ママの里帰り [ファンタジー]
パパとママがケンカをした。
ママはわたしの手をつかんで、家を飛び出した。
「ママ、どこに行くの?」
「地球よ」
「地球…って…どこ?」
筒型の狭い船に押し込められて、ママとわたしはエンジン全開、宇宙へと旅立った。
ビュンビュンと、フルスピードで闇を進む。
時間の感覚がまったくわからない。
いくらか眠って目覚めたら、目の前に青い星が見えた。
あれが地球。なんて美しい。
宇宙船は地球に着いた。
緑色の細長い植物がたくさん生えていた。
「竹やぶよ」
「タケヤブ?ねえママ、この植物、わたしたちの船に似てるね」
「これは竹よ。さあ行きましょう。竹やぶの先にママが育った家があるの」
ママは逸る気持ちを抑えきれないように、竹のあいだを縫うように走った。
「待ってよ~」
竹やぶを抜けたママは、呆然と足を止めた。
そこには、大きな建物が立ち並び、整備された道をたくさんの乗り物が走っている。
「ママ、地球ってすごいね」
ママはわたしの手をぎゅっと握って震えていた。
「これは、私が知ってる都じゃないわ。おじいさまの家はどこかしら。あの人たちに聞いてみましょう」
「タケトリノオキナ?何それ?絶滅危惧種的な?」
「イリオモテヤマネコ系?」
「なになに?見つけたら金もらえんの?」
ママはがっかりして竹やぶに戻った。
「あの人たちの言葉がわからない。都も人も、すっかり変わってしまった」
ママは竹に寄りかかって目を閉じた。
「ここは変わらないわ。竹を揺らす風も、高い竹の間から見える空も、昔と同じよ」
「ママは地球で生まれたの?」
「そうよ。優しいおじいさんとおばあさんに育ててもらったの。でも、時代は変わったのね。私が帰る家はもうないわ」
ざわざわと竹が揺れた。かすかに差し込む光が優しい。
「不思議ね。地球にいたときは月が恋しくて仕方なかったけど、月に帰ったら地球が恋しくてね。あなたが生まれてからは、おじいさんとおばあさんに一目だけでもあなたを見せたかった。なのにパパに反対されて大ゲンカ。あ~あ、もしかして、パパは知っていたのかもね。地球が変わってしまったことを」
太陽が沈んだ。青、赤、紺。地球の空って、色が変わるんだね。
「ねえママ、空に浮かんでいるあの丸いものは何?」
ママが泣きそうな顔で空を見上げた。
「月よ」
「え?あれが月?わたしたちの月?」
きれいだ。すごくきれいだ。
「帰ろうか」
ママが立ち上がった。
そのとき、竹やぶの上からひとすじの光が降ってきた。
「あっ、パパ!」
パパがふわりと降りてきた。
「お迎えに上がりました。お姫様」
「あなた…」
「君を迎えに来るのは2度目だね」
差し出されたパパの手を、ママがそっと握った。
少しほろ苦いママの里帰りは、こうして終わった。
このあと、月と地球の交流が始まって、わたしは「かぐや姫」の娘として地球に招かれることになるけれど、それは少し先のお話。
あ、地球時間では、ずっと先のお話だけどね。
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ママはわたしの手をつかんで、家を飛び出した。
「ママ、どこに行くの?」
「地球よ」
「地球…って…どこ?」
筒型の狭い船に押し込められて、ママとわたしはエンジン全開、宇宙へと旅立った。
ビュンビュンと、フルスピードで闇を進む。
時間の感覚がまったくわからない。
いくらか眠って目覚めたら、目の前に青い星が見えた。
あれが地球。なんて美しい。
宇宙船は地球に着いた。
緑色の細長い植物がたくさん生えていた。
「竹やぶよ」
「タケヤブ?ねえママ、この植物、わたしたちの船に似てるね」
「これは竹よ。さあ行きましょう。竹やぶの先にママが育った家があるの」
ママは逸る気持ちを抑えきれないように、竹のあいだを縫うように走った。
「待ってよ~」
竹やぶを抜けたママは、呆然と足を止めた。
そこには、大きな建物が立ち並び、整備された道をたくさんの乗り物が走っている。
「ママ、地球ってすごいね」
ママはわたしの手をぎゅっと握って震えていた。
「これは、私が知ってる都じゃないわ。おじいさまの家はどこかしら。あの人たちに聞いてみましょう」
「タケトリノオキナ?何それ?絶滅危惧種的な?」
「イリオモテヤマネコ系?」
「なになに?見つけたら金もらえんの?」
ママはがっかりして竹やぶに戻った。
「あの人たちの言葉がわからない。都も人も、すっかり変わってしまった」
ママは竹に寄りかかって目を閉じた。
「ここは変わらないわ。竹を揺らす風も、高い竹の間から見える空も、昔と同じよ」
「ママは地球で生まれたの?」
「そうよ。優しいおじいさんとおばあさんに育ててもらったの。でも、時代は変わったのね。私が帰る家はもうないわ」
ざわざわと竹が揺れた。かすかに差し込む光が優しい。
