別れる方法 [男と女ストーリー]
「彼と出会ったのは大学の時です。18から付き合い始めて10年。
10年も付き合えば、もう倦怠期の夫婦みたいです。特に最近は、話しかけても生返事ばかり。結婚ですか?今更って感じです。
このままズルズルと付き合って、子供が出来たから結婚する…。そういうの嫌なんです。
もうスッパリ別れて、違う人とやり直したいんです」
「よくわかります」と、女性が穏やかに頷いた。
ここは、恋愛コンサルティングの別離センター・通称『別れさせ屋』と言われている。
彼とのマンネリな関係に終止符を打とうと訪れた。
「10年も付き合えば、情がわくし、…元々嫌いになったわけじゃないし、なんか言いづらくて」
「つまり、彼の方から別れを告げてほしいということですか?」
「そうです。でも、彼に女が出来たとか、そういうのは嫌です。悔しいし、なんかみじめだし。穏やかに別れたいの。前向きな別れ。そう、笑顔でさよなら…みたいなのがいいんです」
「かしこまりました。では、こちらで手続きをお願いいたします」
彼が訪ねてきたのは翌日の夜だった。
いつになく深刻な顔で座り、「大事な話がある」と言った。
「ニューヨークに転勤になったんだ」
「ニューヨーク?」
「君には君の生活があるから、一緒に来てくれとは言わない。待っててくれという資格もない。仕事に専念したから、遠距離恋愛も自信がない。だから、つまり…別れてほしいんだ」
「前から海外で仕事したいって言ってたよね。よかったね。これって、前向きな別れだよね」
「うん。それぞれの場所で、お互い幸せになろう」
私たちは、ワインを注いでグラスを傾けた。
そして、それぞれの未来を語りながら、熱い抱擁をした。
私の希望通り、笑顔で別れた。
後日私は別離センターを訪れ、無事別れたことを報告した。
「ありがとうございました。おかげさまで笑顔で別れることが出来ました。すごいですね。いったいどんな手を使ったんです?」
すると、担当の女性は首を傾げた。
「あの、こちらはまだ何もしていませんが…」
「え?」
「対象者とコンタクトをとろうと思いましたら、会社をリストラされて田舎に帰ったと聞きまして、対策を考えていたところでございます」
「リストラ?」
「はい。ご実家の農家を継ぐとか。まあ、無事に別れられたのなら、もう私たちは必要ありませんね。後日これまでの調査費のみを請求させていただきます」
私は急ぎ足で別離センターを後にした。
何がニューヨークよ。大ウソつき!
そのまま駅に行き、電車に飛び乗った。
一度だけ行ったことがある彼のふるさと。山と田んぼしかない田舎町。
「私、こんなところで暮らすのは絶対無理。3日と持たないわ」
そう言ったのを思い出した。だから言えなかったのか。
悩んでいたのね。私ちっとも気づかなかった。
電車に揺られながら思い出すのは、彼との楽しい思い出ばかり。
不似合のハイヒールで畦道を走れば、その先に泥だらけで農作業をする彼がいた。
汗にまみれた横顔は、太陽みたいに輝いて見えた。
私は、服が汚れるのもかまわずに、彼の胸に飛び込んだ。
**
「お電話ありがとうございます。こちらは恋愛コンサルティング・求婚センターでございます」
「あ、ありがとうございます。おかげさまで彼女にプロポーズできました」
「まあ、上手くいきましたか。それはよかったですね」
「30歳までに実家に帰る約束でしたから、結婚は無理だと半分諦めてました」
「おめでとうございます。結婚式はぜひ、当社のブライダルセンターをご利用くださいませ。ありがとうございました」
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10年も付き合えば、もう倦怠期の夫婦みたいです。特に最近は、話しかけても生返事ばかり。結婚ですか?今更って感じです。
このままズルズルと付き合って、子供が出来たから結婚する…。そういうの嫌なんです。
もうスッパリ別れて、違う人とやり直したいんです」
「よくわかります」と、女性が穏やかに頷いた。
ここは、恋愛コンサルティングの別離センター・通称『別れさせ屋』と言われている。
彼とのマンネリな関係に終止符を打とうと訪れた。
「10年も付き合えば、情がわくし、…元々嫌いになったわけじゃないし、なんか言いづらくて」
「つまり、彼の方から別れを告げてほしいということですか?」
「そうです。でも、彼に女が出来たとか、そういうのは嫌です。悔しいし、なんかみじめだし。穏やかに別れたいの。前向きな別れ。そう、笑顔でさよなら…みたいなのがいいんです」
「かしこまりました。では、こちらで手続きをお願いいたします」
彼が訪ねてきたのは翌日の夜だった。
いつになく深刻な顔で座り、「大事な話がある」と言った。
「ニューヨークに転勤になったんだ」
「ニューヨーク?」
「君には君の生活があるから、一緒に来てくれとは言わない。待っててくれという資格もない。仕事に専念したから、遠距離恋愛も自信がない。だから、つまり…別れてほしいんだ」
「前から海外で仕事したいって言ってたよね。よかったね。これって、前向きな別れだよね」
「うん。それぞれの場所で、お互い幸せになろう」
私たちは、ワインを注いでグラスを傾けた。
そして、それぞれの未来を語りながら、熱い抱擁をした。
私の希望通り、笑顔で別れた。
後日私は別離センターを訪れ、無事別れたことを報告した。
「ありがとうございました。おかげさまで笑顔で別れることが出来ました。すごいですね。いったいどんな手を使ったんです?」
すると、担当の女性は首を傾げた。
「あの、こちらはまだ何もしていませんが…」
「え?」
「対象者とコンタクトをとろうと思いましたら、会社をリストラされて田舎に帰ったと聞きまして、対策を考えていたところでございます」
「リストラ?」
「はい。ご実家の農家を継ぐとか。まあ、無事に別れられたのなら、もう私たちは必要ありませんね。後日これまでの調査費のみを請求させていただきます」
私は急ぎ足で別離センターを後にした。
何がニューヨークよ。大ウソつき!
