ミーコのラブレター

玄関のチャイムが鳴った。
出てみると紺の制服にカバンをぶらさげた、ネコの郵便屋が立っていた。
「ミーコさんに郵便です」
「ミーコ？」
ミーコは前に住んでいた家で飼っていたネコだ。このマンションはペット禁止なので、ネコ好きのおばさんに引き取ってもらったのだ。
「ミーコは、ここにはいないよ」
「はて…。困りましたな」
「ぼくが手紙預かろうか？」
「いいえ、それはいけません。本人に手渡しするのが規則です」
「そうか。じゃあ、おばさんの家に連れてってあげるよ。自転車飛ばせば１０分で着くよ」

ぼくは、ネコの郵便屋をかごに乗せて走り出した。ネコの郵便屋は、手紙が入ったカバンをしっかり抱え、かごにしがみついた
「早いですぅ。ジェットコースターみたいですぅ」
おばさんの家に着くと、ネコの郵便屋はフラフラしながらチャイムを鳴らした。
出てきたのは、おばさんが前から飼っていたネコのゴンスケだ。

「おや、郵便屋さん、おいらに健康診断のお知らせかい？」
「ちがいます」
「じゃあ、集会のお知らせかい？」
「ちがいます」
「まさか、生き別れた母親から？」
「残念ながら、ちがいます。ミーコさんにお手紙です」
「ミーコ？ああ、新入りか。待ってな、今呼んでくるから」

しばらくすると、ゴンスケがミーコを連れてきた。ミーコは少しふっくらして毛並みもよかった。きっと可愛がってもらってるんだ。
「ミーコ、久しぶり」
ぼくが頭をなでようとしたら、ミーコはプイッとそっぽを向いた。
「どこかで見た顔だけど、誰だったかしら？」
「忘れるなよ。前の飼い主のヒロトだよ」
「ああ、マンションに引っ越すときに、あたしを置き去りにした倉田家の甘えん坊、ニンジン嫌いな小学四年生のヒロくんね」
「仕方ないだろう。あのマンションはペット禁止なんだから」
「人間ってホントに勝手よね」

機嫌の悪いミーコを見かねて、ゴンスケがぼくの耳元でささやいた。
「気にするな。女ってのは根に持つからな」
そこへ、ネコの郵便屋がおずおずと手紙を取り出した。
「おとりこみ中すみません。ミーコさんにお手紙です」
「手紙？誰から？」
「倉田ヒロトさんからです」
ネコの郵便屋が、ぼくの名前を言った。
「えっ？ぼく手紙なんか書いてないよ」
不思議に思ってのぞきこむと、確かにぼくの字で書かれた手紙だった。

『ミーコと　また　くらしたい　ヒロト』

ああ、そうだった。引っ越したばかりの頃、七夕の短冊に願いごとを書いたんだ。ミーコがいなくなって寂しかったから星にお願いしたんだ。
それが手紙になって届いたというわけか。
「ミーコごめんよ。毎日会いに来るって言いながら、ゲームばっかりしてたんだ。ごめんよ」
ぼくはミーコを抱き上げた。ミーコはぼくの手紙を読んで、すっかり機嫌を直した。

「ねえ、これって、ラブレターよね」
「ラブレター？」
「そうよ。ラブレターだわ。うふ、あたし、ヒロくんを許してあげる」
ミーコは、そう言ってぼくのほっぺをペロッとなめた。

数日後、またまたネコの郵便屋がやってきた。
「ミーコさんからお手紙です」
手紙には、たくさんのハートマークとミーコの足あとが付いていた。
『おみやげをもって　あそびにきて』
…これって、ラブレターなのか？
僕は、おやつのシュークリームを持って自転車を走らせた。なんだかウキウキした。
「これって、デートかな？」




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コメント 12

猫の郵便屋さん可愛い！
雫石さんのとつぜん対談のBGMにミスターポストマンを使いました。
ラブレター。。。書いたことなかった。（泣）
by haru (2012-02-18 19:02) 

なんとなく、宮沢賢治の童話を思い出してほのぼのしました。

こういうお話のパターンとして、一時的に動物とお話が出来る不思議な出来事が起こり、事件が起きて、それが解決するとまた動物は元に戻ってしまって、話しかけても答えない、と言う感じですよね。
でも、このお話ではまだまだミーコちゃんとのコミュニケーションは続きそうですね。
by 海野久実 (2012-02-18 20:15) 

昨晩、ボクがなにげなく書いたお話が『エアメ～ル』。
ヤギさん郵便の話です。
さきほど、haruさんの対談シリーズの朗読聴いて、
雫石さんの対談シリーズ読んで・・・
なんだか期せずして、郵便競作だぁ（笑）
by 矢菱虎犇 (2012-02-19 09:51) 

ヒロくん　ミーコちゃんを捨てなくてよかった。
でも「おみやげ」って鰹節とかのほうがよくない？

かわいいお話でよかった。
ありがとうございます。
by もぐら (2012-02-19 12:48) 

うっ。。。かっ。。。可愛い♪
ミーコの拗ね具合といい
猫の郵便屋さんといい
とっても可愛いお話になってますね。
短冊に書いた願い事が
手紙になって届く。。。なぁんていいうのも
とっても素敵な発想です。

楽しみました。ありがとっ♪
by 春待ち　りこ (2012-02-20 07:16) 

＜haruさん＞
ありがとうございます。
聴きましたよ。Mr.ポストマン。
ラブレター…。昔すぎて忘れました（笑）
by リンさん (2012-02-21 22:29) 

＜海野久実さん＞
宮沢賢治を思い出してもらえたなんて嬉しいです。
ミーコとの恋愛は、ヒロくんが大人になるまで続くのかな？
それとも、あっさり振られちゃったりして。
（ゴンスケに取られたりして）
by リンさん (2012-02-21 22:34) 

＜矢菱さん＞
わあ、思いがけない競作ですね。
こういうことって結構ありますよね。
by リンさん (2012-02-21 22:37) 

＜もぐらさん＞
そうか。お土産はかつおぶしですね。
さすが、ネコちゃんのお母さんですね（笑）
by リンさん (2012-02-21 22:41) 

＜りこさん＞
ありがとうございます。
りこさんに負けない可愛いお話を書いてみました。
実はこれ、ある童話賞に応募してボツだったんですよ（泣き）
by リンさん (2012-02-21 22:44) 

ちょっとご無沙汰してました。

猫好きにはたまらない素敵なお話ですね。
ミーコちゃんはいかにも猫の女の子って感じで、人間少年から見ても魅力的なんだろうな。
こんなタイプの女の子、好き、って男性はいそうですね。
by あかね (2012-03-03 10:47) 

＜あかねさん＞
コメントありごとうございます。
私もちょっと忙しくて、なかなか訪問できなくてごめんなしゃい＾＾；

ミーコは猫なのにちょっと色っぽくしてみました。
童話コンテストに出してみたけどボツだったのは、この色っぽさが原因だったかも（笑）
by リンさん (2012-03-05 16:28)