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雪女の娘 [ファンタジー]

私のこと、わかりますか?
いいんです。わからないのも無理がありません。
どうか、驚かないで私の話を聞いてほしいのです。

私のお母さんは雪女です。
怖くなんてありません。とても優しい人です。
お母さんは、強くて美しい。
お母さんが息を吹きかけると、すべての物が一瞬で凍ります。
すごく美しい氷になるのです。

わたしもいつか、お母さんのような素敵な雪女になれると信じていました。
だけどある日、お母さんは私に言いました。
「おまえは人間だ。いつまでもここにいてはいけない」
意味がわかりませんでした。突然そんなことを言われても、戸惑うばかりです。
お母さんは話してくれました。
10年前のことです。

山奥に捨てられた幼い子供がいました。
置き去りにされて、放っておいたら凍えて死んでしまいそうでした。
お母さんは、その子を助けました。
古い山小屋で、苦手な火を焚いて私を温めてくれたのです。
おわかりですね。その子供が私です。

お母さんは、本当に優しく私を育ててくれました。
私は人間の里へなど帰りたくはありません。
だけどお母さんは言いました。
「最近雪が少なくなって、私はもっと高い山に行かなければならない。おまえをそんな所に連れて行くことは出来ない」

私は人間界に戻らなければいけません。
慣れるために、たびたび人里を訪れました。
けれど町の様子を見て、15歳の娘がひとりで生きていくのは難しいと思いました。
だから、私はここに来たのです。
あなたに逢ってみたいと思ったのです。

どうして私を捨てたのですか?
新しい男が出来て、私が邪魔になったのですか?
責めているのではありません。
どうか、怯えないで下さい。

安心してください。私は山へ帰ります。
どんな高い山に行っても、私は平気です。
だって10年も雪山にいたのです。
ほら、見てください。こんなことも出来ますよ。
ふーっ!
ほら、息を吹きかけたら、バラの花が凍りました。
見よう見まねでやってみたら、出来るようになったのです。
10年も雪山で暮らしたからでしょうか。
あなたのことも、凍らせることが出来ますよ。

ふふ。冗談です。そんなことしません。
そんなことをしたら、雪女のお母さんが悲しみますから。
私のお母さんは、雪女のお母さんだけです。
だから私は、どんな高い山に行こうとも、お母さんについて行くつもりです。
もう二度と、あなたに会うことはありません。
さようなら。
最後にあなたに逢えて、やっぱりよかったと思います。
さようなら。

ゆき.jpg

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矢菱虎犇

実母との再会ドラマ・・・昔、よくテレビでやってましたねぇ。今やプライバシーの時代、大きな事件でも実名や家族の映像が制限される時代だから、成立しないのかもしれないなあ。
そんな再会ものを、雪女に育てられた人間の娘っていうファンタジーのステージでやっちゃう発想がスバラシイ!
山奥の寒~いところにわが子を捨てる実母は鬼や~!
by 矢菱虎犇 (2013-01-29 03:21) 

dan

雪女に育てられた娘の冷静な語り口とはうらはらに
実母に対する思慕が見え隠れして、切ないです。
娘を捨てた母は、もっと切なくて辛いでしょうね。
でも彼女にはやさしい雪女のお母さんがいるのでよかった。
by dan (2013-01-29 19:18) 

haru

本当のお母さんは実は赤鬼さんだった。なんてことになるのかなって読んで
いたのですが、山奥に赤ん坊を捨てるなんて、本当の鬼だー!

それでも子供って、どこか血の繋がりを感じるのか、実の親を憎むことが
できないんでしょうね。(-.-)シンミリ
by haru (2013-01-30 18:29) 

もぐら

日本の昔話って説教臭かったりしますが「雪女」だけは違う気がします。
妖怪も人間と同じ「愛情」を持っているというところかなぁ。
娘の語りからそんなことを思いました。

りんさん 実は3月に雪女特集をするつもりなんです。
ちょうど5回、作品も5作品。
よかったわ~と思っていたところへ こんないい作品を書いちゃだめー。(笑)
あぁでも5作品の中にりんさんの前「雪女」も選ばせていただいたので
こちらの作品はまた今度の機会に 朗読させてくださいね。
どうぞよろしくお願いします。
by もぐら (2013-01-30 18:30) 

リンさん

<矢菱さん>
最初は雪女が育てた人間の娘との悲しい別れを書こうかな、と思ったのですがショートでは難しいですね^^
それで、鬼母を登場させちゃいました。
by リンさん (2013-01-31 16:35) 

リンさん

<danさん>
うわ~^^切なさをくみ取ってくださってありがとうございます。
もう二度と里へ下りないと決めた少女が、最後にいちどだけでも会いたかったんでしょうね。
by リンさん (2013-01-31 16:38) 

リンさん

<haruさん>
本当のお母さんが赤鬼?あ、節分が近いからですか(笑)
母親は、自分より子供を大切に思わないといけませんよね、やっぱり。
by リンさん (2013-01-31 16:41) 

リンさん

<もぐらさん>
私も雪女の話は好きです。
最後に男を殺せないところに人間らしさを感じますよね。

雪女特集ですか。
雪女で5作品集まったんだ~^^すごい。
楽しみにしています♪
by リンさん (2013-01-31 16:43) 

海野久実

うーん、これが、実の母親がどうしようもない事情で、娘と離れ離れになってしまったと言う事なら、娘は母親の所に帰るか雪女と一緒に行くか迷って、そこに感動のドラマが生れそうですが、冬の山に置き去りなんて、死んでもかまわないと言う感じでしょ。
娘にいくら母親に対しての思いがあったとしても、一緒に暮らしたいとまでは思わないでしょうね。
実の母親の側からこのお話を書けばホラーになりそう。
by 海野久実 (2013-01-31 20:18) 

リンさん

<海野久実さん>
そうですよね。
自分を捨てた母親とは暮らせませんよね。
山で生きる決心をした娘が、最後にひと目逢って見たかった…というところでしょうか。

>実の母親の側からこのお話を書けばホラーになりそう
ああ、面白そうですね。
死んだはずの娘が突然現れて…怖いですね~
by リンさん (2013-02-02 13:20) 

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