スキャンダルな町：りんのショートストーリー：SSブログ

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スキャンダルな町　[コメディー] [編集]

となりに女優Ｓが引っ越してきた。
女優といっても、「ああ、そういえば見たことあるな」程度の人だ。
「○○のドラマにお手伝いさん役で出ていたな」「ああ、あの人か」
と、その程度の女優だ。
だけど閑静な田舎町の住人にとって、芸能人は特別な存在だ。
集まれば女優の話で盛り上がった。
「すっぴんで歩いているのを見たけど、意外と普通よ」
「ネットで見たけど、３２歳だって」
「やっぱり若く見えるわね。化粧品何使ってるのかしら」
「綾野剛のサインとか、もらってくれないかな」

あるとき、大きな車がとなりの家の前で止まった。
中から出てきたのは、大物俳優Ｋだった。
ああ、やっぱり女優だ。あんな大物俳優との付き合いもあるんだな。
私は単純にそう思ったが、どうやら普通の関係ではなかったようだ。
『人気俳優Ｋが女優とＷ不倫』
週刊誌の見出しに、私たちの心は躍った。
「あなたＫを見たんでしょう？かっこよかった？私も見たかったわ」
「ちらっと見ただけよ」
「きっと取材に来るわ。唯一の目撃者だもの」
「どうしましょう。インタビューされちゃうわ」
「美容院に行かなくちゃ」

テレビのレポーターや雑誌記者が大勢押しかけて、閑静な町はずいぶんと賑わった。
テレビで見たことがあるレポーターがたくさん来た。
いつ取材されてもいいように、私たちは念入りに化粧をし、よそ行きの服を着た。
しかし大物俳優Ｋがすぐに会見を開いた。
「女優Ｓとは劇団時代の仲間だ。結婚して家を建てたと聞いたから、お祝いを持って行っただけだ」
そしてＫの妻が「夫がＳちゃんと不倫？あはは、ありえないわ」と笑い飛ばしたことで、スキャンダルはあっけなく幕を閉じた。

それから女優は、名が売れたせいか少しだけ仕事が増えた。
そしてこの町は元の閑静な住宅街に戻った。
私たちは、すっかり静けさを取り戻したこの町に、何とも言えない虚しさを感じていた。
「つまらないわ」
「せっかくやや有名になった女優が近所にいるのに、何の変化もない生活なんて」
「また大物俳優が現れないかしら」
「レポーターが押し寄せるようなことないかしら」
ため息まじりに女優の家を見ていたら、若い男が裏口から出てきた。
「あの人見たことない？」
「若手俳優のＭに似てなかった？」
「アイドルのＦじゃない？」
「スキャンダルだわ」

その後、私たちは驚愕の事実を知った。
どこかで見たことのある若い男は、逃亡中の殺人犯だった。
金を盗もうと侵入し、鉢合わせした女優が刺された。
大スキャンダルとして連日レポーターが押し寄せ、前よりもっともっとたくさんの取材陣が訪れた。
「きっとインタビューされるわ」
「そうね、だって私たち全員目撃者ですもの」
「どうしましょう」
「美容院行かなくちゃ」
「お洋服も買おうかしら」
「同じ町に女優がいるって、本当に刺激的ね」

殺人犯は、まだ捕まっていない。

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2013-10-17 23:50 nice!(8) コメント(8) トラックバック(0)

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東京では芸能人や有名人を見ても、騒がないのがルールみたいですね。
大阪では吉本芸人さんなんかを時々見ますし、新大阪駅にいると有名人ともたまに遭遇しますが、よほどファンでもなければ、ああ、あの人がいる、って程度ですかね。

地方によっては外国人でも奇異な目で見られるそうですし、芸能人だとこんなこともあるのかもしれません。
りんさん、綾野剛ファンですか？
(笑)
by あかね (2013-10-18 00:16)