柚のランドセル [ファンタジー]
わたしの名前は柚。4月から小学生になるの。
買ってもらったランドセルはオレンジ色。
「太陽の色だね」ってママが言ったの。
わたしとママはふたり暮らし。
ママは隣町の研究所で働いているの。
いつも忙しいから、わたしはお留守番。だけど平気よ。
だってもうすぐ小学生だもん。
その日、ママは仕事をお休みした。
「柚、いっしょに小学校へ行くわよ」
「え?小学校?わーい」
小学校へ行くのは初めてだったから嬉しかった。
ママは、わたしの手をぎゅっと握って「絶対受け入れてもらうわ」と言った。
ママは勢いよく小学校に乗り込んだ。
知らないおじさんがママを見て、呆れた顔をした。
「またあなたですか。いい加減にしてくださいよ」
「今日は娘を連れて来ましたの。ほら見てください、教頭先生。普通の子供と何の変りもないでしょう。お願いします。柚を入学させてください」
「確かに、この子はよく出来ている。まるで人間と同じだ」
「でしょう?成長に合わせて体も大きくしていくし、頭脳や能力も、年齢相応にコントロールします。それにね、すごく高性能なんですよ。充電もいらないんです」
「いや、しかし、どんなに高性能でもロボットを入学させることはできませんよ。ちょっと調べさせていただきましたけど、あなた、3年前にお子さんを亡くされてますね。それで、娘さんそっくりのロボットを造ったんでしょう?」
ママの肩が震えて、今にも泣きそうな顔をした。
「お気持ちはわかりますよ。私にも娘がいますからね。だけどね、その子は人間じゃない。入学は認められません」
教頭先生にきっぱりと言われて、ママはうなだれて帰った。
「私の気持ちが、あの禿にわかるもんですか」
ママは悔しそうに泣きながら歩いた。
家に帰ってからも、ママはずっと泣いていた。
わたしが小学校に行けないからかな。わたしがロボットだからかな。
きっと人間だったら、こんな時ママと一緒に泣くんだろうな。
だけどわたしの目からは、涙は出ないの。
西の窓から夕陽が射しこんで、わたしのランドセルを照らしたの。
「ママ、夕焼けとランドセルは同じ色だね」
そう言ったら、ママは顔を上げて少しだけ笑った。
わたしをぎゅっと抱きしめて、
「ごめんね、柚」って何度も言った。
わたしに言ったのか、天国の柚に言ったのか…。
わたしにはないママの温もりが、あの夕焼けみたいに沁みてくる。
いつか本当の人間になれるかな。そうしたら、小学校へ行けるよね。
その日まで、ランドセルは大切にとっておこうね。
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買ってもらったランドセルはオレンジ色。
「太陽の色だね」ってママが言ったの。
わたしとママはふたり暮らし。
ママは隣町の研究所で働いているの。
いつも忙しいから、わたしはお留守番。だけど平気よ。
だってもうすぐ小学生だもん。
その日、ママは仕事をお休みした。
「柚、いっしょに小学校へ行くわよ」
「え?小学校?わーい」
小学校へ行くのは初めてだったから嬉しかった。
ママは、わたしの手をぎゅっと握って「絶対受け入れてもらうわ」と言った。
ママは勢いよく小学校に乗り込んだ。
知らないおじさんがママを見て、呆れた顔をした。
「またあなたですか。いい加減にしてくださいよ」
「今日は娘を連れて来ましたの。ほら見てください、教頭先生。普通の子供と何の変りもないでしょう。お願いします。柚を入学させてください」
「確かに、この子はよく出来ている。まるで人間と同じだ」
「でしょう?成長に合わせて体も大きくしていくし、頭脳や能力も、年齢相応にコントロールします。それにね、すごく高性能なんですよ。充電もいらないんです」
「いや、しかし、どんなに高性能でもロボットを入学させることはできませんよ。ちょっと調べさせていただきましたけど、あなた、3年前にお子さんを亡くされてますね。それで、娘さんそっくりのロボットを造ったんでしょう?」
ママの肩が震えて、今にも泣きそうな顔をした。
「お気持ちはわかりますよ。私にも娘がいますからね。だけどね、その子は人間じゃない。入学は認められません」
教頭先生にきっぱりと言われて、ママはうなだれて帰った。
「私の気持ちが、あの禿にわかるもんですか」
ママは悔しそうに泣きながら歩いた。
家に帰ってからも、ママはずっと泣いていた。
わたしが小学校に行けないからかな。わたしがロボットだからかな。
きっと人間だったら、こんな時ママと一緒に泣くんだろうな。
だけどわたしの目からは、涙は出ないの。
西の窓から夕陽が射しこんで、わたしのランドセルを照らしたの。
「ママ、夕焼けとランドセルは同じ色だね」
そう言ったら、ママは顔を上げて少しだけ笑った。
わたしをぎゅっと抱きしめて、
「ごめんね、柚」って何度も言った。
わたしに言ったのか、天国の柚に言ったのか…。
わたしにはないママの温もりが、あの夕焼けみたいに沁みてくる。
いつか本当の人間になれるかな。そうしたら、小学校へ行けるよね。
その日まで、ランドセルは大切にとっておこうね。
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2014-01-20 18:29
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コメント(14)
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この子はよく出来ている っていうところで
クローン人間のお話かなって思ったのですが
ロボットだった!
