恐竜の星 [SF]
眠れないのかい?そうだよね。窓の外はいつも真っ暗だ。
朝か夜かもわからない。
宇宙旅行とはそういうものだ。退屈なんだよ。
どれ、父さんが話をしてあげよう。
いつかお前に話そうと思っていた話だ。
これは、ある星の話だ。
恐竜と人間が共存する、不思議な星の話だ。
ずっとずっと大昔に、地球の恐竜が絶滅した。
神様は、絶滅前に何頭かの恐竜を船に乗せて、他の星に運んだんだ。
このまま絶滅させては可哀想だと思ったんだろう。
船で共食いをされては困るから、草食恐竜ばかりを選んだ。
その星で、恐竜は穏やかに暮らした。
やがて人間が誕生して、暮らしも進化していった。
しかしその星の人間は、恐竜の領域を侵すことはしなかった。
先住民である恐竜を敬い讃えていたのだ。
また恐竜も、人間の暮らしを脅かすことはなかった。
お互いに上手に共存していたんだ。
そこに、地球人がやってきた。
地球人は、それはそれは驚いた。
絶滅した恐竜が、そこにいたんだからな。
地球人は、恐竜を何頭か譲ってくれないか、と頼んだ。
しかしその星の住民は断った。どんなに大金を積まれても断った。
恐竜にとって、この星を出ることは幸せではないと思ったからだ。
地球人は諦めた。
しかしひとりだけ、どうしても諦められない男がいた。
恐竜が大好きな研究者だ。
男は恐竜の生息区域に忍び込み、卵を盗んだ。
そして何食わぬ顔で地球に帰ったのだ。
男は自分の研究室で、卵を大切に育てた。
やがて見たこともない恐竜が生まれた。
大変高い知能を持った恐竜だ。人間の言葉を理解し話すことが出来た。
恐竜も進化していたのだ。
男は、まるで我が子のように恐竜を可愛がった。
恐竜も男を父親だと思った。
男にとっても恐竜にとっても、それは楽しい日々だった。
しかし恐竜は、どんどん大きくなった。
まだ1年足らずなのに、研究室の天井に届きそうだ。
男は思った。このまま置いておくわけにはいかない。
かといって外に出して好奇の目にさらされては可哀想だ。
男は、自分の愚かさに気付いた。
好奇心で連れてきたのが間違いだった。
愛しい。とても愛しいけれど、恐竜を故郷に返すことにした。
これ以上大きくなったら船に乗せることが出来なくなるから、男はすぐに出発したんだ。
最愛の息子と、最初で最後の宇宙旅行だ。
「お父さん、もしかして、その恐竜がボクなの?」
「ああそうだ。お前はやっぱり賢い子だな」
「いっしょには暮らせないの?」
「暮らせないな。父さんは、罪人だ。罰を受けなければならない。お前には本当に悪いことをした」
「でも、ボクはお父さんが好きだよ」
「ありがとう。さあ、もうすぐ到着だ。少し眠りなさい」
愛しい息子は、そのざらついた舌で、私の涙をそっと拭った。
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朝か夜かもわからない。
宇宙旅行とはそういうものだ。退屈なんだよ。
どれ、父さんが話をしてあげよう。
いつかお前に話そうと思っていた話だ。
これは、ある星の話だ。
恐竜と人間が共存する、不思議な星の話だ。
ずっとずっと大昔に、地球の恐竜が絶滅した。
神様は、絶滅前に何頭かの恐竜を船に乗せて、他の星に運んだんだ。
このまま絶滅させては可哀想だと思ったんだろう。
船で共食いをされては困るから、草食恐竜ばかりを選んだ。
その星で、恐竜は穏やかに暮らした。
やがて人間が誕生して、暮らしも進化していった。
しかしその星の人間は、恐竜の領域を侵すことはしなかった。
先住民である恐竜を敬い讃えていたのだ。
また恐竜も、人間の暮らしを脅かすことはなかった。
お互いに上手に共存していたんだ。
そこに、地球人がやってきた。
地球人は、それはそれは驚いた。
絶滅した恐竜が、そこにいたんだからな。
地球人は、恐竜を何頭か譲ってくれないか、と頼んだ。
しかしその星の住民は断った。どんなに大金を積まれても断った。
恐竜にとって、この星を出ることは幸せではないと思ったからだ。
地球人は諦めた。
しかしひとりだけ、どうしても諦められない男がいた。
恐竜が大好きな研究者だ。
男は恐竜の生息区域に忍び込み、卵を盗んだ。
そして何食わぬ顔で地球に帰ったのだ。
