砂時計 [ファンタジー]
カップ麺にお湯を注いで、君は砂時計をひっくり返した。
砂時計が落ちるまでの3分間、僕たちに会話はない。
「少し痩せたね」
僕が言っても、君は返事をしない。
まっすぐに落ちる砂を見つめて「時が過ぎるのは早いわ」と、ひとりごとのようにつぶやいた。
砂が全部落ちると、君はもう一度砂時計をひっくり返した。
「時間が戻ればいいのに」
涙ぐみながらラーメンを食べるから、少しもおいしそうに見えない。
「時間は戻せないよ」
僕の声は、君には届かない。
なぜなら僕は、もうこの世にいないから。
君と僕は、結婚式の打ち合わせに行く途中事故に遭った。
交差点で信号無視の車が突っ込んできた。
運転席側に突っ込んだから、助手席にいた君は軽い怪我で済んだ。
せめてもの救いだ。
結婚を控えて新居を借りて、一緒に暮らし始めて1か月。
籍を入れてないから、君はバツイチにならずに済んだ。
それもせめてもの救いだ。
暗い闇をさまよって、気付いたら僕はここにいた。
君は、砂時計を何度も何度もひっくり返した。
砂が全部落ちる前に、時間を戻すように逆さにする。
君の悲しみを、この砂が埋めてくれたらどんなにいいだろう。
君はふと思い出したように水色の紙袋を取り出した。
中にはきれいな箱。開けるとそこに、僕たちの結婚指輪が並んで光っていた。
ふたりで取りに行こうと言っていたのに、ひとりで行かせてしまったね。
どんなに辛かっただろう。
君は指輪を薬指に嵌めて、太陽の光にかざした。
泣きそうな顔でしばらく指輪を見ていたが、思い立ったように上着をはおり、指輪の箱を持って外へ出た。
いったいどこへ行くのだろう。
僕は、ふわりふわりと君のあとをついて行った。
病院だった。
君はぎこちない笑顔を無理して作って、病室のドアを開けた。
「いい加減に目を覚ましてよ」
君の視線の先には、包帯だらけの僕がいた。
意識をなくして眠っている。僕は死んでいなかった。
君は指輪を取り出して、僕の指に滑らせた。
「戻ってきてくれなきゃ困るわ。もう指輪の交換もしちゃったんだから」
君の涙が、僕の指を濡らした。
さっきまで、何も感じなかった指先に、感覚が戻った。
離れていた僕の意識が、身体に戻っていく。
君の温もりが伝わってきた。ためしに君の手を、握り返してみる。
君は驚いて僕の顔を見た。ゆっくりと目を開けてみた。
君は泣きながら、何度も僕の名を呼んだ。
戻ってみると、体中が痛かった。頭も背中も肩も痛い。
僕は生きている。痛みさえも愛おしい。
命の砂時計を、君が進めてくれた。
途切れないように、繰り返し繰り返し、君は僕を愛してくれた。
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砂時計が落ちるまでの3分間、僕たちに会話はない。
「少し痩せたね」
僕が言っても、君は返事をしない。
まっすぐに落ちる砂を見つめて「時が過ぎるのは早いわ」と、ひとりごとのようにつぶやいた。
砂が全部落ちると、君はもう一度砂時計をひっくり返した。
「時間が戻ればいいのに」
涙ぐみながらラーメンを食べるから、少しもおいしそうに見えない。
「時間は戻せないよ」
僕の声は、君には届かない。
なぜなら僕は、もうこの世にいないから。
君と僕は、結婚式の打ち合わせに行く途中事故に遭った。
交差点で信号無視の車が突っ込んできた。
運転席側に突っ込んだから、助手席にいた君は軽い怪我で済んだ。
せめてもの救いだ。
結婚を控えて新居を借りて、一緒に暮らし始めて1か月。
籍を入れてないから、君はバツイチにならずに済んだ。
それもせめてもの救いだ。
暗い闇をさまよって、気付いたら僕はここにいた。
君は、砂時計を何度も何度もひっくり返した。
砂が全部落ちる前に、時間を戻すように逆さにする。
君の悲しみを、この砂が埋めてくれたらどんなにいいだろう。
君はふと思い出したように水色の紙袋を取り出した。
中にはきれいな箱。開けるとそこに、僕たちの結婚指輪が並んで光っていた。
ふたりで取りに行こうと言っていたのに、ひとりで行かせてしまったね。
どんなに辛かっただろう。
君は指輪を薬指に嵌めて、太陽の光にかざした。
泣きそうな顔でしばらく指輪を見ていたが、思い立ったように上着をはおり、指輪の箱を持って外へ出た。
いったいどこへ行くのだろう。
僕は、ふわりふわりと君のあとをついて行った。
病院だった。
君はぎこちない笑顔を無理して作って、病室のドアを開けた。
「いい加減に目を覚ましてよ」
君の視線の先には、包帯だらけの僕がいた。
意識をなくして眠っている。僕は死んでいなかった。
君は指輪を取り出して、僕の指に滑らせた。
「戻ってきてくれなきゃ困るわ。もう指輪の交換もしちゃったんだから」
君の涙が、僕の指を濡らした。
さっきまで、何も感じなかった指先に、感覚が戻った。
離れていた僕の意識が、身体に戻っていく。
君の温もりが伝わってきた。ためしに君の手を、握り返してみる。