いつか本当にこういう事って起こるかもしれないですよね。
by みかん (2014-01-20 20:30)
こんばんは、リンさん♪
人の心がとらえきれないロボットだからこそ、
むしろ直接的に人の心にふれてくるように感じました。
淡く哀しい、でも未来には希望がありそうな、
素敵なファンタジーでした♪
by 麻乃あぐり (2014-01-21 23:53)
この作品、ファンタジーとなってますがSFです。立派なSFです。
ファンタジーとSFの違い。ものすごくざっくりした言い方で説明するのなら、魔法を使うのがファンタジー、科学を使うのがSFです。
おかあさんは科学者でしょう。で柚ちゃんはボディは合成樹脂や炭素繊維、特殊合金ででできてるのでしょう。頭にはLSIが装着されAIが搭載されてるのでしょう。心臓はバッテリーで動く電磁ポンプでしょう。ロボットなんですから。
これが、もし、おかあさんが魔道士で、樫の木に魔法をかけてつくった木偶人形が柚ちゃんなら、この作品はファンタジーです。
テッド・チャンがそのあたりのことを判りやすく説明してます。
http://blog.goo.ne.jp/totuzen703/e/c481cd7181710e30db8bf4a8600d5ae4
by 雫石鉄也 (2014-01-23 14:22)
夕焼け色のランドセルとロボットの柚ちゃんの取り合わせが
不思議な物語をよりふくらませて、興味しんしん。
科学者のママ.....近い将来こんなことあるかも。と思って
しまいました。
by dan (2014-01-23 20:54)
<みかんさん>
そうそう。クローンのパターンも考えたんですけどね、ロボットの方が夢がある気がしました。
未来には、こんな高性能のロボットができるかもしれませんね。
by リンさん (2014-01-24 17:20)
<麻乃あぐりさん>
ありがとうございます。
このロボットは、嬉しい感情はあるのに、悲しい感情はインプットされていなんでしょうね。
お母さんが、あえてそうしたのかもしれません。
素敵な未来が来ればいいなと、想いながら書きました^^
by リンさん (2014-01-24 17:25)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
SFとファンタジーの違い、すごく詳しく書いてあるんですね。
私も読んで勉強しなくては^^;
カテゴリーはいつも悩みます。
SFには、正直まだ自信が持てないところがあります。
とりあえず、この本読んでみます。
by リンさん (2014-01-24 17:28)
<danさん>
柚ちゃんとランドセルというテーマで書き始めましたが、最初はロボットではなく、普通の子供にするつもりでした。
書いてるうちにパッと思いついて^^
今のランドセルって色鮮やかで可愛いですよね。
by リンさん (2014-01-24 17:31)
う~ん、なかなかいいですね。
カテゴリはSFで。
このお話は続きがどんどん浮かんできてしまいますね。
続編もありかも。
でも、お母さん、柚ちゃんを無理に学校に入れなくても、どんどん人間らしく改造して一緒に暮らせばいいのでは?
子供が学校に行かず、お嫁にも行かずずっと一緒に暮らしてくれるなんて幸せなことかもしれません。
雫石さん。
魔法をかけるなら樫の木ではなくて柚の木でしょう。
この場合(笑)
りんさん。
雫石さんご紹介の「科学と魔法はどう違うか」はSFマガジンに掲載された論文で、単行本にはなっていないと思うのですが?
by 海野久実 (2014-01-25 18:26)
泣ける話しなのかな。もう少し泣きたい気がしたなぁ。
by さきしなのてるりん (2014-01-26 23:46)
とても切ない気持ちになりました。
私(読者)のこの切なさは目の前のいる柚ちゃんに対してなのだろうか?天国の柚ちゃんに対してなのだろうか?すべてを取り巻くこの世界に対してなのだろうか?ちょっとよく分かりません。
嬉しい感情のみをインプット、なるほど。そう思って読んでみると、さらに、う~ん、なるほど。
by かよ湖 (2014-01-27 02:00)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
ちょっと長くなりそうで書かなかったのですが、このお母さんは、あくまでも普通の人間として育てたかったんですね。
普通の子と同じように学校へ行って欲しかったんでしょう。
あ、SFマガジンですか。ホントだ。雫石さんのブログ読み直したら書いてありました。1月号ね。
by リンさん (2014-01-27 16:44)
<さぎしなのてるりんさん>
う~ん。ロボット目線で描いているので、あえて淡々と^^
では次回は泣かせてあげようホトトギス(笑)
by リンさん (2014-01-27 16:57)
<かよ湖さん>
ありがとうございます。
きっと夕焼けという描写が、切なく感じるのではないでしょうか。
この二人に幸せな未来が来ることを、私自身も願います。
by リンさん (2014-01-27 17:04)