お化け屋敷 [ホラー]
「あのお化け屋敷は、本物の幽霊がいるらしい」
兄さんがにやにやしながら言った。
「面白そうだから行ってみよう」と。
怖がりの僕は「やめよう」と言ったが、取り合ってくれない。
「そんなのでたらめさ。ただの噂だよ」
と僕を引っ張ってお化け屋敷に入った。
それは、何の変哲もない普通のお化け屋敷で、たいして怖くもなかった。
本物の幽霊が出るというのは、客寄せのデマであることに気づいた。
大人になった今ならば、それがよくわかる。
息子が、お化け屋敷のチラシを持ってきた。
「お父さん、このお化け屋敷、本物の幽霊が出るんだって」
僕は苦笑しながら、「そんなのでたらめさ」と言った。
時代は変わっても、やってることは同じだ。
息子を連れてお化け屋敷に行った。
まるであの頃と変わらない。
つまらないありきたりの仕掛けで、ちっとも怖くない。
外に出て帰ろうとしたら息子がいない。
まだ中にいるのだろうか。
「すみません。息子がまだ中にいるんですが、見てきていいですか?」
スタッフに声をかけると、不思議そうに首を傾げた。
「中には誰もいませんよ。だいたいあなたは、お一人で入ったじゃないですか」
「何を言ってるんだ。僕は確かに息子と入ったぞ」
僕はスタッフを押しのけて中に入った。
真っ暗な中に、人の気配は全くない。
墓石が揺れて血だらけの落ち武者が現れた。
人形なのに、やけに生々しい。
その顔は、兄さんによく似ていた。
前の壁が突然崩れ、一つ目小僧が現れた。
にやりと笑った小さなお化けは、息子と同じ服を着ていた。
恐ろしくなって、慌てて飛び出した。
家に帰ると、母さんが夕飯を作っていた。
「おかえり。青い顔してどうしたんだい?」
「母さん、僕の息子は帰っているかな?」
「何言ってるの?結婚もしていないのに、息子がいるわけないだろう」
母さんが呆れたように笑った。
そうだ。そもそも僕には息子などいない。
「あんた。また変な物を見たんだね。子供の頃もそんなことがあったね。あんた一人っ子なのに、『兄さんはどこだ』って、青い顔して帰ってきたよ」
ああ…そうだ。僕には息子もいなければ兄さんもいない。
きっと、お化け屋敷の幽霊たちの客寄せに、うまく引っかかってしまったのだろう。
そして今、小さな手が僕の袖口をつかんでいる。
「ねえ、おじいちゃん、あのお化け屋敷には、本物の幽霊がいるらしいよ」
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兄さんがにやにやしながら言った。
「面白そうだから行ってみよう」と。
怖がりの僕は「やめよう」と言ったが、取り合ってくれない。
「そんなのでたらめさ。ただの噂だよ」
と僕を引っ張ってお化け屋敷に入った。
それは、何の変哲もない普通のお化け屋敷で、たいして怖くもなかった。
本物の幽霊が出るというのは、客寄せのデマであることに気づいた。
大人になった今ならば、それがよくわかる。
息子が、お化け屋敷のチラシを持ってきた。
「お父さん、このお化け屋敷、本物の幽霊が出るんだって」
僕は苦笑しながら、「そんなのでたらめさ」と言った。
時代は変わっても、やってることは同じだ。
息子を連れてお化け屋敷に行った。
まるであの頃と変わらない。
つまらないありきたりの仕掛けで、ちっとも怖くない。
外に出て帰ろうとしたら息子がいない。
まだ中にいるのだろうか。
「すみません。息子がまだ中にいるんですが、見てきていいですか?」
スタッフに声をかけると、不思議そうに首を傾げた。
「中には誰もいませんよ。だいたいあなたは、お一人で入ったじゃないですか」
「何を言ってるんだ。僕は確かに息子と入ったぞ」
僕はスタッフを押しのけて中に入った。
真っ暗な中に、人の気配は全くない。
墓石が揺れて血だらけの落ち武者が現れた。
人形なのに、やけに生々しい。
その顔は、兄さんによく似ていた。
前の壁が突然崩れ、一つ目小僧が現れた。
にやりと笑った小さなお化けは、息子と同じ服を着ていた。
恐ろしくなって、慌てて飛び出した。
家に帰ると、母さんが夕飯を作っていた。
「おかえり。青い顔してどうしたんだい?」
「母さん、僕の息子は帰っているかな?」
「何言ってるの?結婚もしていないのに、息子がいるわけないだろう」
母さんが呆れたように笑った。
そうだ。そもそも僕には息子などいない。
「あんた。また変な物を見たんだね。子供の頃もそんなことがあったね。あんた一人っ子なのに、『兄さんはどこだ』って、青い顔して帰ってきたよ」
ああ…そうだ。僕には息子もいなければ兄さんもいない。
きっと、お化け屋敷の幽霊たちの客寄せに、うまく引っかかってしまったのだろう。
そして今、小さな手が僕の袖口をつかんでいる。
「ねえ、おじいちゃん、あのお化け屋敷には、本物の幽霊がいるらしいよ」
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2012-08-14 18:54
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コメント(12)
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複雑なお話ですね。
ボケた老人のお話なんでしょうか?
