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サクラの誘惑 [ファンタジー]

今年も、この季節がやってきたわ。
気の早いうっかりものが、まだまだ寒いのに咲いちゃったものだから、
やれ「花見はいつだ」「満開は何日頃だ」と世間が騒がしいわ。

でもね、満開になると、わたしたちサクラにも密かな楽しみがあるのよ。
それはね…

花見の場所取りに来た新入社員の男の子を品定めするの。
今の男の子って、おしゃれでかわいい子が多いのよ。
そんな男の子を、サクラの香りで誘うのよ。

さあ、わたしの足元に、そのブルーシートをお敷きなさい…ってね。

あら、さっそく来たわ。けっこうイケメンじゃないの。
いらっしゃい…って香りを振りまいたけど、残念!ねえさんサクラの方に行っちゃったわ。

ねえさんサクラ、香りのフェロモン出しすぎじゃないの?
あのフェロモンには負けるわ。
まあいいわ。わたしは若さで勝負よ。

あら、今度は二人組みがやってきたわ。花見の場所取りにふたりを寄こすなんて、今どき珍しいユルイ会社ね。

彼ら、わたしの下にやってきたわ。うん、近くで見ると二人ともなかなかいいわ。だけど、

「やっぱりこの場所やめようか」 なんて言ってる。

だめよ。せっかく来たのに、逃がすものですか。
わたしは香りのフェロモンで彼らを引き止めようとしたの。

「なんか臭くない?」

は?臭い?わたしフェロモン出しすぎたかしら?
それにしても、「臭い」はないじゃない?

「やっぱり、トイレのとなりはまずいよね」

え?ト、トイレ?

あらいやだ。わたしのとなりに仮設トイレができてる。
いつの間に?どうりで誰も来ないはずだわ。
けっきょく彼らも他に移動しちゃった。ついてないわ。

[三日月][半月][やや欠け月][満月]

夜も更けてきたわね。
ライトアップされたわたしたち、とてもきれいでしょう?

やだもう!だれも花なんか見てないじゃないの。
これじゃあただの酒飲みよ。

そんなときはね、花びらを1枚、紙コップに落としてあげるの。
もちろん気づかずに飲んでしまう人もいるけど、中には気づいて「ああ、風流だね」なんて花を見上げてくれる人もいるのよ。

だからね、何だかんだ言っても、わたしはこの季節が一番好きよ。
人間とふれあえるのは、この時期だけだもの。

ん?なんだか足元が生温かいわ。

きゃあ!おじさん、トイレはとなりよ!
こんなところで、そんなことしちゃだめよ。犯罪よ!

やれやれ…こういうふれあいは勘弁して欲しいわね。
だけどやっぱり、賑やかで楽しいお花見が、わたしは大好きよ。

さくら.JPG

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コメント 2

めりー

>さあ、わたしの足元に、そのブルーシートをお敷きなさい…ってね。

・・なんか・・魔力?みたいな感じがしました(笑)
明日から桜を見上げる目が変わりそうです^∇^
by めりー (2010-03-31 00:36) 

リンさん

<めりーさん>
桜ってたしかに魔力ありますよね(笑)
あんなに大勢の人がお花見に行くんですものね。
by リンさん (2010-03-31 21:53) 

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