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小人がいっぱい [ファンタジー]

花ちゃんのママは、遠くの病院に入院しています。寂しいけれど、泣かないと決めました。
だってこの春、小学生になったのです。

そんな花ちゃんに、小包が届きました。入院しているママが送ってくれた絵本です。
赤い表紙に白い文字で『小人がいっぱい』と描かれています。なんて楽しそう。
「花ちゃん、ごはんですよ」
おばあちゃんが呼びました。パパは仕事で帰りが遅いので、花ちゃんはおばあちゃんとごはんを食べます。そしてひとりでお風呂に入って寝ます。

「いっしょに寝てあげようか」
とおばあちゃんが言いましたが、花ちゃんは
「だいじょうぶ」
と言いました。ママが贈ってくれた本を、早く読みたかったのです。

お部屋に入ってさっそく絵本を開きました。
本をめくると、ページいっぱいの小人がぎゅうぎゅう詰めに描かれています。
すきまなく、押し合いへしあい、押しくらまんじゅうをしているようです。
次のページも、その次のページも、ぎゅうぎゅう詰めの小人の絵でした。
「何これ?」
花ちゃんが首をかしげていると、ひとりの小人が、ぴょんと本の中から飛び出しました。
それが合図だったように、小人が次々ぴょんぴょん飛び出します。

花ちゃんの部屋は、あっという間に小人でいっぱいになりました。
小人たちは飛んだり跳ねたり大さわぎです。
「うるさ~い!」
花ちゃんは、最初に飛び出した小人を見つけ、指でつまみあげました。小人は手足をバタバタさせてもがいています。
「あなたがリーダーでしょう。放してほしかったら、小人たちをきちんと整列させなさい」
花ちゃんに言われて、リーダーはうんうんとうなづき、みんなに号令をかけました。
すると小人たちは、ぴたりと静かになり、きちんと列を作って並びました。

花ちゃんは、朝礼台の校長先生のようにコホンとひとつせきをしました。
「みなさん。この部屋で遊ぶのはかまいませんが、下でおばあちゃんが寝ています。静かに遊んでください。そして朝になったら、ちゃんと本の中に帰ってください。いいですか」
小人たちは、うんうんとうなづき、静かに遊び始めました。

よく見ると、いろんな子がいます。
まるくなって、ヒソヒソ話をしている子。
ぼんやりと星をながめている子。
自分より大きなえんぴつで何かを書いている子。
「学校の休み時間みたい」
と花ちゃんは思いました。

あの小人さんはユイちゃんで、あの子はマリちゃん。あのリーダーは、ケンちゃんみたい。
クラスのお友達の顔を思い浮かべると、何だか楽しくなりました。
そして花ちゃんは、いつのまにか眠りました。

朝になると小人たちは、ちゃんと本に戻っています。だけど夜になるとまた出てきます。
花ちゃんは、小人たちの先生です。ケンカしてる子を叱ったり、上手に絵を描いた子をほめたりします。花ちゃんは、不思議なことに、ちっとも寂しくなくなりました。

そしていよいよ、ママが退院する日がやってきました。
「小人さんたち、明日ママが退院するの。わたしはパパといっしょにお迎えに行くけど、ちゃんと本の中に入っていなくちゃダメよ。出ていたら、ママがびっくりしちゃうでしょ」
花ちゃんは、小人たちに言い聞かせました。

真っ青な空。梅雨の晴れ間のお天気です。
花ちゃんのママは、すっかり元気になりました。ぎゅっと花ちゃんの手をにぎり、紫陽花の歩道を歩きました。
パパの運転はいつもよりも慎重で、花ちゃんはママにもたれて眠りました。
うれしくて、夕べはあまり寝ていないのです。

家に帰ると、小人たちはいませんでした。
「よかった。ちゃんと本の中に入っている」
と本をめくると、そこにはまったくちがう小人の絵がありました。
十人の小人が、男の子のランドセルに入り込んでいたずらをする話に、すりかわっています。
ぎゅうぎゅうの小人はどこにも出てきません。
「あれ?あれ?」
不思議がる花ちゃんを、ママがふわりと包みました。
「今夜から、花ちゃんが寝るまで、ママが本を読んであげるわね」
「本当?うれしい」
花ちゃんはママに抱きついて、いつの間にか小人のことなど、すっかり忘れていました。

「それでいいよ」
と、どこからか小さな声がしました。

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ヴァッキーノ

ボクも似たような経験があります。
マジで。
子供の頃、熱を出して寝ていたんですけど
家には誰もいないんです。
ふと目を醒ますと、
足元でテレビのリモコンくらいの大きさの
小人が喧嘩しているんですよ。
大人の小人で、3人か4人で罵声を浴びせてるんです。
とても怖くなって、ボクはパジャマのまま裸足で
外へ飛び出しちゃいました。
あれは、本物の小人です。
by ヴァッキーノ (2012-07-01 18:55) 

