SSブログ

天まで届け [ファンタジー]

メールは天まで届くだろうか。
間違いだらけの変換に、あの人は笑っているかしら。

祈りのキャンドルを灯すと、彼の笑顔が見えるようだ。
悲しむのはもうやめた。
そのかわり、毎日彼にメールを打つことにした。

『今日はいい天気。梅はまだ万回にならないわ』
送信

**
「また間違ってるよ。万回じゃなくて満開だ。ああ、返信したい」
「奥さんからのメールかい?」
「ああ、いつも笑わせてもらってるよ。この前は『水仙が咲いた』を『水栓が開いた』って打ってきたよ」
「面白いな。1年経っても忘れずにいてくれるなんてありがたいじゃないか」
「まあ、あいつはまだまだこっちには来そうもないから、楽しくやってくれればいいさ」


『今日はまり子と買い物に行ったのよ。どとおるっていうお見せに初めて入ったわ』
送信

**

「まり子か。結婚してからは滅多に帰ってこなかったけど、気にかけてくれてるようだ」
「持つべきものは娘か。いいなあ。オレは独身のままこっちに来ちゃったから羨ましいな」
「どとーるって何だ?」
「ドトールでしょ。コーヒーのチェーン店だよ。ちなみにお見せじゃなくて、お店ね」
「ふうん。コーヒー苦手だったのにな」


『まり子が元気な男の子を産みましたよ。初孫は川いいわよ』
送信

**

「川いいじゃなくて、可愛いだろう。まったくな」
「へえ、お孫さんか。会ってみたいだろう」
「男の子なんて育てたことないからな。あいつも戸惑っているだろう」

**

「最近奥さんからメール来ないね」
「孫が生まれて忙しいんだろう。いいことだ。いつまでも思い出に縛られていても仕方ないだろう」
「でもさ、孫の名前くらい送ってくれてもいいのにな」
「いいさ。幸せならそれで」
「あ、メールじゃないか?」

『お父さん。まり子で~す。お母さんがケイタイ水没させちゃったの。それでね、新しくスマートフォンを買ってあげたら使い方わからないみたいで、メールが送れないんだって。だから、代わりに私が送ったの。
息子、つまり、お父さんの孫は2ヶ月になったよ。名前はね、どうしてもお母さんが教えたいみたいだから、あとでね。もう少し待ってね』

「なんだ。忘れちゃったわけじゃなかったんだ。よかったね」
「スマートフォンなんて、あいつに使いこなせるのか?」
「あ、メール来たよ!」

『孫の名前は、あなたと同じ丸男です』

「丸男?」
「ばか!俺の名前は春生(はるお)だ」

***

「ねえ、まり子、今お父さんの声聞こえなかった?」
「え?何言ってるの、お母さん。あら、いやだ、お母さん、春生が丸男になってる」
「いやだ、間違えちゃった。この際、丸男で良くない?」
「いやだよ、やめてよ~」
「あら、丸男が笑ったわ」
「もう、やめてってば~」

ねえ、あなた。この笑い声が天まで届いているかしら。
私たちは元気よ。ちゃんと前に進んでいるから安心してね。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村
nice!(8)  コメント(12)  トラックバック(0) 

nice! 8

コメント 12

海野久実

遭難ですよねー
日とが芯だら一方通行でもいいので、こちらの重いが伝わるのが化学的に照明されたら、日とは日との詩をこんなにまでかなしく思わなくても住むのにと、主ってしまいます。

ちゃんと天国があって芯出から愛する費とと最下位出切るんだと確実ならもっともっと非とは仕合わせに息られるのにね。

紙さまの維持わるー

悲しみの中にユーモアがあり日との心の悲しみをいくらかでも和らげるこの作品は、ある意味紙さまの仕事ですよね。

えーと、誤変換チェック…
めんどくせーのでこのまま痩身!
by 海野久実 (2012-03-12 23:32) 

かよ湖

「春生」が「丸男」は最高ですね。声に出して笑ってしまいました。
わざと間違い変換で送り、笑いを送る優しさ。でも、ちゃんと伝わっていて、コミュニケーションが出来ていることにあたたかさを感じます。きっと笑い声も届いていることでしょうね。
P.S.海野さん、やっぱりステキな馬鹿者ですね~(笑)。もちろん、褒め言葉ですよ。
痩身!
by かよ湖 (2012-03-13 01:25) 

矢菱虎犇

こういう裏っかわにせつない思いのこもった文章をあったかいユーモアで綺麗にラッピングしてしまうセンスがいいっすね!
天国に送るメールの送信先っていったい・・・
by 矢菱虎犇 (2012-03-13 06:38) 

haru

とっても素敵なお話です。ファンタジーだなぁ~(゚д゚)(。_。)ウン!
あ!もしかして、このお話も競作かな?
「天まで届け」って事は宇宙ですよね。ヤッパ競作ダ(;゚Д゚)!
本当にメールが届く時代が来たりして。。。魂もどの星にいるのか住民登録なんかしちゃったりして。(-^〇^-)
by haru (2012-03-13 12:10) 

雫石鉄也

見事です。
直接、表現していないのに、奥さん(おばあちゃん)のキャラが立ってます。
どういう人かよく判ります。
こんなワザ、りんさんの筆力がなせるワザです。
by 雫石鉄也 (2012-03-13 13:35) 

春待ち りこ

いい話ですね。
面白いし。。。なんだか心に響きます。
凄いですね。
こういう作品ってなかなか書けないんですよね。

ご変換で。。。はちゃめちゃなメールなのに
一番大切なことは
ちゃんと届いているんですものね。
娘も孫も。。。もちろん奥さんも
元気で前に進んでることが。。。

素敵です。しかも、面白かった!!!
さっすがリンさん!!!
楽しみました。ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2012-03-13 20:20) 

リンさん

<海野久実さん>
読みずらいよぉ~(笑)

仕事で書類を作ったりするんですが、とんでもない変換ミスがあったりすると、ひとりで笑ってしまいます。
一方通行のメールだから、ミスを見つけても返信できず、天国でストレスたまっちゃうかもしれませんね^^
by リンさん (2012-03-14 18:00) 

リンさん

<かよ湖さん>
春生と丸男を間違えるのは、普通だったら無理がありますね。
奥さんのユーモアだったら楽しい。
きっと素敵な夫婦だったのでしょうね。

海野さんに負けず、かよ湖さんもステキですよ~
痩身!(笑)
by リンさん (2012-03-14 18:04) 

リンさん

<矢菱さん>
新聞で、地震で亡くなった娘さんに、今でもメールを打ってるお母さんの記事が出ていて思いついた話です。
そういう気持ちって、当事者しかわからないから、私なりに楽しくアレンジしました。
きっと、メールは届いている、という思いを込めました。
by リンさん (2012-03-14 18:07) 

リンさん

<haruさん>
ああ、そういえば競作かな^^
星になった人たちが、宇宙で受け取ったメールかもしれませんね。
何気に競作参加…ってことにしましょう^^
by リンさん (2012-03-14 18:09) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
この奥さんが可愛いなと思っていただけたら嬉しいです。
震災の被災者の方への想いを、ささやかながら表現できたら…思って書きました。
by リンさん (2012-03-14 18:22) 

リンさん

<りこさん>
ありがとうございます。
震災から1年だなと思ったら、なんだか何を書いたらいいのかわからなくなっちゃって、どうせならコミカルなものにしようと思ったんです。

残された人の笑い声が天まで届けば、きっと亡くなった人も安心できるかな…と思います^^
by リンさん (2012-03-14 18:28) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0