男は自分の研究室で、卵を大切に育てた。
やがて見たこともない恐竜が生まれた。
大変高い知能を持った恐竜だ。人間の言葉を理解し話すことが出来た。
恐竜も進化していたのだ。
男は、まるで我が子のように恐竜を可愛がった。
恐竜も男を父親だと思った。
男にとっても恐竜にとっても、それは楽しい日々だった。
しかし恐竜は、どんどん大きくなった。
まだ1年足らずなのに、研究室の天井に届きそうだ。
男は思った。このまま置いておくわけにはいかない。
かといって外に出して好奇の目にさらされては可哀想だ。
男は、自分の愚かさに気付いた。
好奇心で連れてきたのが間違いだった。
愛しい。とても愛しいけれど、恐竜を故郷に返すことにした。
これ以上大きくなったら船に乗せることが出来なくなるから、男はすぐに出発したんだ。
最愛の息子と、最初で最後の宇宙旅行だ。
「お父さん、もしかして、その恐竜がボクなの?」
「ああそうだ。お前はやっぱり賢い子だな」
「いっしょには暮らせないの?」
「暮らせないな。父さんは、罪人だ。罰を受けなければならない。お前には本当に悪いことをした」
「でも、ボクはお父さんが好きだよ」
「ありがとう。さあ、もうすぐ到着だ。少し眠りなさい」
愛しい息子は、そのざらついた舌で、私の涙をそっと拭った。
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2011-07-23 14:01
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コメント(12)
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父さんは、まるでのび太くんみたいですね。
恐竜がいる動物園とかあったら、行ってみたいですね。
恐竜と人間が共存する星っすか。
夢があります。
by ヴァッキーノ (2011-07-23 15:16)
夢があって、でも、切なくって、温かくって、何と表現したらいいのか複雑な気持ちです。
涙腺がちょっと・・・。
by かよ湖 (2011-07-23 17:26)
メルヘンチックでペーソスがあって、りんさんらしいですねぇ。
ボク、たった今、動物園のお話を書いて『予約投稿』を終えたんですよ。
実に矢菱らしいお話です。シニカルでソース味です。
by 矢菱虎犇 (2011-07-23 17:32)
人類がみんなこんなふうに、後悔と反省と優しさを持っていたら もっと・・・。
今を考えてしまいます。
優しい恐竜の子だから、よけい悲しいです。
by もぐら (2011-07-24 12:04)
なんだか、恐竜の子もお父さんもかわいそうです。(涙)
でも、人間が犯してはならない聖域のような物は確かに存在するでしょうね。
たとえ、科学がどんなに進んだとしても。。。
by haru (2011-07-25 19:44)
恐竜博、今年も行きます。
by 浅葱 (2011-07-25 20:38)
<ヴァッキーノさん>
ありましたね~。のび太が恐竜育てる話。
何でも卵から育てると可愛いでしょうね。
恐竜動物園、私も行きたいです。
by リンさん (2011-07-26 18:28)
<かよ湖さん>
ありがとうございます。
どこかに、こんな星があったら嬉しいですね。
by リンさん (2011-07-26 18:31)
<矢菱さん>
私のがペーソスで、矢菱さんのがソース味。
うまい!!座布団1まい^^
by リンさん (2011-07-26 18:34)
<もぐらさん>
恐竜って、知能が高かったらしいですね。
進化したらじゃべれたかもしれないですよ。
そう思って、子供も話せるようにしました。
by リンさん (2011-07-26 18:36)
<haruさん>
その通りですね。
人間のエゴで自然を壊しちゃいけませんよね。
たとえば月の土地とか、勝手に販売してるけど、いいの?と思いますよね。
by リンさん (2011-07-26 18:38)
<浅葱さん>
浅葱さんも恐竜好きですか。
私も好きなんですよ。
子供が小さいころは毎年行ってました。
by リンさん (2011-07-26 18:39)