雪女の事情 [ファンタジー]
たぶん私は、雪女なのでしょう。
こんな雪山に住んでいるのですから。しかも、こんな雪山にいるのに、ちっとも寒くないのです。
息を吹きかければ、木や動物を凍らせることも出来ます。
白い着物も着ているし、おそらく私は雪女でしょう。
それにしてもわかりません。
私はどうして雪女なのでしょう。いつから?何のために?
退屈なので、吹雪でも起こしてみましょう。
思い切り息を吐き出すと、一瞬強い吹雪が起こりました。
それと同時に、叫び声が聞こえました。
どうしましょう。こんな山に人間がいたようです。
近づいてみると、男が倒れています。
初めて見るのに、どこか懐かしさを感じる男でした。
男はすぐに起き上がり、私をじっと見ました。
「ユキ?」
危ない、姿を見られてはいけません。私は妖怪ですから、すみやかに姿を消しました。
「いや…ユキのはずがない。ユキが生きてるはずがない。もう1年も経つんだ」
ユキという女が、私に似ているのでしょうか。
「確かにこの辺りだ。ユキの遺体があるはずだ」
男は、ひとりごとを呟きながら、雪をかき分けて何かを探しています。
ああ…もしかしたら、私がそのユキなのかもしれません。
きっと1年前に、事故かなにかでこの雪山で死んだのです。
男は私の恋人で、私の遺体を捜しに来てくれたのかもしれません。
顔を見てもさっぱり思い出せませんが、あの懐かしさは、そういうことなのでしょう。
遺体を捜してもらえずに、私は悲しい雪女になってしまったのではないでしょうか。
それならば、遺体を捜せば、私は成仏できるでしょうか。
こんな寂しい雪山にひとりで暮らさずにすむのでしょうか。
私は、こっそり男の手伝いをしました。
風を起こして、雪を散らしてあげました。
男の数メートル先に、横たわるピンク色のダウンジャケットが見えました。
私です。ピンクのジャケットを着た私が雪の中で死んでいました。
男は駆け寄り、「やっと見つけた」と息をはずませました。
冷たくなった私を男が胸に抱き、私の無念は晴らされると思いました。
ところが、男は私のジャケットを乱暴に脱がし、セーターに手を入れてペンダントをむしり取ったのです。
ペンダントの先には、鍵が付いていました。
「やった!これで2億円は俺の物だ」
男は、大声で笑いました。
ああ…、なんということでしょう。私は、すべてを思い出しました。
1年前、私は男と一緒に、現金輸送車を襲って、2億円を盗みました。
あるビルの地下倉庫に金を隠し、その鍵は私が持っていました。
指名手配された私たちは、山奥の温泉宿に身を隠しましたが、それもつかの間、警察に追われて雪山に逃げ込んだのです。
そこで私は、命を落としました。崖から落ちてしまったのです。
そのあとのことはわかりません。
気付いたら、雪女になっていたのです。
「いやあ捜した、捜した。1年かかったぜ」
男は、私の遺体に話しかけました。
「もっともこの1年で、顔も変えたし新しい戸籍も手に入れた。こうして金も手に入った。俺は自由だ。おまえには貧乏くじを引かせちまったが、悪く思うなよ」
男はそう言うと、私の遺体に再び雪をかけました。
抱擁もなければ、手も合わせません。
私の心を、強い憎しみが支配しました。
私は男の前に姿を現しました。
「ユ…ユキ?」男は狼狽して尻餅をつきながら逃げようとしました。
私は、自分でも信じられないほどの恐ろしい声で唸り、男に冷たい息を吹きかけました。
男はたちまち凍ってしまいました。
私は冷たくなった男を、雪の上に寝かして、その姿が二度と目につかないように大量の雪を降らせました。
私が雪女になったのは、きっとこの男を殺すためだったのでしょう。
そして私は、犯した罪を背負いながら、永遠に雪山で暮らすのでしょう。
雪はいつまでも降り続き、私から人間の心を奪っていくのでしょう。
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こんな雪山に住んでいるのですから。しかも、こんな雪山にいるのに、ちっとも寒くないのです。
息を吹きかければ、木や動物を凍らせることも出来ます。
白い着物も着ているし、おそらく私は雪女でしょう。
それにしてもわかりません。
私はどうして雪女なのでしょう。いつから?何のために?
