ボクが選んだママ [ファンタジー]
ボクは生まれ変わるために来たんだ。
神様がね、そろそろいいだろうって言ったの。
それでね、神様と一緒に人間界に来たの。
いい香りがする喫茶店に、3人の女性がいたんだ。
「この3人の中から、おまえの母親を選んでおなかに入りなさい」
神様はそう言って空へ帰った。誰にしようかな。
ひとりは泣いている。ひとりは怒っている。ひとりは笑っている。
「お願いです。ヒロシを返して」と泣き女。
「やめてよ。何泣いてんの。あたしが悪いみたいじゃん」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
「彼がいないと私ダメなの。もう生きていけない」と泣き女。
「すぐそういうことを言う女、あたし大嫌い」と怒り女。
「まあまあふたりとも落ち着いて」と笑い女。
修羅場ってやつかな。ヒロシっていう男をめぐって、泣き女と怒り女が争っているみたいだ。
しばらく様子をみよう。
「ヒロシと私は、結婚の約束をしていたんです」と泣き女。
「そんなこと知るか。言い寄って来たのはヒロシだからね」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
「お金ですか?手切れ金払えばいいですか?」と泣き女。
「バカにすんなよ。金なんかいるか」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
ちょっと待ってよ。今の話だと、泣き女と怒り女は独身じゃないか。
ボクがおなかに入るのは、まずいんじゃないかな。
じゃあ、残るのは笑い女だ。この人は結婚しているのかな。
「私、ヒロシを愛しているんです」と泣き女。
「あたしだって愛してるよ」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
「あの、すみません。さっきから笑っているあなたは誰なんでしょう?」と泣き女。
「そうだよ。あんた誰?」と怒り女。
「あらいやだ。わたしったら、名乗ってなかったわね。わたし、ヒロシの家内です」と笑い女。
えええ~!そういう展開?
でもまあ、そういうことなら、笑い女は結婚しているんだな。
「うそでしょう?まさか奥さんがいたなんて」と泣き女。
「やだ、これって不倫じゃん!」と怒り女。
「ごめんなさいねぇ。主人がご迷惑をおかけしちゃって」と笑い女。
「だからヒロシは来ないんですね」と泣き女。
「奥さんを代わりによこすなんて、サイテーな男だよ」と怒り女。
「ごめんなさいねぇ。あんな男でも、わたしには大事な夫なのよ」と笑い女。
「奥さんには、かないませんわ」と泣き女。
「あ~あ、やってられない」と怒り女。
「ごめんなさいねぇ。本当にごめんなさいねぇ」と笑い女。
泣き女と怒り女は、ため息をつきながら帰って行った。
そういうことなら、笑い女に決まりだ。パパがヒロシなのはちょっと不満だけど、この人を選ぶしかないよね。
ボクは、小さな小さな光になって、笑い女の中に入った。
これからよろしくね、ママ。
ママが携帯電話を取り出した。
「もしもし、ヒロシさん、すべて上手くいったわ。あのふたりはもうあなたに連絡してこないと思うわ。報酬は例の口座に3日以内に振り込んでね。またトラブルがあったら連絡ちょうだい」
えええ~? ママ、ヒロシの奥さんじゃないの? どうしよう、ボク入っちゃったよ。
ママは、喫茶店を出て歩き出した。行先は病院だった。ママ病気?ボクどうなるの?
検査の後、お医者さんがママに言った。
「おめでとうございます。妊娠しました」
ママはすごく喜んで、お医者さんに何度もお礼を言った。
なんだ、ちゃんと結婚していたんだね。
帰り道、おなかに手を当てて、ママはボクに話しかけた。
「はじめまして。わたしがママよ。あなたにはパパはいないの。結婚なんてくだらない。世の中バカな男とバカな女ばかり。わたしの人生に、男はいらないの。だけどね、子供は別よ。子供は欲しいわ。だからね、人工授精であなたを授かったの。あなたのパパは、どこの誰だかわからないけれど、すごく優秀で健康よ。だからあなたも、優秀な子供になるわ。安心して生まれてきてね」
神様、ボク、これでよかったのかな。
「人工授精は、神に逆らう行為だという人もいるけどね、わたしはそんなの気にしない。バカな男の子供を産むよりずっといいわ。そう思わない?」
神様、そういうことらしいよ。ボク、とりあえず無事に生まれて頑張って生きてみるよ。
にほんブログ村
神様がね、そろそろいいだろうって言ったの。
それでね、神様と一緒に人間界に来たの。
いい香りがする喫茶店に、3人の女性がいたんだ。
「この3人の中から、おまえの母親を選んでおなかに入りなさい」
神様はそう言って空へ帰った。誰にしようかな。
ひとりは泣いている。ひとりは怒っている。ひとりは笑っている。
「お願いです。ヒロシを返して」と泣き女。
「やめてよ。何泣いてんの。あたしが悪いみたいじゃん」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
「彼がいないと私ダメなの。もう生きていけない」と泣き女。
「すぐそういうことを言う女、あたし大嫌い」と怒り女。
「まあまあふたりとも落ち着いて」と笑い女。
修羅場ってやつかな。ヒロシっていう男をめぐって、泣き女と怒り女が争っているみたいだ。
しばらく様子をみよう。
「ヒロシと私は、結婚の約束をしていたんです」と泣き女。
「そんなこと知るか。言い寄って来たのはヒロシだからね」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
「お金ですか?手切れ金払えばいいですか?」と泣き女。
「バカにすんなよ。金なんかいるか」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
ちょっと待ってよ。今の話だと、泣き女と怒り女は独身じゃないか。
ボクがおなかに入るのは、まずいんじゃないかな。
じゃあ、残るのは笑い女だ。この人は結婚しているのかな。
「私、ヒロシを愛しているんです」と泣き女。
「あたしだって愛してるよ」と怒り女。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」と笑い女。
「あの、すみません。さっきから笑っているあなたは誰なんでしょう?」と泣き女。
「そうだよ。あんた誰?」と怒り女。
「あらいやだ。わたしったら、名乗ってなかったわね。わたし、ヒロシの家内です」と笑い女。
えええ~!そういう展開?
