恋の協力します [ファンタジー]
『あなた、恋をしていますね』
突然頭の中で声がした。姿は見えない。
「誰?」
『恋のキューピット…のような者です。あなたの恋を成就させましょう』
「その必要はないわ。確かに好きな人はいるけど、誰かに協力してもらわなくても大丈夫。今すごくいい感じなの。あと一歩なの」
『そうですか。では助けが必要なときは頭の中でわたしを呼んでくださいね。わたし、すぐに協力しますから』
声はそう言って消えた。いったい何だったのだろう。
私の好きな人は、同じ部署の市川さん。
帰り道、偶然同じ電車に乗り合わせたことから親しくなった。
友達以上恋人未満。
市川さんも、きっと私に好意を持っている。
私たちが恋人同士になるのは時間の問題だ。
それは、彼からの告白を待ちわびて、待ちくたびれて、少し疲れた頃だった。
一緒に食事をしても、同僚の噂話や後輩の扱い方など、他愛のない会話で時間が過ぎていく。
駅のホームに並んで立つと、彼が何かを言いかけて急に黙り込んだ。
せつない沈黙。彼はきっと告白しようとしている。
時間が過ぎていく。
このまま電車が来たら、満員の車内。会話すらままならない。
私は、いつかのキューピットの言葉を思い出し、頭の中で思わず叫んだ。
『お願い。彼の背中を押してあげて!』
『かしこまりました』どこからか声が聞こえた。
次の瞬間、市川さんがホームから線路に転落した。
あっという間の出来事だった。
電車が近づいてきた。
「市川さん!」叫ぶ私の頭に、またあの声が聞こえた。
『背中押しました。これでよろしかったでしょうか』
『バカ!早く彼を助けて』
『かしこまりました』
電車は、市川さんの鼻先すれすれで止まった。ああよかった。
彼を失ったら、私も生きていけない。
もう誰かになんて頼らない。告白を待つからダメなんだ。
線路から、ようやく助けられた市川さんの手を握り、私は言った。
「市川さん、好きなの。つきあって」
市川さんはまだ動揺していて、微かに震えていた。
それでも私の目をまっすぐに見て言った。
「ごめん。おれ、彼女いるんだ」
夜風が、ふたりのあいだを吹き抜けた。
『役立たずのキューピットめ』
頭の中でつぶやいた。声はそれっきり聞こえなくなった。
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突然頭の中で声がした。姿は見えない。
「誰?」
『恋のキューピット…のような者です。あなたの恋を成就させましょう』
「その必要はないわ。確かに好きな人はいるけど、誰かに協力してもらわなくても大丈夫。今すごくいい感じなの。あと一歩なの」
『そうですか。では助けが必要なときは頭の中でわたしを呼んでくださいね。わたし、すぐに協力しますから』
声はそう言って消えた。いったい何だったのだろう。
私の好きな人は、同じ部署の市川さん。
帰り道、偶然同じ電車に乗り合わせたことから親しくなった。
友達以上恋人未満。
市川さんも、きっと私に好意を持っている。
私たちが恋人同士になるのは時間の問題だ。
それは、彼からの告白を待ちわびて、待ちくたびれて、少し疲れた頃だった。
一緒に食事をしても、同僚の噂話や後輩の扱い方など、他愛のない会話で時間が過ぎていく。
駅のホームに並んで立つと、彼が何かを言いかけて急に黙り込んだ。
せつない沈黙。彼はきっと告白しようとしている。
時間が過ぎていく。
このまま電車が来たら、満員の車内。会話すらままならない。
私は、いつかのキューピットの言葉を思い出し、頭の中で思わず叫んだ。
『お願い。彼の背中を押してあげて!』
『かしこまりました』どこからか声が聞こえた。
次の瞬間、市川さんがホームから線路に転落した。
あっという間の出来事だった。
電車が近づいてきた。
「市川さん!」叫ぶ私の頭に、またあの声が聞こえた。
『背中押しました。これでよろしかったでしょうか』
『バカ!早く彼を助けて』
『かしこまりました』
電車は、市川さんの鼻先すれすれで止まった。ああよかった。
彼を失ったら、私も生きていけない。
もう誰かになんて頼らない。告白を待つからダメなんだ。
線路から、ようやく助けられた市川さんの手を握り、私は言った。
「市川さん、好きなの。つきあって」
市川さんはまだ動揺していて、微かに震えていた。
それでも私の目をまっすぐに見て言った。
「ごめん。おれ、彼女いるんだ」
夜風が、ふたりのあいだを吹き抜けた。
『役立たずのキューピットめ』
頭の中でつぶやいた。声はそれっきり聞こえなくなった。
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2013-04-22 18:23
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コメント(14)
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あ~せつない。それにしてもなんてキューピットだ。首にしてやれ!って誰が首にできるのかな。
by さきしなのてるりん (2013-04-22 19:35)
【 努力に勝るモノはない 】
|電柱|・ω・`)ノ ヤァ
りんさん、ギャグのお約束ですね^^
いくどめかの登場か忘れてしまった四草めぐるですw
ちょっとベタですかねw
でも充分、面白かったですよ!
