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危ない事情聴取 [公募]

あなたたちは誤解をしています。私は怪しい者ではありません。
身元を明かすものは持っていませんが、自己紹介をするなら私は、人類最後の男です。本当です。
私の話を聞いていただけますか。

時は二十三世紀。世界中を巻き込む大きな戦争がありました。
多くの人を苦しめた長くてつらい戦争です。
追い打ちをかけるように、ある国が殺人ウイルスを撒きました。
感染すると半日で命を落とす恐ろしいウイルスです。
ウイルスはあっという間に広がりました。
私は研究者で、ウイルスの抗体を作っていました。
しかしウイルスはすごい勢いで進化を続け、姿を変えて人間を蝕みました。
どんなに抗体を作っても間に合いません。
殺人ウイルスを撒いた国も自滅しました。本末転倒です。
兵士も次々に感染したため、戦争は終わりました。それどころではなかったのです。
人類は、限りなく滅亡に向かっていました。

抗体を作れる科学者は、とうとう私ひとりになりました。
無菌室にこもって研究を重ね、ついにウイルスを絶滅させる薬を作りました。
しかしそれは、どういうわけか女性にしか効かなかったのです。

ウイルスが絶えて、すべてが終息したときには、人類の数は激減していました。
百人も残っていなかったと思います。そして、男は私ひとりになっていました。
数少なくなった人間たちでムラを作り、共同生活を始めました。
女たちは実にたくましく、荒れた畑を耕して野菜を作ったり、汚染されていない山奥の湖まで水を汲みに行きました。
ただひとりの男である私は、力仕事のひとつもせずに、涼しい屋敷で女たちが運んでくる食事を食べていました。それだけ私は大事に扱われていたのです。
私の仕事はただひとつ、子孫を残すことでした。
女たちは誰もが子供を欲しがりました。
特に男の子を産んで人類の絶滅を回避しようと必死でした。

見ての通り、私は少しも美男子ではないし、研究ひとすじで女にもてたことなど一度もありません。
そんな私のところに、女たちは昼夜を問わずやってきました。
そしてその体を惜しげもなく差し出すのです。
若い女、中年の女、痩せた女、グラマーな女、私は夢中になりました。
一回りも若い少女が来たときは、さすがに後ろめたい気持ちになりましたが、私は快楽に溺れていきました。

しかし、そんな快楽は最初の頃だけでした。
義務だと思うと少しも楽しめなくなったし、次々にせまられて体力も限界です。
しかも女たちは誰ひとり妊娠せず、ますます躍起になりました。
そして女たちは、私をめぐって醜い争いをするようになったのです。

もう、うんざりでした。私は、逃げ出しました。もう女を見るのもいやでした。
灯りひとつない真夜中に屋敷を抜け出して走りました。
走って走って、化け物が出そうな森を三日三晩さまよいました。
空腹でふらふらでしたが、もう死んでもいいと思いました。
人類の滅亡など、知ったことじゃありません。
倒れそうになって限界を感じたとき、遠くに明るい光が見えました。
森の出口です。私は導かれるように、光に向かって歩きました。

森を抜けるとそこは別世界でした。
街灯があり、たくさんの車が走り、きれいな街並みがあり、戦争もない平和な街でした。
そうです。あの森は二十一世紀の、この世界につながっていたのです。
驚きました。この時代は実に素晴らしい。何より男がたくさんいます。
私は嬉しくなって、男を見ると握手を求めたり、抱き付いたりしました。
誤解しないでください。そういう趣味があるわけではないんです。
本当に嬉しかったのです。
まあ、それで不審者扱いされて、こんなところに連れてこられたわけですが…。
 
私はもう、あちらの世界には帰りたくありません。
何しろ女しかいないのです。さかりのついた猫みたいな女ばかりです。
女の年齢ですか? 下は十代の少女から、上は五十代の熟女まで。
いちばん多いのは、三十代前半くらいの女性です。
中には女優のようなきれいな女もいます。
見たこともない豊満なバストの持ち主もいます。
だけど私にとってはみんな同じです。もう女の相手をするのは本当にうんざりなんです。
誰かが代わってくれたならどんなにいいでしょう。

その森の場所ですか?
この建物の前の道を西側にまっすぐ進んだ先にあります。
ああ、あの時もちょうど今みたいな赤い月が出ていました。
今なら、二十三世紀の世界とつながっているかもしれません。
あの、女だらけの忌々しい世界と。
私は帰りませんよ。豊満なバストを揺らしてせまってくる女など、二度とごめんです。

あれ、みなさん、どこへ行くんですか?

