ロストベイビーズ

臨月の妊婦のお腹から、突然赤ちゃんが消えてしまった。
しかも、時を同じくして２人の妊婦から赤ちゃんが消えた。

生まれる寸前だった。性別もわかっていた。
ひとりは男の子で、ひとりは女の子が生まれるはずだった。

二組の夫婦は全くの他人だ。
国も違えば育った環境も違う。
共通点と言えば、どちらも平和主義者の善人である。
原発廃止を訴え、戦争や国同士の争いを、声を上げて批判する。

正義感が強く、優れた身体能力を持った夫。
聡明で美しく誰にでも優しい妻。
ようするに、理想の夫婦である。

二組の夫婦は、生まれてくるはずだった子供に思いを馳せ、嘆いたがどうにもならない。
何しろまだ生まれてもいないのだ。捜しようもない。
二組の夫婦は、こう思うようにした。
「私たちの赤ちゃんは、きっとどこかで生きている。平和で美しいどこかの世界で、きっと生きている」

＊＊

美しい楽園で、ふたりの赤ん坊が目覚めた。
ひとりは男の子で、ひとりは女の子だ。
ふたりは美しく成長し、やがて出会って恋に落ちるだろう。
そう…、リンゴを食べてから。

神様は、欲や驕りにまみれて破滅に向かおうとしている人間を、時々軌道修正する。
最初からやり直すのだ。
そう、人類が生まれる前からやり直すのだ。

＊＊＊

二組の夫婦は、海を隔てて向かい合う。そしてそれぞれ、生まれてくるはずだった子供の名前を叫ぶ。
生まれたら付けるはずだった名前を、力の限り叫ぶ。
「アダム！」
「イヴ！」




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コメント 8

臨月で赤ちゃん消えたらショック～！超自然ミステリーみたいな始まり方をしたので、ケムール星人が出てくるお話かと思いきや、（誰も思わない？）なんとアダムとイブですか～
やれ罪の意識だのなんだのと辛気臭い宗教路線にならずに、澄んだ世界観で語るところがりんさんらしくていいっ

by 矢菱虎犇 (2012-09-13 05:40) 

うむ、なかなか深い話ですね。
時代遅れの唯物論主義者の私には、想いつかない発想です。
さすがリンさん(*^。^*)
親は誰でも子供の幸せを願うものですしね。
by こっちゃん (2012-09-13 15:19) 

おぉ。。。アダム君とイヴちゃん。。。
新しい世界を作ってゆくんですね。
ん？
ってことは。。。もとの現実世界は
もう用済みってことですよね。
あとは、破滅へ向かって突き進むのみ！！！コワッ

修正された世界の人間たち。。。
今度は間違わないといいなぁ。
意外な展開でした。
面白かったぁ
今回も楽しみました。
いつも、ありがとっ♪
by 春待ち　りこ (2012-09-13 23:20) 

＜矢菱さん＞
ケムール星人か…。若い人を狙うんでしたっけ？

神様が人間を作ったとは思ってませんが、もしそうだったら嘆いているでしょうね。つまらないことで諍いをや暴動を起こしちゃって。
子育てもそうですが、やり直しってなかなかできませんね＾＾
by リンさん (2012-09-15 14:45) 

＜こっちゃんさん＞
ありがとうございます。
お腹の中から赤ちゃんが消えて、未来に行くようなＳＦにしようかなと思ったのですがまとまらず、じゃあ過去に行かせようと思って、この形が思いつきました。
試行錯誤しています＾＾；　が、そういうのが楽しいです。
by リンさん (2012-09-15 14:52) 

＜りこさん＞
そうですね。現実世界は自己責任ということになるのでしょうか。
今度は間違わないように…でも、結局繰り返してしまうような…。
アダムとイヴは、永遠に引き継がれるのかもしれませんね＾＾
読んでくれてありがとう。
りこさんが完全復活したみたいで嬉しいです。
by リンさん (2012-09-15 14:56) 

なかなか見事な設定ですね。
それがアダムとイブだったと言うのは僕も一つ書いていますが、どんどん色んな設定で書かれてもいいですね。
何度も人類は滅び、また新しい人類はアダムとイブから始まる。
それが何回となく繰り返されていると言う感じですね。

この作品はラストの少し前でアダムとイブだとわかるので、あえてアダムとイブの名前を叫ばせない終わり方でもよかったように思います。
by 海野久実 (2012-09-19 12:41) 

＜海野久実さん＞
ありがとうございます。
神様が人間を作ったなら、きっとこんなふうに軌道修正するのかな…と。
歴史は繰り返すのかもしれませんね。

最後の「アダム」「イヴ」は、確かになくてもいいかもしれませんね。
＞最初からやり直すのだ…で終わると、なんとなく中途半端な気がして、付け足したんです。
by リンさん (2012-09-19 17:28)