ま、そう毎日、面白いモノができれば、なんの苦労もないですよねw
私の方も必死で考えているんですが、なかなかw
これでも一応、プロを目指しているので、それなりのモノをと思っていますw
りんさんの目指す所もプロ、つまり作家でしょうか?
りんさんだったらできると思いますよ。
一緒に頑張りましょう!
今日、フッと思ったんですが。
頑張っている人間の下には何度でもチャンスが舞い降りると思っています。
技術を磨き、後は出会いと運だけだと思っています!
私なんかの応援がりんさんの力になれば、毎日でもお伺いしますね!
最後には、やはり頑張りましょうになるですがw
それに尽きる努力至上主義者な私w
では、では。
草々。
by 四草めぐる (2013-04-22 22:28)
夜風がヒュ~っと吹き抜けたのが
見えましたよ。
チーンという効果音までも聞こえちゃいました…
女性の顔もこんなかなって浮かんだので
リンさんの作品はすごいですよ~
by みかん (2013-04-22 23:40)
こんなおとぼけキューピッドなら、利用しない手はありません。
今度は、彼の今つきあっている女性が電車待ちのときに、背中を押してもらって・・・
by 矢菱虎犇 (2013-04-23 05:02)
o(^▽^)oキャハハハ!とんだ恋のキューピットでしたね。
言葉の意味の変換間違いだったようですね。
このキューピットには、まだまだ修業が必要みたいです。
by haru (2013-04-23 07:07)
>『恋のキューピット…のような者です。
といういい加減なセリフで、こいつ怪しいなと言う感じはしたんですけどね。
いやいや、やられちゃいました。
彼が転落する事件のおかげで二人が付き合え出すという甘い結末を思い描いてしまったんですよね。
最初のなんか怪しいという直感を信じていれば引っ掛からなかったんですが。
現実世界でもこんなことありますよね。
振り込め詐欺とか、偽ブランドとか。
りんさん詐欺に引っかかった気分(笑)
by 海野久実 (2013-04-23 11:24)
<さぎしなのてるりんさん>
切ないですね~^^
うまくいかないものです。
告白を待ってもダメ、キューピットに頼ってもダメなんですね^^
by リンさん (2013-04-24 18:20)
<四草めぐるさん>
ありがとうございます。
鋭いですね^^じつはこれ、あまり自信作ではありません。
思いついて10分くらいで書いたものです。
たしかにベタですね^^;
私は、いつか本を出したいと思っていますが、小説家になる願望はあまりないんです。
いくつかの賞に応募はしていますが、そんなに甘い世界ではないと思うので。
でも、応援してくれる人がいると思うとやる気が出ますね。
一緒にがんばりましょう。私も応援しています。
by リンさん (2013-04-24 18:26)
<みかんさん>
あはは^^ チーンという音が聞こえましたか(笑)
確かにそんな感じですね。
本人にしてみれば悲劇なんだけど、なんか笑っちゃう。
ありがとうございます^^
by リンさん (2013-04-24 18:28)
<矢菱さん>
おお!
そうなるとサスペンスですね。
また違う話が書けますね。メモメモ^^
by リンさん (2013-04-24 18:29)
<haruさん>
本当に、なんてキューピットでしょうね。
この場合、「彼が告白するように背中を押して」って言えばよかったね。
でも彼は告白するつもりじゃなかったので、けっきょくチャンチャン!
で結果は同じだったかも^^
by リンさん (2013-04-24 18:33)
<海野久実さん>
そうですね。いかにも怪しかった^^
本当はキューピットじゃなくて死神だった…ってことにする展開も考えたのですが、市川君が電車に轢かれるのを想像すると書けなかったんです^^;
そういうのダメなんですよ。
気持ち悪くなっちゃって…。
で、詐欺師になっちゃいました(笑)
by リンさん (2013-04-24 18:36)
面白かったです!
「恋を成就させます」とか言っといて、線路に突き落とすって、そんなキューピットいないでしょ?キューピットぼけぼけ~と思っていたら、市川さんの方が天然だったのかも知れませんね。
P.S.最近の恋愛シリーズ、どれも面白かったです。いいですね、恋愛って!
by かよ湖 (2013-04-28 23:48)
<かよ湖さん>
ありがとうございます。
背中を押せばいいってもんじゃないですよね^^
恋愛シリーズ…ありがとうございます。
自分でもきゅんとしながら書いています。
お話の中だけでも、ときめいた頃に戻りた~い^^
by リンさん (2013-04-30 17:08)