そのまま駅に行き、電車に飛び乗った。
一度だけ行ったことがある彼のふるさと。山と田んぼしかない田舎町。
「私、こんなところで暮らすのは絶対無理。3日と持たないわ」
そう言ったのを思い出した。だから言えなかったのか。
悩んでいたのね。私ちっとも気づかなかった。
電車に揺られながら思い出すのは、彼との楽しい思い出ばかり。
不似合のハイヒールで畦道を走れば、その先に泥だらけで農作業をする彼がいた。
汗にまみれた横顔は、太陽みたいに輝いて見えた。
私は、服が汚れるのもかまわずに、彼の胸に飛び込んだ。
**
「お電話ありがとうございます。こちらは恋愛コンサルティング・求婚センターでございます」
「あ、ありがとうございます。おかげさまで彼女にプロポーズできました」
「まあ、上手くいきましたか。それはよかったですね」
「30歳までに実家に帰る約束でしたから、結婚は無理だと半分諦めてました」
「おめでとうございます。結婚式はぜひ、当社のブライダルセンターをご利用くださいませ。ありがとうございました」
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2013-10-21 16:59
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コメント(17)
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リンさんさん こんばんは
すばらしい落ちに感動です。上には上があるものですね。
by SORI (2013-10-22 02:50)
面白い!! 言うことありません。
いい気持で読んでいて最後にまたがーんとやられました。
心地良い敗北感に酔っています。
by dan (2013-10-22 18:03)
<SORIさん>
ありがとうございます。
何はともあれ、上手くいってよかったですね^^
by リンさん (2013-10-24 18:08)
<danさん>
ありがとうございます。
そうなんですよ。彼の方が一枚上手。
でも本当に上手なのは、商売上手なこの会社ですね(笑)
by リンさん (2013-10-24 18:09)
涙が出るわ。こういう話。今時田舎に来る 嫁がいるか、、、と思うと。
独身の専業農家の若い男、いいのがいるんだけど、イラナイかい?その会社に紹介してもらおうかな。
by さきしなのてるりん (2013-10-25 23:06)
さすが、リンさん。おもしろいオチでした。
別離センターと求婚センターとブライダルセンターは同一グループという事でしょうか?
彼女より彼の方が、成功報酬が高かったのかな?
いずれにしても・・・おめでとう。
by かよ湖 (2013-10-26 00:48)
手堅いオチですね。十分に楽しませていただきました!
by サイトー (2013-10-26 07:41)
思いがけない展開、面白かったでやす(◎o◎)
by ぼんぼちぼちぼち (2013-10-27 10:03)
この別離センターと恋愛コンサルティング・求婚センターは経営者が同じなんじゃないですか?
物語の背景がいろいろ想像できますね。
>不似合のハイヒールで畦道を走れば、その先に泥だらけで
というオチ前の三行がいいですね。
ぼくは
>「あの、こちらはまだ何もしていませんが…」
でオチに気が付いてしまいましたけれど、それはもうどんな落ちなのか考えながら読んでいるからですね。
そんな読み方をするのは実作者の悪い癖。
素直に楽しんで読め、と言うことですよね。
あ、かよ湖さんが同じこと書いてる。
by 海野久実 (2013-10-27 10:45)
かよ湖さんは
>彼女より彼の方が、成功報酬が高かったのかな?
と書いてらっしゃいますが、僕の想像では、この二つの会社を経営している女社長(なぜか女社長)が二人の依頼を見て、総合的に判断して二人とも幸せになれるように画策したと言うことだと思いますね。
by 海野久実 (2013-10-27 11:15)
<さぎしなのてるりんさん>
私の従兄は、いずれ島に帰らなければいけないからと、彼女とサヨナラしました。そして50を過ぎても独身。
やっぱり田舎暮らしといのは結婚への妨げなんでしょうか。
いい人たくさんいるのにね。
by リンさん (2013-10-27 20:32)
<かよ湖さん>
そうなんです。
これは全部同じ会社なんです。部署が違うだけ。
上手く連携しているんですね。
どちらからも報酬をもらって、さらに結婚式でもう一儲け。
やりますねえ(笑)
by リンさん (2013-10-27 20:34)
<サイトーさん>
ありがとうございます。
単なる純愛物を書こうと思っていたんですが、やっぱりオチをつけたくなってしまうんですよね(笑)
by リンさん (2013-10-27 20:36)
<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
楽しんでいただけて光栄です^^
by リンさん (2013-10-27 20:37)
<海野久実さん>
オチに気づきましたか。
さすが海野さんですね。
そうなんです。これは同じ会社なんです。
女社長…きっと女だと私も思います(笑)
結果的に幸せになれてよかったですね。
社長の策略だとしたら、たいした人です。
by リンさん (2013-10-27 20:44)
すごいの一言です。ハッピィエンドですね。
わかってみれば そうなんだ。~ですけど。
この話は今の時代にぴったりですね。
by たまきち (2014-03-07 17:41)
<たまきちさん>
ありがとうございます。
こんなふうに上手く行ったのは、ふたりに愛があったからですね。
愛があれば、田舎暮らしも楽しいですよ、きっと^^
by リンさん (2014-03-08 17:56)