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貧乏神に愛の手を [コメディー]

ある日、パートから帰ったら、見知らぬ男がご飯を食べていた。
貧相な顔で、やせこけたみすぼらしい男だ。

「ちょっと、人の家で何してるのよ!」

「あ…見つかっちゃいましたね。すみません」

男は、今にも消えそうなか細い声で言うと、ポリポリと頭を掻いた。

「今すぐ出て行ってよ!警察を呼ぶわよ」

男は「それは困る。でも出て行くわけにも行かない」とやけに落ち着いている。

「なぜなら私は、神様なのです」なんて言い出した。

「神様?」

「はい、うすうすお気づきとは思いますが、貧乏神です」

「び、貧乏神?」

なんと!
どうりで最近出費が多いと思った。
しかも夫の給料は減らされ、私のパートだって時間短縮されて家計は火の車。
なんで急にこんなことに…って思っていたけど、まさか貧乏神のせいだったなんて。

「思い当たることがありそうですね。すみません…」

「ねえ、貧乏神さん。お願いだから出て行ってくれない?これ以上お金がなくなったら困るわ」

「そう言われましても、私も困ります。破産させるのが私の仕事ですので」

「破産?冗談じゃないわ。ねえ、他にもっと悪いことして儲けてるやつとかいるじゃない。
そういう家にいったらどう?」

「そんな簡単に再就職は見つかりませんよ。貧乏神の世界も就職難ですから」

「じゃあ、どうすれば出て行ってくれるの?」

「そうですね。そこまで言うなら、10万円で手を打ちましょう」

「10万円?」

「はい、次の就職先が決まるまでの支度金ですよ。そのくらいはしてもらわないと」

10万円でも、破産するよりはマシか…と私は貧乏神にお金を渡した。

「毎度あり。どうぞまたごひいきに」

貧乏神は、人懐こい笑顔を見せて帰っていった。

数日が過ぎた。貧乏神がいなくなったからといって、すぐに景気が良くなるわけでもなく、相変わらず時間を削られたパート先から帰り、いつものように惰性でテレビをつけた。

『ニュースをお伝えします。
貧乏神になりすまし、大金を騙し取っていた男が逮捕されました』

画面に映った貧相な顔は、紛れもなくあの男だった。

『逮捕された男は、この不況で貧乏人が増え、仕事がやりやすくなった、などと話しています。
警察は、他にも余罪があるとみて……』

やられた…私はへなへなと床に座り込んだ。
バカみたい。だけどなんだろう…笑えるわ。

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コメント 6

めりー

やだぁ^^; うちにも住みついてるかも(爆)
by めりー (2010-03-31 00:38) 

シュシュ

私の家にも来そうです(・・;)
今月、出費が多くて…
by シュシュ (2010-03-31 19:21) 

リンさん

<めりーさん>
うちには、間違いなくいますね。
早く出て行ってもらわないと(笑)
by リンさん (2010-03-31 21:55) 

リンさん

<シュシュさん>
福の神なら大歓迎なのにね。
by リンさん (2010-03-31 21:56) 

愛輝

今ならではの犯罪ですねw

貧乏神と何人もが納得するほどの顔を、見てみたい気がします(^^)
by 愛輝 (2010-04-04 00:57) 

リンさん

<愛輝さん>
ホントに、バブルの頃なら考えられない犯行ですね。
貧乏神が、あちこちにいるんじゃないかと思ってしまいますよ。
by リンさん (2010-04-05 11:55) 

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