******

公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただきました。
課題は、「人類最後の男」
レベルがどんどん上がっているような気がします。
最優秀への道は厳しい。

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mura

おめでとうございます~。
なるほど、さすがのアイディアですね。
ひねりかたが絶妙で。最後のオチもきいてます。

勉強になりました♪




by mura (2015-10-11 17:24) 

ぼんぼちぼちぼち

佳作おめでとうございやす!
種付け馬扱いされると男性はどん引きでやすよね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-11 20:11) 

desidesi

なるほど〜♪ (๑◔‿◔๑) 素晴らしいアイデアですね〜♪
いちおう、ねんのため、その森の場所だけ教えておいてください(笑)
by desidesi (2015-10-11 20:34) 

SORI

リンさんさん おはようございます。
悲惨な戦争から始まり快楽の世界になり時空を超えた旅につながっていくのですね。人類の滅亡を心配してしまいましたが、21世紀の男たちが23世紀にたどり着ければ滅亡回避になるかもしれません。
by SORI (2015-10-12 06:58) 

家間歳和

佳作おめでとうございます。
途中でオチは読めちゃいましたが
こういうオチ、好きです。面白かった。
5枚ものではなく、もう少し長い枚数で
読みたい物語ですね。
私は奇をてらって『現代もの』で
比喩的な『人類最後の男』で挑戦したのですが
やはりダメでした。むずかしい……。
by 家間歳和 (2015-10-12 10:33) 

海野久実

おめでとうございます。
レベルがどんどん上がっている中で入選、佳作を連発するりんさんは立派なものです。
これは星新一のショートショートっぽいですね。
星さんのショートショート集に紛れ込んでいても違和感がないと思います。
ストーリー的にも、レベル的にも。

今回は僕は出していませんでした。
テーマ的には僕好みなんですが、締め切りの頃は仕事で連日ぐったりしてた頃です。
by 海野久実 (2015-10-13 09:29) 

リンさん

<murakamiさん>
ありがとうございます。
書いてて何だか楽しかったです。
murakamiさんの作品も読んでみたいです。
by リンさん (2015-10-14 16:00) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
そうですね。
逃げたくなるのもわかります^^
by リンさん (2015-10-14 16:03) 

リンさん

<desidesiさん>
ありがとうございます。
あ、desidesiさん、行きます?
では、人類の未来は任せます^^
by リンさん (2015-10-14 16:05) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
未来が、こんな世界にならないようにしなければいけません。
少子化が進むと、こんなこともあるかもしれませんね。
by リンさん (2015-10-14 16:10) 

リンさん

<家間歳和さん>
ありがとうございます。
最初は、課題が「人類最後の人」と勘違いしてて、なかなか書けずにいたんです。
人類最後の男」だと気づき、この話にしました。
選評に、似たような内容が多かったと書かれていましたが、考えることって同じなんですね^^
最優秀は、なかなか難しそうですが、お互いに頑張りましょうね。
by リンさん (2015-10-14 16:16) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
星新一さんのショート、ちょっと意識しました。
書いていて楽しかったです。
海野さん好みのテーマだと思いましたが、残念でしたね。
今月のテーマは「そこはかとない不安」ですよ。
私は珍しく早く書けました。
by リンさん (2015-10-14 16:19) 

dan

佳作おめでとうございます。
リンさんはもう立派に作家の仲間入りですね。
継続は力なり....本当です。継続したくても才能の枯渇は
いかんともし難いものですから。
これからも最優秀目指して頑張って下さい。

by dan (2015-10-21 09:55) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
いえいえ、なかなか難しいものです。
このブログのおかげで、書き続けていられると思います。
最優秀目指して、がんばります!!
by リンさん (2015-10-24 10:59) 

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