君は驚いて僕の顔を見た。ゆっくりと目を開けてみた。
君は泣きながら、何度も僕の名を呼んだ。
戻ってみると、体中が痛かった。頭も背中も肩も痛い。
僕は生きている。痛みさえも愛おしい。
命の砂時計を、君が進めてくれた。
途切れないように、繰り返し繰り返し、君は僕を愛してくれた。
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2013-12-03 23:44
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コメント(14)
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ちょっとちょっと、ちょっと~
これってすごくいいですね。
僕はいいお話を読むと、背筋がぞくぞくッとするんです。
「戦慄が走る」って言うでしょ。
あの戦慄と言う物だと思っているんですが、久しぶりにそれを感じました。
それと同時にうるうるっと泣きそうになりました。
ぞうぞくとうるうるがごちゃまぜでわけわからないぐらい感動しました。
お話の持って行き方や言葉の選び方も完成度が高いですしね。
すごいなー
よくあるお話のパターンではあるんですが、それをここまで素敵なお話しに出来ちゃうりんさんはやっぱりすごいな~
良いお話、ありがとうございました。
by 海野久実 (2013-12-04 01:03)
海野さんのいうとおりです。
すっごくいい話です。
奇をてらったわけではない、実に素直なストーリーですが、素直に感動しました。こういうひねらない話を、自然に読ませる、りんさんの筆力のなせるワザですね。
by 雫石鉄也 (2013-12-04 13:30)
涙腺弱いので涙が出てしまった。泣かさなんでよぉ、りんさん。ショ-トスト-リ-のだいご味のような砂時計設定。
by さきしなのてるりん (2013-12-04 18:14)
こんばんは、リンさん♪
とっても感動的で素敵なショートストーリーですね!
良い意味で予定調和で終焉を迎える感じに、
心があたたかなりました。とてもよかったです♪
二人の将来の明るさも感じられて、
ほんとに読後の良い作品ですね♪
by 麻乃あぐり (2013-12-04 22:52)
ぐおー・・・(T_T)
なんですかこれは。
泣けちゃうじゃないですか。
妻にセカンドラブの私にとってはこんなになったら・・・
思わず入り込んじゃいました。
また呼び込んでください。
by こっちゃん (2013-12-05 21:21)
言葉はいらない感じです。
愛する気持が強ければ神様に通じるのですねきっと。
不覚にもホロリ.....
by dan (2013-12-06 14:47)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
3分で落ちてしまう砂時計で、このテーマはどうかな…と少し迷いがありました。
でも海野さんに、こんな素敵なコメントもらえて嬉しいです。
これでよかったんだと思えました。
ホントにありがとうございます。
by リンさん (2013-12-06 18:08)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
最初は「君」ではなく、「彼女」で書いていたんですが、「君」と語りかけるように書き直しました。
どうやらそちらの方がよかったみたいです。
お褒めいただいて、本当にありがとうございます^^
by リンさん (2013-12-06 18:11)
<さぎしなのてるりんさん>
あ、泣いちゃいました?^^
いやあ、私の話で泣いてくれるなんて嬉しいですよ。
次回は…笑えます、たぶん…。
by リンさん (2013-12-06 18:14)
<麻乃あぐりさん>
ありがとうございます。
どうしても彼が死んで終わりにしたくなかったので^^
きっと大怪我をした彼は、これからも大変だと思いますが、彼女の愛で乗り切って欲しいですね。
by リンさん (2013-12-06 18:20)
<こっちゃんさん>
ありがとうございます。
ブログ復活おめでとうございます^^
妻とセカンドラブ?
まあ、なんて素敵なんでしょう^^
またお呼びしますね。
by リンさん (2013-12-06 18:23)
<danさん>
ありがとうございます。
そうですね。きっと神様が、彼女のところに彼の魂を送り込んでくれたんですね。
おかげで元に戻れたんだと思います^^
by リンさん (2013-12-06 18:27)
リンさんさん こんばんは
感動のストーリーです。映画にも出来そうです。みんなが見てくれるのではないでしょうか。
by SORI (2013-12-06 20:09)
<SORIさん>
ありがとうございます。
映画になったら嬉しいですね。ぜったいないけど^^
by リンさん (2013-12-09 17:35)