日めくりカレンダーの逆襲 [ミステリー?]
しまった。
日めくりカレンダーを2枚めくってしまった。
セロテープで張り付けるか。
いや、そんな暇はない。今日は大事な会議だ。
明日の分もめくったことにすればいいや。
僕は破いた2枚の紙をゴミ箱に捨てて、急いで家を出た。
「あれ、新田さん早いですね」
会社に着くと、後輩の柴田さんが話しかけてきた。
「ああ、9時半から商品開発会議だろう。資料を確認しようと思って」
「えっ?その会議、きのう終わったじゃないですか」
「きのう?」
「そうですよ。Aチームにプレゼン負けて、うちのチームはサポートに回ることになったじゃないですか」
「企画、通らなかったのか?」
「やだ、しっかりしてくださいよ。悔しくてみんなでやけ酒飲んだじゃないですか。新田さん、酔いつぶれて忘れちゃいました?」
しらない。会議に出た覚えもないし、酒を飲んだ記憶もない。
ハッとして、スマホの日付を見た。
『9月22日』
今日って、21日じゃなかったか? 朝起きたときは、21日だった。
テレビのアナウンサーが言っていた。「9月21日木曜日です」と。
パソコンを開くと、9月21日付のメールが数件あった。すべてに返信している。
スマホの着信は2件。いずれもユリからだ。
ユリはそろそろ結婚を考えている恋人だ。きのう僕たちは何を話した?
昼休みにユリに電話した。
「あのさ、今夜会えない?」
「はあ?会うわけないでしょ。私たち、もう終わりよ」
「えっ、どうして急に?」
「決まってるでしょう。夕べの電話よ。どうしてあなたの電話に女が出るのよ」
「女?」
「会社の後輩の女よ。彼女気取りであなたの介抱をしていた、あざとい女よ」
飲んだ記憶もないのに、どういうことだ。
柴田さんに確認すると「ああ、出ましたよ、電話」とすました顔で言う。
「気の強そうな人ですね。新田さんには合わないかも。別れたら私、立候補してもいいですか? っていうか、もうキスしちゃったし、私たち」
「えっ!!」
何だ、この展開。まずいぞ。
僕は体調不良を訴えて、早退して家に帰った。
日めくりカレンダーを2枚めくったせいで、9月21日が消えてしまった。
ゴミ箱から21日の紙を拾って丁寧に皺を伸ばし、セロテープで22日の上に貼りつけた。
そしてスマホを見ると、日付は『9月21日』
よかった、戻った。
急いで会社に行った。9月21日をやり直すはずだった。しかし……
「新田さん、何ですか、今ごろ来て。プレゼン負けましたよ」
「もう会議終わりましたよ。リーダーが無断欠席なんて前代未聞」
「新田君、社長もお怒りだ。地方への異動は覚悟したまえ」
最悪だ。日にちは戻せても、時間は戻せなかったのか。
でも僕にはユリがいる。ユリとの関係は壊れていない。
夜になってユリに電話をしたら、男が出た。
「ああ、ユリの彼氏さんですか? ユリは今シャワー浴びてますよ」
なんだと?
もう、何もかもが嫌になって、家に帰って日めくりカレンダーを全部めくった。
こんなもの、もう要らない。すべてをゴミ箱に捨てた。
そのまま寝て、目が覚めると一面の銀世界の中にいた。
雪山が目の前に見える。外は猛烈な吹雪だ。
ここはどこだ? そして、今日は何月何日? スマホは圏外。テレビもない。
半そでのパジャマの腕をさすりながら、僕は途方にくれた。
日めくりカレンダーを2枚めくってしまった。
セロテープで張り付けるか。
いや、そんな暇はない。今日は大事な会議だ。
明日の分もめくったことにすればいいや。
僕は破いた2枚の紙をゴミ箱に捨てて、急いで家を出た。
「あれ、新田さん早いですね」
会社に着くと、後輩の柴田さんが話しかけてきた。
「ああ、9時半から商品開発会議だろう。資料を確認しようと思って」
「えっ?その会議、きのう終わったじゃないですか」
「きのう?」
「そうですよ。Aチームにプレゼン負けて、うちのチームはサポートに回ることになったじゃないですか」
「企画、通らなかったのか?」
「やだ、しっかりしてくださいよ。悔しくてみんなでやけ酒飲んだじゃないですか。新田さん、酔いつぶれて忘れちゃいました?」
しらない。会議に出た覚えもないし、酒を飲んだ記憶もない。
ハッとして、スマホの日付を見た。
『9月22日』
今日って、21日じゃなかったか? 朝起きたときは、21日だった。
テレビのアナウンサーが言っていた。「9月21日木曜日です」と。
パソコンを開くと、9月21日付のメールが数件あった。すべてに返信している。
スマホの着信は2件。いずれもユリからだ。
ユリはそろそろ結婚を考えている恋人だ。きのう僕たちは何を話した?
