最後のメール [ミステリー?]
柊子は、クラスの中心的存在だった。
明るくて誰にでも好かれた。
そんな柊子は、夏休み中に不慮の事故で亡くなってしまった。
まだ16歳だ。みんな、目を真っ赤に腫らして泣いた。
私は、柊子とそれほど親しかったわけではない。
ただ通学のバスが一緒だったので、「おはよう」「バイバイ」くらいは毎日交わした。
2学期が始まって、バスを待ちながらしみじみ思った。
もう柊子は乗ってないんだな…。
その時、メールが来た。目を疑って何度も見直したそのメールは、柊子からだった。
『お葬式に来てくれてありがとう。私の分まで高校生活を楽しんでね』
それは、クラス中に送られていた。
「柊子からメールって、どういうこと?」
「誰かのいたずら?」
「柊子のお母さんが、柊子のケイタイから一斉メールしたんじゃない?」
結局、そうだ、そうに違いないということになった。
だってそれしか考えられない。
しかしその後、クラスメートそれぞれに、個人的なメールが来るようになった。
『今日はバス遅れてるよ。工事渋滞が原因みたい』
これは、私に届いたメールだ。
バレー部の子には『試合頑張って。相手のエース、膝を痛めてるみたいだよ』というメールが届いたという。
気味が悪いとアドレスを変えてもメールは届く。
恐怖のあまり泣き出す子、ケイタイを持つのをやめてしまった子、あんなに大好きだった柊子を罵る子。クラス中がボロボロだった。
そして私たちは、柊子の家を訪れた。
すぐに気付いた。柊子の仏壇に、携帯電話が供えられている。
それは電源が入ったままになっていた。
「柊子はこのケイタイをいつも離さずに持っていたわ。食事中もお風呂でも。だからね、死んじゃった後もこうしておけば、寂しくないんじゃないかと思って」
母親は、愛おしそうにケイタイをながめた。
「おばさん、お願いです。そのケイタイを除霊してください」
そう言ったのは、柊子の親友の女の子だ。
私たちは柊子から来たメールを見せ、「このままだと柊子は成仏できない」と訴えた。
母親はとても悲しい顔をしたが、このメールのせいで体調を崩した子もいると聞いて納得した。
数日後、クラスメート35人が見守る中、柊子のケイタイの除霊が行われた。
母親はずっと泣いていた。無理もないだろう。
除霊がまもなく終わるころ、電源を切ったはずの全員のケイタイが震えた。
見るとそれは、柊子からのメールで『バイバイ』と書かれていた。
絵文字も何もないたった4文字。最後の力を振り絞って打ったのだろうか。
切なくて悲しくて、崩れるようにみんな泣いた。
それから柊子からのメールは来なくなった。
文化祭もクリスマスも、今ひとつ盛り上がらなかった。
柊子を参加させてあげたかった。メールの返信だけでもすればよかった。
みんながそう思っただろう。
3学期になり、雪がちらつく寒い朝、バスを待っていた私に、突然メールが来た。
驚いた。それは、柊子からだったのだ。
『そのバスには乗らないで』と書かれていた。
胸騒ぎを感じた私は、バスを1本見送った。
そのバスが、スリップした車の巻き添えでガードレールを突き破り、川に落ちたと知った。
ゾッとした。そして、柊子のおかげで助かった…と思った。
柊子はまだ消えていなかった。だけど私たちのために、メールをやめたのだ。
『ありがとう』と返信をしたが、柊子からのメールは来なかった。
あれが、最後のメールだったのだ。
私はケイタイを握りしめて、空を見上げた。
雪といっしょに、柊子の声が聞こえて来そうだった。
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明るくて誰にでも好かれた。
そんな柊子は、夏休み中に不慮の事故で亡くなってしまった。
まだ16歳だ。みんな、目を真っ赤に腫らして泣いた。
私は、柊子とそれほど親しかったわけではない。
ただ通学のバスが一緒だったので、「おはよう」「バイバイ」くらいは毎日交わした。
2学期が始まって、バスを待ちながらしみじみ思った。
もう柊子は乗ってないんだな…。
その時、メールが来た。目を疑って何度も見直したそのメールは、柊子からだった。
『お葬式に来てくれてありがとう。私の分まで高校生活を楽しんでね』
それは、クラス中に送られていた。
「柊子からメールって、どういうこと?」
「誰かのいたずら?」
「柊子のお母さんが、柊子のケイタイから一斉メールしたんじゃない?」
結局、そうだ、そうに違いないということになった。
だってそれしか考えられない。
しかしその後、クラスメートそれぞれに、個人的なメールが来るようになった。
『今日はバス遅れてるよ。工事渋滞が原因みたい』
これは、私に届いたメールだ。
バレー部の子には『試合頑張って。相手のエース、膝を痛めてるみたいだよ』というメールが届いたという。
気味が悪いとアドレスを変えてもメールは届く。
恐怖のあまり泣き出す子、ケイタイを持つのをやめてしまった子、あんなに大好きだった柊子を罵る子。クラス中がボロボロだった。
そして私たちは、柊子の家を訪れた。
すぐに気付いた。柊子の仏壇に、携帯電話が供えられている。
それは電源が入ったままになっていた。
「柊子はこのケイタイをいつも離さずに持っていたわ。食事中もお風呂でも。だからね、死んじゃった後もこうしておけば、寂しくないんじゃないかと思って」
母親は、愛おしそうにケイタイをながめた。
