木漏れ日の道で… [ミステリー?]
ようやく日陰を見つけて、僕たちは立ち止まった。
木漏れ日を浴びた母さんの顔は、まだら模様になっている。
ずいぶん走ったから、母さんは相当疲れている。
ハアハアと肩で息をして座り込んだ。
僕たちは追われている。僕のせいだ。
いや、元はといえばあいつが悪い。
あの男が、母さんに銃を向けたから、僕はそれを止めようとした。
殺す気なんてなかった。銃さえ取り上げてしまえばいいと思った。
だけど僕らはもみ合いになり、発砲とともに、あいつは倒れた。
僕は人殺しだ。あいつの仲間に追われている。
正当防衛…そうかもしれない。だけどそんなことが通用する相手じゃない。
母さんは、水を飲んだら少しは落ち着いたようだ。
もう少しだよ。あの山を越えれば、きっと大丈夫。
そのとき、気の早い蝉の声に混ざって、草を踏みしめる足音が聞こえた。
ひとりではない。数人の足音だ。
やつらが近付いている。母さん、ここは危険だ。
「お前ひとりでお逃げ。わたしはもうダメ」
…って、だめだよ母さん、いっしょに逃げよう。
誰もいない山奥で、静かに暮らすんだよ。
「お~い、見つけたぞ」
男の声がした。しまった!見つかった。
男は僕らに銃を向けた。もう終わりだね。
母さん、せめて最期にひと暴れするよ。このまま終わりじゃ悲しすぎる。
僕は男に向かって手を振り上げた。
その途端、撃たれた。
倒れる僕の目に、まだら模様の母さんの顔が、かすんで見えた。
本当に、もう終わりだね…
*
「どうだ?眠ったか?」
「ああ、麻酔銃がよく効いているようだ」
「それで、どうする?この熊?」
「ああ、熊だって好き好んで人里に下りてきたわけじゃあるまい。
このまま山奥まで運んでやるか」
「そうだな。なかなか母親思いの勇敢な熊だ。殺してしまっては可哀相だ」
「山奥で、仲良く暮らせよ。もう二度と民家に現れるんじゃないぞ」
*
目を覚ますと、森の匂いがした。さわさわと風にゆれる木漏れ日の中で、僕と母さんはうずくまっていた。
生きている… よく覚えていないけど、どうやら山奥に辿り着いたようだ。
母さんは、眩しそうに目を細め、少しよろけた。
「大丈夫?」
「ああ、助かったみたいね」
「母さん、ごめんよ。もう二度と人里に下りたいなんて言わないよ」
「そうね。たとえエサが少なくなっても、この山が私たちの居場所なのね」
僕たちは、人間のいない静かな山道を、寄り添って歩いた。
やっと笑った母さんの顔は、やっぱりまだら模様になっていた。
森林伐採はダメだよ~ というお話でした。
タメになったね~、タメになったよ~(もう中学生風に)
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木漏れ日を浴びた母さんの顔は、まだら模様になっている。
ずいぶん走ったから、母さんは相当疲れている。
ハアハアと肩で息をして座り込んだ。
僕たちは追われている。僕のせいだ。
いや、元はといえばあいつが悪い。
あの男が、母さんに銃を向けたから、僕はそれを止めようとした。
殺す気なんてなかった。銃さえ取り上げてしまえばいいと思った。
だけど僕らはもみ合いになり、発砲とともに、あいつは倒れた。
僕は人殺しだ。あいつの仲間に追われている。
正当防衛…そうかもしれない。だけどそんなことが通用する相手じゃない。
母さんは、水を飲んだら少しは落ち着いたようだ。
もう少しだよ。あの山を越えれば、きっと大丈夫。
そのとき、気の早い蝉の声に混ざって、草を踏みしめる足音が聞こえた。
ひとりではない。数人の足音だ。
やつらが近付いている。母さん、ここは危険だ。
「お前ひとりでお逃げ。わたしはもうダメ」
…って、だめだよ母さん、いっしょに逃げよう。
誰もいない山奥で、静かに暮らすんだよ。
「お~い、見つけたぞ」
男の声がした。しまった!見つかった。
男は僕らに銃を向けた。もう終わりだね。
母さん、せめて最期にひと暴れするよ。このまま終わりじゃ悲しすぎる。
僕は男に向かって手を振り上げた。
その途端、撃たれた。
倒れる僕の目に、まだら模様の母さんの顔が、かすんで見えた。
本当に、もう終わりだね…
*
「どうだ?眠ったか?」
「ああ、麻酔銃がよく効いているようだ」
「それで、どうする?この熊?」
「ああ、熊だって好き好んで人里に下りてきたわけじゃあるまい。