昼休みにユリに電話した。
「あのさ、今夜会えない?」
「はあ?会うわけないでしょ。私たち、もう終わりよ」
「えっ、どうして急に?」
「決まってるでしょう。夕べの電話よ。どうしてあなたの電話に女が出るのよ」
「女?」
「会社の後輩の女よ。彼女気取りであなたの介抱をしていた、あざとい女よ」
飲んだ記憶もないのに、どういうことだ。
柴田さんに確認すると「ああ、出ましたよ、電話」とすました顔で言う。
「気の強そうな人ですね。新田さんには合わないかも。別れたら私、立候補してもいいですか? っていうか、もうキスしちゃったし、私たち」
「えっ!!」
何だ、この展開。まずいぞ。
僕は体調不良を訴えて、早退して家に帰った。
日めくりカレンダーを2枚めくったせいで、9月21日が消えてしまった。
ゴミ箱から21日の紙を拾って丁寧に皺を伸ばし、セロテープで22日の上に貼りつけた。
そしてスマホを見ると、日付は『9月21日』
よかった、戻った。
急いで会社に行った。9月21日をやり直すはずだった。しかし……
「新田さん、何ですか、今ごろ来て。プレゼン負けましたよ」
「もう会議終わりましたよ。リーダーが無断欠席なんて前代未聞」
「新田君、社長もお怒りだ。地方への異動は覚悟したまえ」
最悪だ。日にちは戻せても、時間は戻せなかったのか。
でも僕にはユリがいる。ユリとの関係は壊れていない。
夜になってユリに電話をしたら、男が出た。
「ああ、ユリの彼氏さんですか? ユリは今シャワー浴びてますよ」
なんだと?
もう、何もかもが嫌になって、家に帰って日めくりカレンダーを全部めくった。
こんなもの、もう要らない。すべてをゴミ箱に捨てた。
そのまま寝て、目が覚めると一面の銀世界の中にいた。
雪山が目の前に見える。外は猛烈な吹雪だ。
ここはどこだ? そして、今日は何月何日? スマホは圏外。テレビもない。
半そでのパジャマの腕をさすりながら、僕は途方にくれた。
2023-09-21 17:32
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コメント(8)
これは面白いです。私も長年のSFファンで「時間」をネタにしたSFも多く読みましたが、こういう時間の扱い方をしたSF(これは立派なSF)です。は初めてです。たいへんに優れたアイデアストーリイでした。
昔、早川書房が「異色作家短編集」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%B0%E8%89%B2%E4%BD%9C%E5%AE%B6%E7%9F%AD%E7%AF%87%E9%9B%86
という名アンソロジーシリーズがありましたが、それに掲載されていてもおかしくないです。
by 雫石鉄也 (2023-09-22 14:10)
いやあ、最高に面白かったでやす。
テープではりなおした辺りから、ぐんぐんありていの展開を外れて予測不可能になって、一気呵成に読み込んでしまいやした。
さすが、リンさんさん!
by ぼんぼちぼちぼち (2023-09-22 14:58)
今、とても楽しみにしているライブがあって、
その日まで一気に、
日めくりをめくってしまいたいですが、
やっぱりやめときます^^
日々は、小さなことの積み重ねで、
状況はどんどん変化していくのですね^^
ほんと、明日の自分がどうなっているか、
分かりませんね^^;
by 青山実花 (2023-09-23 08:46)
リンさんさん おはようございます。
まさに「日めくりカレンダーの逆襲」ですね。すごい発想に感激いたしました。
by SORI (2023-09-24 04:40)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
私は毎朝、日めくりカレンダーをめくるのが日課で、めくったとき、ふと思ったんです。
間違って2枚めくって、今日が丸々消えたら面白いかもって。
こんなにお褒めいただいて、恐縮です^^
by リンさん (2023-09-29 12:02)
<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
そうなんです。戻って終わりじゃつまらないと思って、一ひねりしました。
by リンさん (2023-09-29 12:03)
<青山実花さん>
ありがとうございます。
ライブ楽しみですね。
だけど日めくりは一日分ずつめくってくださいね。
その間に予期せぬことが起きているかも^^
by リンさん (2023-09-29 12:05)
<SORIさん>
ありがとうございます。
日めくりカレンダーって、名言やことわざが書いてあったりして、毎日読むと面白いんですよね。
だからぞんざいに扱うと恨まれるかも^^
by リンさん (2023-09-29 12:07)