「おばさん、お願いです。そのケイタイを除霊してください」
そう言ったのは、柊子の親友の女の子だ。
私たちは柊子から来たメールを見せ、「このままだと柊子は成仏できない」と訴えた。
母親はとても悲しい顔をしたが、このメールのせいで体調を崩した子もいると聞いて納得した。
数日後、クラスメート35人が見守る中、柊子のケイタイの除霊が行われた。
母親はずっと泣いていた。無理もないだろう。
除霊がまもなく終わるころ、電源を切ったはずの全員のケイタイが震えた。
見るとそれは、柊子からのメールで『バイバイ』と書かれていた。
絵文字も何もないたった4文字。最後の力を振り絞って打ったのだろうか。
切なくて悲しくて、崩れるようにみんな泣いた。
それから柊子からのメールは来なくなった。
文化祭もクリスマスも、今ひとつ盛り上がらなかった。
柊子を参加させてあげたかった。メールの返信だけでもすればよかった。
みんながそう思っただろう。
3学期になり、雪がちらつく寒い朝、バスを待っていた私に、突然メールが来た。
驚いた。それは、柊子からだったのだ。
『そのバスには乗らないで』と書かれていた。
胸騒ぎを感じた私は、バスを1本見送った。
そのバスが、スリップした車の巻き添えでガードレールを突き破り、川に落ちたと知った。
ゾッとした。そして、柊子のおかげで助かった…と思った。
柊子はまだ消えていなかった。だけど私たちのために、メールをやめたのだ。
『ありがとう』と返信をしたが、柊子からのメールは来なかった。
あれが、最後のメールだったのだ。
私はケイタイを握りしめて、空を見上げた。
雪といっしょに、柊子の声が聞こえて来そうだった。
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2012-10-01 18:30
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コメント(10)
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いいお話をありがとうございます。
除霊をした後
>切なくて悲しくて、崩れるようにみんな泣いた。
このあたりでうるうる来てしまいました。
もし僕がこの話を書いたとしたら、この場面に力を入れて書いたでしょうね。
その後、柊子からメールが来なくなったところで終わっても良かったように思いますが、さらにもうひと山。
サービス精神ですねー(笑)
by 海野久実 (2012-10-01 21:52)
なんか、まんま映画が一本できちゃいそうなお話ですネ!
今年の夏、満充電した携帯が一日で切れるようになったんです。電池パックを外してビックリ。なんとリチウム電池がお餅みたいに膨らんで爆発寸前。・・・そんなわけでスマホにしようとお店に行ったんです。でもボクにとってスマホをもつメリットが見つからず、またフツーの携帯を購入。
ちなみに携帯メールがまだ打てません(爆)
by 矢菱虎犇 (2012-10-02 04:03)
悲しいけど、人を思いやる気持ちが切ないお話ですね。
私だったらきっとその子が死んだことを忘れて普通に返信しそう。
クラス全員の名前も顔も覚えてなかったからね~。あはは・・。
いいお話が台無し。ごめんなさーい。
by もぐら (2012-10-02 18:44)
結局、柊子は成仏したなかったのですね。
私を事故から救って成仏したのでしょうか?
主人公の私にとっては、これで成仏したかもしれません。
でもクラス全員の平安を見届けるまで、成仏できないのではないでしょうか。
by 雫石鉄也 (2012-10-02 20:35)
切ないですよね。
亡くなってからも、クラスの友達のことを思いやる。
確かにちょっと・・・ですが、良い話ですよね。
by こっちゃん (2012-10-03 12:22)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
「バイバイ」で終わることも考えたのですが、もうひとひねり…と欲張りました^^;
サービス精神…かな(笑)
by リンさん (2012-10-03 22:18)
<矢菱さん>
主人のケイタイも調子悪くて、1通話ごとに電源が切れるらしいです。
電池かなり膨らんでいて、先日新しいのと替えました。
スマホは興味あるけど、まだ買いません。
でも使ってみたいなあ^^
by リンさん (2012-10-03 22:23)
<もぐらさん>
クラスのまとめ役だったから、みんなのことが気になったのかも。
私たちのころはケイタイなんてなかったから、本当に親しい子としか電話しなかったですよね。
今はとりあえずクラス中でアドレス教えあうみたいです。
いい面もあれば悪い面もありますね^^
by リンさん (2012-10-03 22:27)
<雫石鉄也さん>
柊子はきっと成仏したくなかったんです。
せめて学期末までは、クラスメイトでいたかったのかも。
受け入れてもらえなくて悲しかったでしょうね。
by リンさん (2012-10-03 22:30)
<こっちゃんさん>
切ないです。
なのでホラーじゃなくて、ちょっといい話にしてみました。
実際、死者からメールが来たら怖いですけどね^^
by リンさん (2012-10-03 22:32)