このまま山奥まで運んでやるか」
「そうだな。なかなか母親思いの勇敢な熊だ。殺してしまっては可哀相だ」
「山奥で、仲良く暮らせよ。もう二度と民家に現れるんじゃないぞ」
*
目を覚ますと、森の匂いがした。さわさわと風にゆれる木漏れ日の中で、僕と母さんはうずくまっていた。
生きている… よく覚えていないけど、どうやら山奥に辿り着いたようだ。
母さんは、眩しそうに目を細め、少しよろけた。
「大丈夫?」
「ああ、助かったみたいね」
「母さん、ごめんよ。もう二度と人里に下りたいなんて言わないよ」
「そうね。たとえエサが少なくなっても、この山が私たちの居場所なのね」
僕たちは、人間のいない静かな山道を、寄り添って歩いた。
やっと笑った母さんの顔は、やっぱりまだら模様になっていた。
森林伐採はダメだよ~ というお話でした。
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2010-06-12 18:50
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コメント(10)
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目に浮かんでくるようでした。
どういう締めくくりをされるのかと思ったら、熊の親子だったんですねー。
うん、お母さん思いのいい熊さんで癒されました。
by 愛輝 (2010-06-13 01:04)
僕は時々、小説ブログに訪問させていただいたときに、
どんくらいの分量があるのか、ざっとスクロールして確かめるクセみたいなのがあるんです。よっぽと長いときはやめちゃうこともあったりします・・・
そんなクセのせいで、ついスクロールしてしまって『木彫りの熊』を先に見ちゃったんです。
推理小説の謎解きの章から読むような残念さでした(笑)全部、僕のせいなんですけど。
ラスト、森に戻ったんでホッとしました。さすがはりんさん!
優しい木漏れ日ってりんさんの優しさそのものですね。
by 矢菱虎犇 (2010-06-13 05:29)
くまったくまった(困った困った)
そんなわけで、
熊に襲われる人間の映像が、たまにテレビでやってて、
ああいう時って逃げれないんでしょうね。
ガッてやられちゃうんですから。
死んだふりとか、できるもんでしょうかね?
ボクはきっとダメですよ。
そうそう、パンダってかわいいですけど、あれだって凶暴なんでしょ?
人間を襲って血まみれのパンダってのは、見たくないですねえ(笑)
by ヴァッキーノ (2010-06-13 18:16)
サスペンスかと思って、ドキドキしながら読んでしまいました。
クマの親子、助かってよかったです。
by シュシュ (2010-06-13 22:31)
<愛輝さん>
ありがとうございます。
サルとか、いろいろ考えたんですけど、熊の親子の方が絵になるかなと思ったんです。
by リンさん (2010-06-14 16:53)
<矢菱さん>
あら、先に熊を見ちゃいましたか。
くまった、くまった(ヴァッキーノさんみたい)
ラストはやっぱりハッピーエンドにしました。
だって熊、悪くないもん…
by リンさん (2010-06-14 16:56)
<ヴァッキーノさん>
熊って死んだフリしてもダメみたいですよ。
森のくまさんの歌に、「お逃げなさい」ってあるけど、それもダメらしいですよ。
血まみれパンダ?それは見たくないですね~
by リンさん (2010-06-14 16:59)
<シュシュさん>
そうなんです。
本当はファンタジーなんですけど、カテゴリーをファンタジーにしちゃうとドキドキしないかなと思って、ミステリーにしたんです。
?をつけたので、けっこういろいろ使えます(笑)
by リンさん (2010-06-14 17:01)
アッという展開で楽しかったです!
動物親子っていうのは、最強ネタですねえ!
最近は伐採がなくても森が減ってるみたいです。ヤバイな。
by 銀河径一郎 (2010-06-22 22:32)
<銀河さん>
ありがとうございます。
人間の話と見せかけて、じつは熊、というのがミソです。
動物物って、わりと書きやすいですよね。
by リンさん (2010-06-23 21:12)