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本当は黒い 三匹の子ぶた [名作パロディー]

3人兄弟の末っ子。
ガキの頃から損ばかりしていた。
おかずやおやつを兄貴たちに取られ、叩かれ蹴られた。
母親は、「おまえが愚図で要領が悪いからだ」と言い、兄貴たちを叱ってくれなかった。
うちは貧乏で、母親だって自分の食い扶持を確保するのに余念がなかった。

そして母親はとうとう、俺たち兄弟を家から追い出した。
「そろそろおまえたちも自立しないとね」
とか何とか理屈をつけて、結局は食い物を独り占めしたいのだ。
兄貴たちは確かにもう自立してもいい年齢だ。
しかし俺はまだ母親に甘えたい年齢だったのだ。それなのに…。

兄貴たちは末っ子の俺を邪魔者扱いした。
「自立しろって言われたんだから、一緒に暮らす必要はないだろう。それぞれ家を作ろうぜ」
兄貴たちはそう言って、自分たちの場所を勝手に決めた。
残った場所は、陽当たりの悪いゴミ置き場の隣だった。
それでも俺は、秘かに貯めた小遣いをはたいて、煉瓦とセメントを買った。

上の兄貴は、浪費家だから金がない。無駄な努力もしないやつだから、安易に手に入るワラで家を作った。簡単すぎるお粗末な家だ。
下の兄貴は、調子がよくて女好きだ。材木屋の女をたらしこんで、木材を手に入れた。
計算もせずに作るから隙間だらけだ。がさつな兄貴らしい雑な家だ。

俺は地道に煉瓦の家を作っていた。
丁寧に隙間なく重ねて丈夫な家を作っていた。
「まだ出来ないのか。のろまな奴だ。冬が来ちまうぞ」
「のろまなチビは放っておいて、豚汁でも食おうぜ」
「豚汁はダメだろう、豚汁は」
兄貴たちはそんなジョークを言いながら俺を馬鹿にして帰った。
おまえら本当に豚汁になってしまえ…俺は心からそう思った。

冬になる前に煉瓦の家は出来上がった。
暖炉と煙突も作った。寒い冬がきても大丈夫だ。
母親がやってきて、「あら、いい家だね。あたしもここに住もうかな」
などと虫のいいことを言った。
「母さん、悪いオオカミがうろついてるから早く帰った方がいいよ」
俺はそう言って母親を追い返した。
オオカミがいるのは本当だ。教えてやったのは、今まで育ててくれたせめてもの恩義だ。

その夜、オオカミはやってきた。
あっという間にワラの家を吹き飛ばし、上の兄貴をぺろりと食べた。
次に隙間だらけの木の家を壊し、下の兄貴をぺろりと食べた。
オオカミが、俺の煉瓦の家に近づいてきた。
ドンドンと乱暴に扉を叩いた。俺はごくりと唾をのんだ。

「子ブタさ~ん。上手くいったぜ。2人の兄さんを始末したぜ。約束のご褒美をおくれ」
上手くいったか…。だが、これで終わりではない。
こんな邪悪なオオカミを生かしておいたら、こっちの命が危なくなる。

「オオカミさん、ご苦労だったね。ちょっとドアの調子が悪くて開かないんだ。すまないが、屋根の煙突から入ってきてくれないか」
「わかった。今行くから待ってろ」
オオカミが、屋根に上った。
俺は、煙突の下の暖炉で、大きな鍋にたっぷりの湯を沸かして待っていた。
「おおい、オオカミさん、下で受け止めるから思い切って飛び込みなよ」
馬鹿なオオカミは、「あいよ」と言って煙突から落ちた。
熱湯の中にまっさかさまだ。
まるで豚汁ならぬ、狼汁だ。不味そうで、食う気もしない。

警察が来たら、正当防衛だって言えばいい。
全て終わった。これが俺の完全犯罪だ。
そして俺は、煉瓦の家でいつまでも快適に暮らした。めでたし、めでたし。

…あれ!これって、よい子は読んじゃダメじゃん!!

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SORI

リンさんさん こんにちは
こんな裏話があったのですね。さすが、リンさんにかかると楽しいストーリに変身です。
by SORI (2013-11-22 16:47) 

さきしなのてるりん

ほんとは怖い、、、のですね。しかし、愚図で要領が悪いのにずいぶん賢い3番目だなぁ。母ちゃんはリヤ王のごとく判断間違えてるね。
by さきしなのてるりん (2013-11-22 21:11) 

みかん

すごいわ リンさん♪
末っ子の考えが怖いけど^^;
オオカミが3匹いたら・・・とかも面白そうかなぁ?
by みかん (2013-11-23 08:58) 

dan

リンさんでもいい人?が一人も出てこないお話が書けるのですね。
不気味な親子、兄弟の関係。
愛情のないところにいい子が育つわけないという教訓かな。
近頃の世相に似ていませんか。
by dan (2013-11-23 15:40) 

麻乃あぐり

こんばんは、リンさん♪

俯瞰してみると、
末っ子が一番大人なのが妙におかしいですね。
冷めた目で、家族をみてる視点が面白いです(笑)。

豚汁のジョークも、彼らならではで(笑)。
by 麻乃あぐり (2013-11-23 23:43) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
こんな裏話が、きっとあったのだと思います(笑)
by リンさん (2013-11-25 18:02) 

リンさん

<さぎしなのてるりんさん>
ありがとうございます。
きっと母親や兄たちが反面教師になっているのかと…^^
by リンさん (2013-11-25 18:03) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
オオカミが3匹いたら…それこそこわいですよぉ~^^
あとから復讐に来たりしてね^^
by リンさん (2013-11-25 18:05) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
そうですね。珍しくブラックでした。
だけど娘が小さいころ読み聞かせをした「3匹のこぶた」は、けっこう怖かったんですよ。
最後はオオカミを鍋で煮て食べちゃうんです。
原作はわりと怖いみたいです^^
by リンさん (2013-11-25 18:07) 

リンさん

<麻乃あぐりさん>
ありがとうございます。
こういう童話は、いつも末っ子が助かるんですよね。
きっといちばん要領がいいんでしょうね。
実際はこんなふうだったかもしれませんよ^^
by リンさん (2013-11-25 18:09) 

海野久実

そうですね。
豚は黒豚がおいしいですよね。
調理法はポークチャップかな。
え?
そういう話じゃない?

「本当は怖いグリム童話」とかいろいろ出てますけどそんな感じがします。
一般的な三匹の子豚よりも、りんさんのこちらのお話の方が元祖っぽいですね。

僕は童話をパロディーにするときは時代設定を現代に持ってこない方が好みです。
そういう意味でもこれはベストです。
by 海野久実 (2013-11-26 17:18) 

リンさん

<海野久実さん>
豚は黒豚^^ 腹黒い豚はどうかしら(笑)

そうなんですよ。原作は意外と残酷なんですよね。
グリムなんて、絶対子供向きじゃないですもんね。
ありがとうございます^^
by リンさん (2013-11-28 17:51) 

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