退屈なので、吹雪でも起こしてみましょう。
思い切り息を吐き出すと、一瞬強い吹雪が起こりました。
それと同時に、叫び声が聞こえました。
どうしましょう。こんな山に人間がいたようです。
近づいてみると、男が倒れています。
初めて見るのに、どこか懐かしさを感じる男でした。
男はすぐに起き上がり、私をじっと見ました。
「ユキ?」
危ない、姿を見られてはいけません。私は妖怪ですから、すみやかに姿を消しました。
「いや…ユキのはずがない。ユキが生きてるはずがない。もう1年も経つんだ」
ユキという女が、私に似ているのでしょうか。
「確かにこの辺りだ。ユキの遺体があるはずだ」
男は、ひとりごとを呟きながら、雪をかき分けて何かを探しています。
ああ…もしかしたら、私がそのユキなのかもしれません。
きっと1年前に、事故かなにかでこの雪山で死んだのです。
男は私の恋人で、私の遺体を捜しに来てくれたのかもしれません。
顔を見てもさっぱり思い出せませんが、あの懐かしさは、そういうことなのでしょう。
遺体を捜してもらえずに、私は悲しい雪女になってしまったのではないでしょうか。
それならば、遺体を捜せば、私は成仏できるでしょうか。
こんな寂しい雪山にひとりで暮らさずにすむのでしょうか。
私は、こっそり男の手伝いをしました。
風を起こして、雪を散らしてあげました。
男の数メートル先に、横たわるピンク色のダウンジャケットが見えました。
私です。ピンクのジャケットを着た私が雪の中で死んでいました。
男は駆け寄り、「やっと見つけた」と息をはずませました。
冷たくなった私を男が胸に抱き、私の無念は晴らされると思いました。
ところが、男は私のジャケットを乱暴に脱がし、セーターに手を入れてペンダントをむしり取ったのです。
ペンダントの先には、鍵が付いていました。
「やった!これで2億円は俺の物だ」
男は、大声で笑いました。
ああ…、なんということでしょう。私は、すべてを思い出しました。
1年前、私は男と一緒に、現金輸送車を襲って、2億円を盗みました。
あるビルの地下倉庫に金を隠し、その鍵は私が持っていました。
指名手配された私たちは、山奥の温泉宿に身を隠しましたが、それもつかの間、警察に追われて雪山に逃げ込んだのです。
そこで私は、命を落としました。崖から落ちてしまったのです。
そのあとのことはわかりません。
気付いたら、雪女になっていたのです。
「いやあ捜した、捜した。1年かかったぜ」
男は、私の遺体に話しかけました。
「もっともこの1年で、顔も変えたし新しい戸籍も手に入れた。こうして金も手に入った。俺は自由だ。おまえには貧乏くじを引かせちまったが、悪く思うなよ」
男はそう言うと、私の遺体に再び雪をかけました。
抱擁もなければ、手も合わせません。
私の心を、強い憎しみが支配しました。
私は男の前に姿を現しました。
「ユ…ユキ?」男は狼狽して尻餅をつきながら逃げようとしました。
私は、自分でも信じられないほどの恐ろしい声で唸り、男に冷たい息を吹きかけました。
男はたちまち凍ってしまいました。
私は冷たくなった男を、雪の上に寝かして、その姿が二度と目につかないように大量の雪を降らせました。
私が雪女になったのは、きっとこの男を殺すためだったのでしょう。
そして私は、犯した罪を背負いながら、永遠に雪山で暮らすのでしょう。
雪はいつまでも降り続き、私から人間の心を奪っていくのでしょう。
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2014-01-16 20:03
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コメント(12)
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なんて男だ!って思ったけど
この雪女になっちゃったユキも
強盗犯だものね(・_・)
悪い事はしちゃダメってことね。
by みかん (2014-01-16 20:23)
おはようございます。
雪女が強盗犯だったなんて、すごい結末です。すばらしいインスピレーションに感銘です。
by SORI (2014-01-17 08:22)
雪女は....はかなくて切なくて悲しくて
愛おしいのがいいなあ。そう清らかでなくては。
by dan (2014-01-17 16:11)
女の人が死んで雪女に?
それって幽霊じゃないの?と思いながら読んでいました。
雪女幽霊説(笑)
美しくはかない物語という感動がもひとつなかったのは、女が銀行強盗の一味だったからでしょうね。
結局強盗仲間の仲間割れじゃん、みたいな。
でも、十分面白い、意外な結末のお話だと言うことには変わりはないですね。
by 海野久実 (2014-01-18 18:49)
雪女は弱い女が実は強い女だということのお話だから、こういうのもありかも。然しサブイ!
by さきしなのてるりん (2014-01-18 23:40)
<みかんさん>
そうそう。この女も成仏できないんですよ。
悪いことは出来ませんね^^
by リンさん (2014-01-20 18:07)
<SORIさん>
ありがとうございます。
純愛物だったら、きれいな話だったんですけどね(笑)
by リンさん (2014-01-20 18:09)
<danさん>
そうですね。
昔話の雪女は、怖いけど切なくて悲しいんですよね。
でも、こんなふうに妖怪が作られることもあるかもしれませんよ^^
by リンさん (2014-01-20 18:15)
<海野久実さん>
そうですね。本当なら幽霊になってさまようのに、場所が場所だけに雪女になっちゃった?
男だけを悪者にすることも考えましたが、結局女も罪深かったことにしました。
by リンさん (2014-01-20 18:21)
<さぎしなのてるりんさん>
ありがとうございます。
ホントに毎日寒いですね。私は絶対雪女にはなりたくありません^^
by リンさん (2014-01-20 18:23)
神目線の淡々とした語り口調の中に壮絶なストーリーがあって、そのギャップに楽しめました。
男が凍ってしまい、なんかスキッとしました。やはり女性の視点で読んでいるからですかね。
by かよ湖 (2014-01-27 02:07)
<かよ湖さん>
ありがとうございます。
あえて丁寧な口調にしてみました。
悪いことをしたら罰を受けなければいけませんね。
この男も、もう少し情があれば殺されなかったかもしれませんね。
女は怖いよ^^
by リンさん (2014-01-27 17:08)