春待ち りこ

ぎゅうぎゅうの小人さんたちは
花ちゃんの寂しい気持ちをいやすため
みんなで本の中に
ぎゅうぎゅうの乗り込んでやってきてくれたんですね。
なんて素敵な小人さんたちでしょう♪
小人さんたちの先生をしていたら
寂しい気持ちが入り込む隙間なんて
なくなっちゃうものね。。。

とっても可愛らしいお話でした。
今回もすっごく楽しみました。
いつも、ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2012-07-01 21:02) 

矢菱虎犇

ほのぼのファンタジー、ごちそうさまです。
こびとってどんなイメージでしょうねぇ。
白雪姫の七人のこびとみたいなゴム人形っぽいのじゃなく・・・
『こびとづかん』みたいなゆるキモい感じのこびとじゃなく・・・
ボクがこのお話でイメージしたのは、
安野光雅さんの描く、スリムな道化師みたいな感じの小人たちでしたぁ。
by 矢菱虎犇 (2012-07-01 23:10) 

海野久実

わーい。
とてもいいお話で、ただただ楽しんで読みましたー

ヴァッキーノさんのコメントを見て、ひょっとして僕も子供の頃、小人を見た事があるかも…と思って記憶をたどってみました。
すると!
まったくそんな事がなかったのでした。
子供の頃の不思議な体験…
あ、一つありました。
小学校3年生ぐらいかなー、友達が近所の倉庫に変な猫みたいなものが見えると言ってきたんですよね。
それで3~4人の友達で行ってみました。
薄暗い倉庫の中に入ってしばらくじっと見ていると、すーっと猫のような灰色っぽい影が右から左に動いたんです。
本物の猫ではないのは解りました。
あまりにもゆっくりと、浮かんでいるように動いたからです。
そのまま逃げるように帰って来て、不思議な思い出として今でも謎なんです。
ふと、今気が付いたんですが、あの猫って誰かがいたずらしたかもしれませんね。
昔は幻灯機なんて言う物があって、静止画を壁に写したりして遊びましたよね。
ひょっとして誰かが隠れて、幻灯機で猫の陰を映していたのかも。
ぼくを呼びに来た友達がグルだったのかもしれません。
このコメントを書いていて、ふと気が付いたんですけど、たぶんそうだったんじゃないかと思っています。
いやいや、長年の謎だったんですよー
by 海野久実 (2012-07-02 01:35) 

もぐら

かわいいお話ですね。
花ちゃんがしっかりした子供というのもしっかり感じます。
かわいいな。
小人さんたちはまた寂しい思いをしている子供のところに行くのでしょうか。

いまはちっさいおっさんが流行ってるようですが・・・。
小人さんのほうがいいよぅ。(・_・、)
by もぐら (2012-07-02 23:38) 

こっちゃん

いい話です。
思わず(T_T)
by こっちゃん (2012-07-03 13:51) 

リンさん

<ヴァッキーノさん>
すごい不思議な体験ですね。
よく芸能人が、小さいおじさんを見たとか言いますが、ホントなんだなと思いました。
私は見たことないけど、たぶんそんなに怖くないんでしょうね。
あ、ヴァッキーノさんは子供だったから怖かったんですね^^
by リンさん (2012-07-04 17:08) 

リンさん

<りこさん>
ありがとうございます。
小学生になったばかりの女の子だから、学校みたいで楽しかったんでしょうね。
もしかしたらママの想いが作り出したものかもしれませんね。

いつも読んでくれてありがと♪
by リンさん (2012-07-04 17:15) 

リンさん

<矢菱さん>
ありがとうございます。
私はやっぱり三角帽子の小人さんをイメージして書きました。
あの「小人ずかん」のおやじ小人だったら笑っちゃいますね。
安野光雅さんの絵は、温かい感じがいいですよね。
by リンさん (2012-07-04 17:19) 

リンさん

<海野久実さん>
海野さんも不思議体験をしてるんですね。
いたずらかもしれないけど、不思議体験だと思っている方が楽しいですよね。
私は子供のころ友達3人とコックリさんをやったんです。
その時、「あなたの名前を教えてください」と言ったら「さとうえいさく」とコインが動いたんです。
「総理大臣だった佐藤栄作さんですか?」と聞いたら「そうです」と。

誰かが故意に動かしていたのかもしれないけど、今でも思い出すと不思議です。
by リンさん (2012-07-04 17:23) 

リンさん

<もぐらさん>
ありがとうございます。
親が入院とかすると、子供はしっかりするものですね。
花ちゃんは小学生になったから、よけいにその気持ちが強かったのかも。

>ちいさいおっさん…そうなんですよ~。うちの娘もあれがカワイイ~とか言ってグッズを買ったりしています。
どこが可愛いのか…(笑)
by リンさん (2012-07-04 17:27) 

リンさん

<こっちゃんさん>
ありがとうございます。
褒めてもらって私も思わず(T_T)

by リンさん (2012-07-04 17:29) 

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