トマト記念日 [ファンタジー]
会社の帰り道、八百屋を覗くと、何ともおいしそうなトマトがあった。
真っ赤に熟れて食べごろだ。
太陽の光を集めたように輝いて、艶があって可憐だ。
僕はトマトを手に取った。
「こら、オレのトマトに気安くさわるな」
八百屋の親父が血相を変えてとんできた。
「これ、売り物じゃないの?」
「手塩をかけて育てたトマトだ。どこの馬の骨ともわからん男にやれるか」
「はあ?だってトマトでしょう」
「あんた、このトマトをどうする気だ」
「どうって…。食べますよ。切ってサラダにしようかな。新鮮で旨そうだ」
「切るだと!オレのトマトを傷つける気か!」
「じゃ…じゃあ、ツルンと湯剥きしてスープにでも…」
「裸にするのか!オレのトマトを!」
「じゃあ、炒めものでも…」
「オレの愛しいトマトを油まみれにするのか!」
「じゃあどうすればいいんです?他の食べ方なんて思いつきません。僕はイケメンシェフじゃないんだから」
「何がイケメンだ。イカソーメンみたいな面して。おまえには絶対にやらん!」
なんだ、この親父は…と僕は頭にきて帰ろうと思った。
その時トマトが言った。
「このくらいで諦めちゃうの?あたしへの愛はそんなものなの?」
トマトの表面をひとすじの水滴が流れた。
まるで涙のようだ。
「わかったよ。僕は君を諦めない」
僕は親父さんに向き直って姿勢を正した。
「どうか、トマトさんを僕に下さい」
きっちり45度のお辞儀をすると、親父さんは目を潤ませて
「最初からそうすりゃいいんだ。持っていきやがれ」
とトマトを袋に入れてくれた。
「大切にします」と100円を払い、僕はトマトを抱えて帰った。
家に帰ると、妻はご近所さんとカラオケに行ったらしく留守だった。
妻は週末、たいがいカラオケに行く。
僕はトマトを袋から出した。なんて可愛いんだ。
「君を今すぐにでも食べてしまいたいけれど、もったいないから明日に残しておくよ。少し話でもしようじゃないか。君はどんなふうに食べてほしい?」
「あたしは、もちろん丸かじりがいいわ。ちょっぴり塩を振ってね」
「丸かじりか。うん。それはいいね。君には丸かじりが良く似合うよ」
僕は、トマトにそっとキスをして、ラップにくるんで冷蔵庫に入れた。
「おやすみ。僕のスイートベイビー」
僕は、明日トマトを食べると思うと、ドキドキして眠れなかった。
まず、シャワーを優しくかけてあげよう。
つぶつぶの水滴が可憐なボディに残っているうちに食べよう。
赤く柔らかいその肌に歯を突き立てる。僕は、なんて罪深い。。。
翌朝、まぶしい太陽の光で目覚めた。
なんて素敵な目覚めだろう。
僕はさっそく冷蔵庫に向かった。ドキドキは最高潮に達した。
「おはよう。僕のトマトちゃん…」
…しかしそこに、トマトはなかった。
いったいトマトはどこへ行ってしまったのだ。僕が嫌いになって出て行ってしまったのか?
「何を探してるの?」
妻がキッチンに顔を出した。
真っ赤な血のような、どろどろのトマトジュースを飲みながら。
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真っ赤に熟れて食べごろだ。
太陽の光を集めたように輝いて、艶があって可憐だ。
僕はトマトを手に取った。
「こら、オレのトマトに気安くさわるな」
八百屋の親父が血相を変えてとんできた。
「これ、売り物じゃないの?」
「手塩をかけて育てたトマトだ。どこの馬の骨ともわからん男にやれるか」
「はあ?だってトマトでしょう」
「あんた、このトマトをどうする気だ」
「どうって…。食べますよ。切ってサラダにしようかな。新鮮で旨そうだ」
「切るだと!オレのトマトを傷つける気か!」
「じゃ…じゃあ、ツルンと湯剥きしてスープにでも…」
「裸にするのか!オレのトマトを!」
「じゃあ、炒めものでも…」
「オレの愛しいトマトを油まみれにするのか!」
「じゃあどうすればいいんです?他の食べ方なんて思いつきません。僕はイケメンシェフじゃないんだから」
「何がイケメンだ。イカソーメンみたいな面して。おまえには絶対にやらん!」
なんだ、この親父は…と僕は頭にきて帰ろうと思った。
その時トマトが言った。
「このくらいで諦めちゃうの?あたしへの愛はそんなものなの?」
トマトの表面をひとすじの水滴が流れた。
まるで涙のようだ。
「わかったよ。僕は君を諦めない」
僕は親父さんに向き直って姿勢を正した。
「どうか、トマトさんを僕に下さい」
きっちり45度のお辞儀をすると、親父さんは目を潤ませて
「最初からそうすりゃいいんだ。持っていきやがれ」
とトマトを袋に入れてくれた。
「大切にします」と100円を払い、僕はトマトを抱えて帰った。
家に帰ると、妻はご近所さんとカラオケに行ったらしく留守だった。
妻は週末、たいがいカラオケに行く。
僕はトマトを袋から出した。なんて可愛いんだ。
「君を今すぐにでも食べてしまいたいけれど、もったいないから明日に残しておくよ。少し話でもしようじゃないか。君はどんなふうに食べてほしい?」
「あたしは、もちろん丸かじりがいいわ。ちょっぴり塩を振ってね」
「丸かじりか。うん。それはいいね。君には丸かじりが良く似合うよ」
僕は、トマトにそっとキスをして、ラップにくるんで冷蔵庫に入れた。
「おやすみ。僕のスイートベイビー」
僕は、明日トマトを食べると思うと、ドキドキして眠れなかった。
まず、シャワーを優しくかけてあげよう。
つぶつぶの水滴が可憐なボディに残っているうちに食べよう。
赤く柔らかいその肌に歯を突き立てる。僕は、なんて罪深い。。。
翌朝、まぶしい太陽の光で目覚めた。
なんて素敵な目覚めだろう。
僕はさっそく冷蔵庫に向かった。ドキドキは最高潮に達した。
「おはよう。僕のトマトちゃん…」
…しかしそこに、トマトはなかった。
いったいトマトはどこへ行ってしまったのだ。僕が嫌いになって出て行ってしまったのか?