「不思議ね。地球にいたときは月が恋しくて仕方なかったけど、月に帰ったら地球が恋しくてね。あなたが生まれてからは、おじいさんとおばあさんに一目だけでもあなたを見せたかった。なのにパパに反対されて大ゲンカ。あ~あ、もしかして、パパは知っていたのかもね。地球が変わってしまったことを」
太陽が沈んだ。青、赤、紺。地球の空って、色が変わるんだね。
「ねえママ、空に浮かんでいるあの丸いものは何?」
ママが泣きそうな顔で空を見上げた。
「月よ」
「え?あれが月?わたしたちの月?」
きれいだ。すごくきれいだ。
「帰ろうか」
ママが立ち上がった。
そのとき、竹やぶの上からひとすじの光が降ってきた。
「あっ、パパ!」
パパがふわりと降りてきた。
「お迎えに上がりました。お姫様」
「あなた…」
「君を迎えに来るのは2度目だね」
差し出されたパパの手を、ママがそっと握った。
少しほろ苦いママの里帰りは、こうして終わった。
このあと、月と地球の交流が始まって、わたしは「かぐや姫」の娘として地球に招かれることになるけれど、それは少し先のお話。
あ、地球時間では、ずっと先のお話だけどね。
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2015-10-06 19:39
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タケトリノオキナ・・・絶滅危惧種的な?(爆)
by desidesi (2015-10-06 23:34)
かぐや姫の続編 なんとなく映像がうかびます。
by たまきち (2015-10-07 05:34)
傑作です。これファンタジーというカテゴリーに分類されておられますが、SFとしても傑作です。この作品、ファンタジーの茎にSFの実がなったという感じです。みごとなファンタジーとSFのハイブリッドといえます。
なお、私のSFの私なりの定義はこういうことです。
http://blog.goo.ne.jp/totuzen703/e/4cc58359428078defb1f59ce3e7237ff
by 雫石鉄也 (2015-10-07 13:32)
かぐや姫を迎えに来たメンバーの一人とかぐや姫は結ばれたわけですね。
かぐや姫のパロディー(続編?)だと気が付いて一瞬興味を失いかけたんですが、いやいや面白かったです。
>「イリオモテヤマネコ系?」
なんてくすぐりににやにやしながら読み進み、パパさんが迎えに来る場面ではちょっとウルウルしかけたり。
by 海野久実 (2015-10-07 18:11)
>君を迎えに来るのは2度目だね
あぁ そういうことなのね♡
とても読みやすかったです(#^.^#)
by みかん (2015-10-08 19:50)
竹やぶがでたところでかぐや姫.....だと。
身構えましたね私。
でもほのぼのといい話でした。「かぐや姫の娘」の活躍
期待しています。
by dan (2015-10-10 11:21)
リンさんさん おはようございます。
不思議と心が洗われるようなファンタジーです。
by SORI (2015-10-11 09:02)
<desidesiさん>
ありがとうございます。
そこだけ、ちょっと笑を入れてみました^^
by リンさん (2015-10-11 14:52)
<たまきちさん>
ありがとうございます。
かぐや姫が現代に来たら、きっと驚くでしょうね。
by リンさん (2015-10-11 14:55)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
>SFとファンタジーのハイブリット
そんなふうに思っていただけて嬉しいです。
SFの定義、面白くて勉強になりました。
いつもありがとうございます^^
by リンさん (2015-10-11 14:58)
<海野久美さん>
ありがとうございます。
かぐや姫ということを、最後で明かすことも考えましたが、やはりちょっと難しかったので、途中で笑いなどを入れてみました。
楽しんでいただけてよかったです。
by リンさん (2015-10-11 15:00)
<みかんさん>
ありがとうございます。
私の記憶では、月からのお迎えの中にかぐや姫のお婿さんがいたように思います。
だから2度目でした。
優しいだんな様ね^^
by リンさん (2015-10-11 15:03)
<danさん>
ありがとうございます。
宇宙船が竹に似ている形なので、竹やぶに着地したのでは?
なんて、勝手な憶測です^^
月との交流、出来たら素敵ですね。
by リンさん (2015-10-11 15:07)
<SORIさん>
ありがとうございます。
秋になると、月のお話が書きたくなります。
by リンさん (2015-10-11 15:11)