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そっくりさん

「君、もしかして双子?」
M大に入学してから、やたら男たちが尋ねてくる。
「違うけど」
「M大通りのカフェにさ、君にそっくりな女の子がバイトしてるんだよ」
知ってる。何度も聞いた。見たことないけど。
「髪型も雰囲気も違うし、別人なのはわかるけどさ、とにかく顔が似てるんだよ。双子じゃなかったら、お姉さん?もしくは妹?従妹っていう説もあるな」
「一人っ子だし、そういう従妹もいないけど」
うんざりしながら答える。

どうやら、そのそっくりさんは、明るくて可愛くて、学生たちのアイドルらしい。
上京したばかりで友達もいない、暗くてダサい自分とは大違いだ。
顔が似てるって、本当かな。
ちょっと気になるけど、おしゃれなカフェなど入ったことがない。気後れしてしまう。
自分そっくりの子がニコニコ笑って接客しているなんて、想像するとぞっとする。

そんなある日、学食で一人ランチをしていたら、数人の男が近づいてきた。
「またか」と思ったら、彼らの後ろから髪の長い女の子がいたずらっぽく現れた。
ショートパンツにチェックのシャツ。モデルみたいに足が細い。
「うわあ、ホントに似てる~。ビックリ!」
彼女はゆるくカールした髪を揺らして、男たちに笑いかけた。
「M大に、あたしにそっくりな人がいるって聞いて、どうしても会いたくて来ちゃったの。ホントに似ててビックリだわ。あなたがロングヘアーだったら、きっと瓜二つね」
無邪気にはしゃぐ洗練された彼女を取り囲むファンの男たち。
何が可笑しいのかゲラゲラ笑ってムカつく。ランチが台無しだ。
「うるさいんだけど」
思わず叫んだ。
「どこが似てんの? 全然ちがうけど。はっきり言って迷惑だし」
彼女の顔が曇った。はしゃぎすぎた自分を恥じたのか、赤い顔をして「ごめん」と言った。
取り巻きの男たちも、バツが悪そうに離れて行った。
後味がすごく悪かった。

その日から、男たちが寄ってくることはなくなった。
だけど周りに避けられている気がする。
何だか居心地が悪い。
あのとき、本当はすごく似ていると思った。
だけどキラキラした彼女と自分とでは、まるで光と影だ。
だから卑屈になってあんな態度をとってしまった。

ふと思いついて、なけなしの小遣いでロングヘアのカツラを買った。
被ってみるとやっぱり彼女に瓜二つ。鏡の前でニコッと笑ってみた。
目眩がしそうなくらい似ている。
ショートパンツは持っていないけど、細いジーンズにチェックのシャツを合わせてみた。
ますます似ている。
このままカフェに行ってみようと思った。あの子に、この前のことを謝ろう。

街を歩くとみんな振り返る。アイドルってこんな気分なのかな。
カフェまで来たけれど、中に入る勇気がない。
ウロウロしていたら、突然彼女が店から出てきた。
「あなた、何してるの?」
「あ、え…っと、この前は似てないって言ったけど、カツラ被ったらすごく似てたから、それで、この前のことを謝ろうかと…」
「は?あなたバカなの?」
「え…、変かな」
「変だよ。だってあなた、男でしょ」

あっ、確かに。僕、頭おかしくなってる?
ぶっと彼女が吹きだして、僕のカツラをむしり取った。
「コーヒー飲んでけば」
彼女が笑った。やっぱり可愛い。
「僕も化粧してみようかな」
「マジでやめろ」

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雫石鉄也

これはみごとなどんでんがえしです。
だまされました。
by 雫石鉄也 (2015-10-02 13:35) 

海野久実

いやいや、すっかり騙されましたね。
めちゃ気持ちのいい騙され方でした。
最後に意外などんでん返しが用意されている作品ばかり書く人の作品だったら、騙されないように用心(?)しながら読むんですけど。
いやいや、これは用心してても騙されたかもしれませんね。
でも主人公の男の子、やっぱり変でしょ。
そっちの「け」があるのかもしれませんね。

by 海野久実 (2015-10-02 15:34) 

dan

私には思いつくことさえ出来ない展開です。
ああ参りました。
さすがどんでん返しのリンさん!!
by dan (2015-10-03 13:53) 

朝羽 岬

すっかりだまされてしまいました。
おもしろかったです!
by 朝羽 岬 (2015-10-03 19:17) 

みかん

えぇ~? 男の子だったの!
女の子だと思い込んでましたから~
たしかに僕は 私はといった言葉 使ってませんね。
これは読んだ人 みんな騙されちゃうのではないかしら。
さすがリンさん!(^◇^)
by みかん (2015-10-03 20:58) 

U3

いつもながら面白いね。
by U3 (2015-10-06 06:50) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
これは、男だということに気づかれたらアウトなので、読んだ皆さんの反応がすごく気になっていました。
雫石さんのコメント読んで、思わずガッツポーズしちゃいました(笑)
by リンさん (2015-10-06 19:29) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
騙せてよかった~^^
この彼は、彼女が好きになってしまったんですね。
好きが高じてこんな行動に…だけどこれがきっかけで目覚めてしまうかも…ですね^^
by リンさん (2015-10-06 19:32) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
最初は女の同志のそっくりさんにしようかと思っていましたが、ちょっと展開を変えてみました。
ウケてよかった~^^
by リンさん (2015-10-06 19:34) 

リンさん

<朝羽岬さん>
コメントありがとうございます。
喜んでいただけて良かったです^^
by リンさん (2015-10-06 19:35) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
そうなんです。
「僕」とか書けないから、「自分」にしたり、ちょっと気を使って、いつもより念入りに読み返しました。
男の子ってばれたら終わりですものね^^
by リンさん (2015-10-06 19:37) 

リンさん

<U3さん>
ありがとうございます。
U3さんに褒めていただくと自信が持てます^^
小説、いつも読んでますよ。
by リンさん (2015-10-06 19:38) 

ぼんぼちぼちぼち

意外すぎる結末、ぜんぜん予測できやせんでやした。
面白かったでやすo(◎o◎)o
by ぼんぼちぼちぼち (2015-10-08 21:26) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
みなさんを騙せてホッとしています。
by リンさん (2015-10-11 15:13) 

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