中から二つに切りました。
みずみずしくて、なんて美味しそうでしょう。
旅人は、ひとつをA国の兵士に、ひとつをB国の兵士に渡しました。
兵士たちは戸惑いながらもそれを食べて、思わずため息を漏らしました。
「なんて美味しいんだ」
「ああ、こんな美味いリンゴは食べたことがない」
「王様たちは何をいがみ合っているのだろう。仲よく分け合えばいいものを」
「ああ、こんなにたくさん実が生っているのに、食べないなんてもったいない」
旅人は、ふたりの様子を見て言いました。
「私が何とかしましょう」
旅人はリンゴの実をいくつかもぎ取ると、それを半分に割りました。
そして半分に割ったリンゴを籠に入れてA国の国王のところへ向かいました。
「国王様、わたしは旅の者でございます。実は旅の途中で珍しい金のリンゴを拾いました。きっとカラスが落としたのでしょう。食べてみたら大変美味しかったので、国王様に献上したいと思って持ってきました」
旅人が金のリンゴを差し出すと、A国王は憮然としました。
「リンゴはなぜ半分なのだ!」
旅人は答えました。
「はい。実はここへ来る前に、B国王のところへ行って、リンゴを献上したのです。リンゴを拾ったのはB国でしたから。するとB国王は言いました。
それは私一人で食べるわけにはいかない。半分だけもらおう…と」
旅人は、にっこり笑いました。
「おお、B国王がそんなことを言ったのか…。私はなんて心が狭かったんだ。そうだ。こんなふうに分け合えばよかったのだ」
A国王は泣き崩れ、甘くてしょっぱいリンゴを食べました。
旅人はもちろん、B国王にも同じことをしました。
結果は大成功。
A国とB国はリンゴの実を分け合い、お互い協力し合って観光を盛り上げました。
リンゴの実は、色褪せることなくいつまでも、黄金に輝いていたそうです。
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2012-05-27 15:26
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コメント(12)
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これはもう、どこかの国の首相やら、どこかの国の大統領やらに読んでもらいたいですね。
どこの国の人々もこんなふうに思えるようになったら、すこしは平和になるでしょうに。
なかなかそうは思えないのも人間の業なのでしょうけど。
by 津々井茜 (2012-05-28 01:13)
日本みたいな島国でも周辺の国ともめちゃうわけだから、大陸の国境線で分かれている国なんてもっと大変だろうなぁ。「なかよく半分こに分けたら、幸せは2倍!」というのを、つい「幸せも半分こ」と言いたくなるボク。反省、反省。
by 矢菱虎犇 (2012-05-28 02:34)
なんか元ネタがあるのじゃないかと思えるほど、よく出来たお話ですよね。
名作かもしれない。
でも現実は、それが天然ガスとかだったら、はんぶんこすれば幸せもはんぶんこなわけですから難しいんでしょうね。
リンゴなら木を増やして大増産、と言う事が出来ますもんね。
by 海野久実 (2012-05-28 04:37)
絵本にしてもステキなお話ですね。
葉祥明さんに絵を描いてもらいたいです。
by もぐら (2012-05-28 16:51)
世界は単純なことが複雑にからみ合って出来てるもんですね。
家の中でさえ、ちっちゃな事でケンカしたりするんですもん。
3人家族で、3日に1回、誰かが怒ったりケンカしたりするとして、60億人の世界だったら、すごい規模のすごいケンカがおこりそうですよね。
りんごがいくつあっても足りません。
by ヴァッキーノ (2012-05-28 21:45)
ほんとよくできたお話です。
どっかの童話のコンクールに応募されたらどうですか。
尖閣も竹島も北方領土もはんぶんこすればいいんですね。
by 雫石鉄也 (2012-05-29 14:05)
<津々井茜さん>
ありがとうございます。
本当に、こういう問題は難しいですね。
童話の世界ならうまくいくのにね^^
by リンさん (2012-05-30 13:37)
<矢菱さん>
そうですよね。
前に海外旅行に行ったとき、「ここから違う国なのでパスポートを出してください」って言われて、ああ、これが国境か…と思いました。
「悲しみは半分こ」が「悲しみは2倍」にならないように気を付けましょう(笑)
by リンさん (2012-05-30 13:43)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
海の底に資源があると知ったとたん、所有権を主張したあの国みたいですね^^
これは、それほどの風刺を込めたわけではなく、「梅ちゃん先生」で梅ちゃんの父と隣の家が境界線でもめたことがヒントでした。
朝ドラ大好きな私です^^
by リンさん (2012-05-30 13:48)
<もぐらさん>
ありがとうございます。
葉祥明のイラスト、素敵ですよね。
私も大好きです。
by リンさん (2012-05-30 13:50)
<ヴァッキーノさん>
ホントにそうですね。
うちの近所はみんな仲良しだけど、ご近所さんでも揉めることってありますもんね。
戦国時代だって、領土の奪い合いだし、こういうのはなくならないのでしょうね^^;
by リンさん (2012-05-30 13:54)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
コンクール…いい機会があったら応募してみたいです。
入選するのって、なかなか難しいですね^^
by リンさん (2012-05-30 13:58)