SSブログ

3年遅れの七五三

莉子は赤い着物がよく似合う。
艶のある真っすぐな髪をきれいに結って、まるでお人形さんみたいに可愛い。
七五三参りの日、ママは何度も私に謝った。
「亜美の時は、七五三のお祝いもしてあげられなかったね。ごめんね」
「別にいいよ。着物なんて着たくないし。莉子みたいにきれいな髪じゃないし」

私が七五三を迎えた3年前、パパが病気で長いこと入院していた。
ママは、病院と莉子の世話でそれどころじゃなかった。
そんなこと、ちゃんと分かっている。
パパはその後すっかり元気になって、仕事にも復帰した。
莉子は、ママが大変で家の中がどんより暗かった日のことは、何も憶えていない。
まだ3歳だったから、何も我慢することなく我儘ばかり言っていた。

「せめて写真だけでも撮れば良かったね」
「もういいよ、ママ。お参りしなくても、こんなに元気に育ってるよ」
「そうね。亜美は本当に手がかからない子ね。いつも我慢させてごめんね」
「だからいいってば」

秋晴れの日曜日、家族そろって神社に行った。
ママは私のために、白いワンピースを作ってくれた。
裾と袖にレースが付いててちょっと恥ずかしい。
だけど「絶対似合う」ってママが言うから着た。いつものジーンズでいいのに。
「おっ、ふたりとも可愛いな」
パパが言ったけど、可愛いのは莉子だけ。
私はおまけだし、似合わないワンピースだし、髪もくせ毛だし。
歩いていると、近所の人も莉子ばかり褒めた。
「七五三、おめでとう」
「なんて可愛いのかしら」
莉子はアイドルみたいに手を振っていた。

お参りを終えた後、パパが4人で写真を撮ろうと言った。
通りすがりの女の人にお願いしてカメラを渡して、4人で鳥居の前に並んだ。
女の人は、ニコニコしながら「はい、笑って」と、カメラを向けた。
私は一応笑って見せたけど、うまく笑えたかな。
まあいいや。主役は莉子だから。

「すごく可愛く撮れましたよ。まるでお人形さんみたい」
女の人はそう言って、私と莉子を交互に見た。
何だか比べられてるみたいで、目をそらした。

「本当に可愛いね。まるで日本人形とフランス人形だわ」
「フランス人形って私?」
「そうよ。ふわふわの髪に白いドレス、大きな目とピンクの頬。あなた、私が子どもの頃に持っていたフランス人形にそっくりよ」
「えー、いいな、お姉ちゃん。フランス人形だって」
莉子が口を尖らせた。私はポカンと口を開けてしまった。

「素敵なご家族の記念日に関われて、私、幸せです」
女の人はそう言って、パパにカメラを返した。
ママが泣きそうな顔で言った。
「亜美、莉子、ふたりとも本当に可愛い。ママは今が一番幸せ」
言いながら、本当に泣き出した。
「お祝いなのにおかしいよ、ママ」
そう言いながら、私も泣いた。何もわからない莉子がキョトンとしていた。

出来上がった写真をリビングに飾った。
やっぱりどう見てもフランス人形には見えない。
だけど、ふわふわのくせ毛と白いワンピースが少しだけ好きになった。
3年遅れの七五三。
私はこの日を忘れない。

nice!(16)  コメント(6) 

nice! 16

コメント 6

ぼんぼちぼちぼち

いい話しでやすなあ。
あっしは子供の頃は直毛だったので、ふわふわの天パに、それはそれは憧れてたものでやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2023-11-07 09:39) 

雫石鉄也

この女の人、たまたま通りかかって人ですね。
この人がいい人だったから、気持ちの良い七五三になったのですね。
私みたいにいじわるゆう人だったら、ブチ壊しでしょう。
人との出会いは大切です。
by 雫石鉄也 (2023-11-07 13:57) 

SORI

リンさんさん おはようございます。
ほんと涙が出てくる素敵な物語です。
いいお話でした。
by SORI (2023-11-08 07:39) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
私はどちらかというと、くせ毛でした。
兄はまっすぐで、兄妹でも違うんですよね。
by リンさん (2023-11-14 11:30) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
確かに、この女性に頼んだのが大正解ですね。
私が頼まれたら、緊張して手が震えてしまいそうです。
by リンさん (2023-11-14 11:36) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
幸せそうな家族でも、いろいろあるものですね。
by リンさん (2023-11-14 11:38) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。