それとも、まだ、お化け屋敷から抜け出ていない
男のお話なのでしょうか?
ループするのかなあ?
夏ですから、こういうのもいいですね。
by ヴァッキーノ (2012-08-14 19:25)
何ともヘンテコなコメントでゴメンナサイなんですけども、
先日、フィリップKディック原作のSFを映画化したものを観たんですよ。
自分の存在が揺らぐヤツ。
アレを感じたんですよ、読んでて。
本当の怖さって、自分が確かだと思っている立ち位置が揺らぐことなのかもしれないなぁって。
お化け屋敷という異空間体験の眩暈。
by 矢菱虎犇 (2012-08-14 20:16)
白昼夢?
でも今度の袖口をつかんでいる小さな手は本物ですよね。(*^。^*)
お盆の最後の日にマッチした話ですね。
幽霊は興味津々なのですが、小心者なのでお化け屋敷苦手です(笑)
by こっちゃん (2012-08-15 16:10)
えっ!そんなあ~!
錯覚とは恐ろしいものですね。やはり、お化け屋敷は怖い!
夜の墓地といい勝負かも。
あ、今日やっとお墓参りに行ってきました。
なので、お化け屋敷はご勘弁下さい。(笑)
by haru (2012-08-15 16:53)
お化けに化かされたお話ですね。
ん?お化けって化かすとは言わないのかな。
う~ん?
でもお化けに祟られてるわけではなさそう。
好かれてるみたいなのでいいですね。(いいのか?)
by もぐら (2012-08-16 17:23)
<ヴァッキーノさん>
実は書いている本人もよくわかっていません(笑)
お化け屋敷の季節が来るたびに、不思議なことに遭遇してしまう運命の男…とでも言っておこう^^
やっぱり夏は怪談ですね。
by リンさん (2012-08-17 09:26)
<矢菱さん>
本当にいろんな映画を見てるんですね。
フィリップKディックも知らなかったので調べました。
不思議なSFですね。こんど読んでみようかな。
こんな風に記憶さえも操られてしまうと、真実がわからなくなってしまいますね。
ところで、お化け屋敷、最近行ってないなあ。
by リンさん (2012-08-17 09:32)
<こっちゃんさん>
そうなんですよ。
お化けはみんな本物なんですよ。
うまく記憶を操ったりして、不思議な世界に連れて行ってるんです。
だからこの人は、このあと孫などいないことに気づくんですよね。
お化け屋敷、苦手ですか?
私は大好きです。
by リンさん (2012-08-17 09:34)
<haruさん>
夜の墓地よりは、お化け屋敷の方がいいですよねえ^^;
本物出そうだし…
私も今年はお墓参りが遅くなって、15日に行ったんです。
「遅い!」って怒って出てきたらどうしよう…って思ってました^^
by リンさん (2012-08-17 09:38)
<もぐらさん>
お化けに化かされた?タヌキじゃないんだから(笑)
そうそう、この人、絶対お化けに好かれていますよ。
どうしても来てほしいんでしょうね。
それとも、町の人みんなを勧誘してたりして^^
by リンさん (2012-08-17 09:41)
うわ~、怖い怖い。
純粋に怖がっているのは私だけですか?
どうもこの手のモノは苦手です。
でも、これって、リンさんワールドですよね。
by かよ湖 (2012-08-21 01:45)
<かよ湖さん>
怖がってくれてありがとう!
正体がよくわからない方が怖いですよね。
夏になると怪談が書きたくなります。
虎の穴の「怪談」も、もちろん送りました^^
by リンさん (2012-08-21 18:22)