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遊覧船に乗って [ファンタジー]

お父さんと遊覧船に乗ったの。
ドラゴンの形の遊覧船だった。
私はまだ小さかったから、船首に付いたドラゴンの顔が怖かった。
「どこに行くの?」ってお父さんに聞いたら、
「お母さんのところだよ」って言った。
お母さんに逢えるなら、ドラゴンの顔が怖くても平気だと思った。

遊覧船は、ゆっくり空へ舞い上がった。
あれ? 海じゃないの? って思った。

ぐんぐん上がって、いつの間にか辺りは真っ暗。
真正面にお月さまが見えた。
いつも遠くから眺めるお月さまが、すごく近くに見えた。
遊覧船は月に向かって進んでいたの。

月に着いたら、お母さんが手を振っていた。
白いドレスを着て、月の女神みたいにきれいだった。
「ほら、お母さんにお別れしなさい」
お父さんに言われて、私も手を振った。
抱きしめてほしかったけど、船から降りることは許されなかった。
「バイバイ、お母さん。また逢いに来るよ」
声が届いたかどうかはわからないけれど、お母さんはずっと笑っていた。
だから私も笑って手を振り続けたの。

あの遊覧船は、ずっと夢だと思っていた。
なぜなら目覚めたとき、私はちゃんとお布団で寝ていて、起きたらお父さんがいつものように新聞を読んでいた。
お仏壇にはトルコ桔梗の花が飾ってあって、写真のお母さんが笑っていた。
「な~んだ、夢か」って言いながら、牛乳を飲んで学校へ行ったわ。

だけどね、あの出来事が夢じゃなかったって、今ならわかるわ。
だって、あなたたちが遊覧船に乗って、私に逢いに来てくれたんだもの。

ここはお月さま。
私たちはここで、星になるための準備をするの。
星になったら逢えないから、大切な人に最後のお別れをすることが出来るのよ。

ありがとう。来てくれて。
あらあら、まだ小さな孫が、キョロキョロしているわ。
ドラゴンの顔を見て泣かないように、ちゃんと抱っこしてあげて。
「バイバイ」
私は、あのときのお母さんみたいに、笑顔で家族とお別れしたの。

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コメント 8

SORI

リンさんさん おはようございます。
不思議とお父さんは知っている気がします。静かに流れていく時間を感じました。
by SORI (2016-09-15 05:31) 

みかん

最後にさよならが言える場所ですね。
幼いころの夢 すごく強烈な印象だったんだろうな~
お孫さんもこのことをきっと覚えててくれるわね♪
by みかん (2016-09-15 20:49) 

まるこ

リンさん、こんにちは。 

温かくて、でもやっぱり
別れを感じるのは何だか
少しもの寂しくて。
しんみりしすぎないのは
ファンタジックな背景だからかな。

いろいろな余韻が心に残る
素敵な物語です(^-^)
by まるこ (2016-09-16 14:51) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
そうですね。おとうさんは知ってて、いつも通りにしていたのでしょうね。
by リンさん (2016-09-18 15:10) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
子どもだったからこそ、憶えていたのかもしれませんね。
うん、お孫さんもきっと憶えているでしょうね。
by リンさん (2016-09-18 15:13) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
9月と言えばお月見。
月に因んだ話を書きたくなりました。
やっぱり月には不思議な力を感じます。
by リンさん (2016-09-18 15:15) 

海野久実

深いやさしさと悲しみをたたえたすてきなお話でした。

子供だった主人公が一瞬で孫のいるおばあさんになっているこの最後の場面転換は鮮やかですね。
時間の経過にめまいがする思いがしました。

by 海野久実 (2016-09-20 17:30) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
最初のお母さんは、小さな子供を残して逝ってしまったけど、「私」は、ちゃんとおばあさんになってから逝ったことにしたかったんです。時間にしたら60年くらいでしょうか^^
by リンさん (2016-09-21 21:44) 

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