でもまあ、そういうことなら、笑い女は結婚しているんだな。
「うそでしょう?まさか奥さんがいたなんて」と泣き女。
「やだ、これって不倫じゃん!」と怒り女。
「ごめんなさいねぇ。主人がご迷惑をおかけしちゃって」と笑い女。
「だからヒロシは来ないんですね」と泣き女。
「奥さんを代わりによこすなんて、サイテーな男だよ」と怒り女。
「ごめんなさいねぇ。あんな男でも、わたしには大事な夫なのよ」と笑い女。
「奥さんには、かないませんわ」と泣き女。
「あ~あ、やってられない」と怒り女。
「ごめんなさいねぇ。本当にごめんなさいねぇ」と笑い女。
泣き女と怒り女は、ため息をつきながら帰って行った。
そういうことなら、笑い女に決まりだ。パパがヒロシなのはちょっと不満だけど、この人を選ぶしかないよね。
ボクは、小さな小さな光になって、笑い女の中に入った。
これからよろしくね、ママ。
ママが携帯電話を取り出した。
「もしもし、ヒロシさん、すべて上手くいったわ。あのふたりはもうあなたに連絡してこないと思うわ。報酬は例の口座に3日以内に振り込んでね。またトラブルがあったら連絡ちょうだい」
えええ~? ママ、ヒロシの奥さんじゃないの? どうしよう、ボク入っちゃったよ。
ママは、喫茶店を出て歩き出した。行先は病院だった。ママ病気?ボクどうなるの?
検査の後、お医者さんがママに言った。
「おめでとうございます。妊娠しました」
ママはすごく喜んで、お医者さんに何度もお礼を言った。
なんだ、ちゃんと結婚していたんだね。
帰り道、おなかに手を当てて、ママはボクに話しかけた。
「はじめまして。わたしがママよ。あなたにはパパはいないの。結婚なんてくだらない。世の中バカな男とバカな女ばかり。わたしの人生に、男はいらないの。だけどね、子供は別よ。子供は欲しいわ。だからね、人工授精であなたを授かったの。あなたのパパは、どこの誰だかわからないけれど、すごく優秀で健康よ。だからあなたも、優秀な子供になるわ。安心して生まれてきてね」
神様、ボク、これでよかったのかな。
「人工授精は、神に逆らう行為だという人もいるけどね、わたしはそんなの気にしない。バカな男の子供を産むよりずっといいわ。そう思わない?」
神様、そういうことらしいよ。ボク、とりあえず無事に生まれて頑張って生きてみるよ。
にほんブログ村
2013-12-20 19:28
nice!(11)
コメント(10)
トラックバック(0)
悩むなぁ。僕生まれていいのかな。誰の子かわからないなんて。生まれてきた僕にママなんていうのかな。
by さきしなのてるりん (2013-12-22 20:55)
ファンタジーとは言いながら、皮肉なひねりが効いた、りんさん一流のファンタジーですね。
現実を引きずったファンタジーと言うか。
それがまあ、面白いわけですが。
by 海野久実 (2013-12-22 23:53)
恐ろしい偶然が重なって、人工授精の精子がヒロシのという可能性もありますね。
by 雫石鉄也 (2013-12-23 14:01)
この3人を候補にした神様って(^▽^;)
なかなかドライなママだけど
ボク 一生懸命生きてね~
by みかん (2013-12-24 21:00)
<さぎしなのてるりんさん>
ホントにねえ。
でも結婚したくないけど子供は欲しいって人、いるみたいですよ。
by リンさん (2013-12-25 23:16)
<海野久実さん>
はい、ちょっと怖い現実ですね。
きっと生まれるころには、子供の記憶も消えてるんでしょうね。
それで父親を探したりするのかな。。。
by リンさん (2013-12-25 23:19)
<雫石鉄也さん>
わあ、そんな偶然があったら、すごいドラマですね。
優秀で健康でも、女にだらしなかったら嫌ですよね^^
by リンさん (2013-12-25 23:21)
<みかんさん>
そうですよね。
神様のチョイスがいちばんの問題かも(笑)
頑張って生きて欲しいですね^^
by リンさん (2013-12-25 23:22)
なかなか「シュールですよね。
けど、これが架空だと笑えないのが、現実だったり。
by サイトー (2013-12-28 06:17)
<サイトーさん>
ありがとうございます。
そうですね。実際にこういう考えの女性はいますからね。
by リンさん (2013-12-29 23:26)