「何を探してるの?」
妻がキッチンに顔を出した。
真っ赤な血のような、どろどろのトマトジュースを飲みながら。
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2011-06-27 17:21
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コメント(12)
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う~ん、これはかなり妄想癖のある男性ですね。現代はそういう男性が増えているのかも?女性が強くなりすぎたかな。(笑)
そんな雰囲気をうまく突いて、ショート・ストーリーに作り上げる。
さすが、りんさんです。おみごと!!
by haru (2011-06-27 19:10)
トマトちゃんとのラブストーリー?に
ちょっと、異様な光を見てしまいました。
笑えた!!!クスクス(´艸`o)゚.+:
面白かったです。
トマトジュースにされるときの
トマトちゃんの恐怖の叫び声を
一瞬、聞いた気がしました。。。気のせい?
……だよね。(笑)
楽しみました。さっすがですね。。。面白かったです。
ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2011-06-27 21:03)
ああ、女は怖い。
by 浅葱 (2011-06-27 21:34)
ラスト、怖いですねぇ!
トマトをジューサーで粉砕したときの、あのダクダクした感じを想像するから、なんとも血なまぐさいような・・・
それにしても、こんなふうにトマトを女性に見立てるなんて、ナイスアイディアですねぇ。
ボクはたまたま25日土曜日に、カゴメトマトケチャップの会社の方の講演を聞いたんですよ。いかにトマトが健康食かを力説しておられました。
もちろん、ボクのお目当ては、講演会後に無料配布された、トマトジュース、トマぽん(トマトのポン酢)、トマトすき焼き鍋スープ。
by 矢菱虎犇 (2011-06-27 21:41)
一気に崖から突き落とされるようなラストですね。
純愛ドラマかと思ってましたが、ホラーに落とすとは。
by 雫石鉄也 (2011-06-28 13:59)
女性の書くものって、たとえば主人公が男だったとしても
視点は女性ですから、リアルで怖いですねえ。
男はチンチンが邪魔して、なかなか女性らしく書けないし。
そりゃそうと、矢菱さんといい、おりんさんといい
野菜づくしじゃないですか!
これって、偶然なんでしょうか?
ある意味、競作っすね。
by ヴァッキーノ (2011-06-28 21:32)
<haruさん>
妄想も、ここまで来るとアッパレですね。
奥さんにもあんまり相手にされていないみたいだし、寂しかったのかも^^
いつもありがとう^^
by リンさん (2011-06-29 15:27)
<りこさん>
トマトとのラブ。
これも一種の不倫かしら(笑)
もっとも奥さんにとっては、ただのトマトだったようですね。
by リンさん (2011-06-29 15:29)
<浅葱さん>
ホントにね~^^
本物の不倫相手だったらエライことですね。
by リンさん (2011-06-29 15:32)
<矢菱さん>
たかがトマト、されどトマト。
奥さんにとっては、たかがトマトだったんですね。
トマトは確かに健康にいいですよね。
お酒の前にトマトを食べると酔わないとか、聞いたことがあります。
私もカゴメの話聞きたいな~。
(おみやげ目当て^^)
by リンさん (2011-06-29 15:39)
<雫石鉄也さん>
どっちみち食べられてしまうトマトだけど、ジュースにだけはなりたくなかったでしょうね。
ちょっと可哀想だったでしょうか^^;
by リンさん (2011-06-29 15:48)
<ヴァッキーノさん>
男の人が書くと、もっとエロティックになるのでしょうか(笑)
でも、相手がトマトですからね^^
矢菱さんも書いてましたね。野菜ネタ。
ヴァッキーノさんもどうです?
by リンさん (2011-06-29 15:51)