ケーキ屋の女房 [男と女ストーリー]
いらっしゃいませ。
クリスマスケーキのご予約ね。 いつもありがとうございます。
美味しいでしょ、うちのケーキ。
主人は世界一のケーキ職人よ。
でもね、この店を始めた頃は、全然客が来なかったのよ。
腕はいいけど、商売が下手だったのかしらね。
どうして繁盛したか知りたい? ふふ、わたしが嫁に来たからよ。
出会いは15年前のクリスマス。
その時わたし、恋人と別れたばかりでね「クリスマスなんて大嫌い、怪獣が現れて幸せなカップルを踏みつぶしてしまえ」って本気で思っていたわ。
残業するのも虚しくて、浮かれる街に毒づきながら帰ったの。
そうしたらね、どこからか、か細い声が聞こえるのよ。
「…ケーキはいかがですか」ってね。
見ると店先でケーキを売ってる貧相な男がいたの。
ケーキの箱が15個くらいあったかな。青白い顔で売っても、誰も買わないわよね。
「いらないわ」ってわたしも言ったの。
「家に帰ってもひとりなの。こんな大きいケーキ買っても食べきれないわ」
わたしがそう言ったら、男はなぜか急に笑顔になったの。
そして珍しく大きな声で言ったのよ。
「じゃあ、あなたは今ヒマなんですね」って。
無神経でしょ。さすがに頭に来たけど、男はその後すがるような目で言ったの。
「少しのあいだ店番していただけませんか。さっきからトイレ我慢してて…」
わたしの返事も聞かずに、男は店の中に駆け込んだわ。
仕方ないから、とりあえず叫んだの。
「ケーキはいかがですか。クリスマスケーキ、ラスト15個!」
何やってるんだろう…って思いながらやけになって叫んでた。
そうしたら、3人が立ち止まったの。
「あら、買っていこうかしら」「予約忘れたの。ちょうどよかった」「孫に買って行こう」
それを皮切りに、次々お客が来たの。
ケーキはあっという間に売れて、男が戻って来た時には残り1個になっていたわ。
男はすごく驚いて感激してたわ。
「ありがとうございます。あなた、すごい人ですね。最後の1個、持って帰って下さい」
「だからいらないわよ。帰ってもひとりなの。何度も言わせないでよ」
「じゃあ、一緒に食べましょう。今コーヒーいれますから」
まあそんなわけで、店の奥で男と一緒にケーキを食べたんだけど、これがまあビックリするほど美味しかったの。
それから店に通うようになって、たまに売るのを手伝ってあげたの。
わたしの方が商売上手だったから、わたしが店に立った日はよく売れたわ。
しばらくして、彼が言ったの。
「僕と一緒に、この店を大きくしましょう。あなたが必要なんです」
プロポーズよ。もちろんOKしたわ。
ふふ、でもね、後から聞いたんだけど、あれはプロポーズじゃなくて、ヘッドハンティングだったそうよ。
まあ、わたしも彼よりケーキ目当てみたいなところがあったし、どっちもどっちね。
結婚して15年。お客も増えたけど、わたしの体重も増えたわ。
まあ、幸せだからいいんだけどね。
あら、また余計なおしゃべりしちゃったわね。ごめんなさい。
じゃあ、イブの夜に、とびきり美味しいケーキをご用意するわね。
ありがとうございました。
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クリスマスケーキのご予約ね。 いつもありがとうございます。
美味しいでしょ、うちのケーキ。
主人は世界一のケーキ職人よ。
でもね、この店を始めた頃は、全然客が来なかったのよ。
腕はいいけど、商売が下手だったのかしらね。
どうして繁盛したか知りたい? ふふ、わたしが嫁に来たからよ。
出会いは15年前のクリスマス。
その時わたし、恋人と別れたばかりでね「クリスマスなんて大嫌い、怪獣が現れて幸せなカップルを踏みつぶしてしまえ」って本気で思っていたわ。
残業するのも虚しくて、浮かれる街に毒づきながら帰ったの。
そうしたらね、どこからか、か細い声が聞こえるのよ。
「…ケーキはいかがですか」ってね。
見ると店先でケーキを売ってる貧相な男がいたの。
ケーキの箱が15個くらいあったかな。青白い顔で売っても、誰も買わないわよね。
「いらないわ」ってわたしも言ったの。
「家に帰ってもひとりなの。こんな大きいケーキ買っても食べきれないわ」
わたしがそう言ったら、男はなぜか急に笑顔になったの。
そして珍しく大きな声で言ったのよ。
「じゃあ、あなたは今ヒマなんですね」って。
無神経でしょ。さすがに頭に来たけど、男はその後すがるような目で言ったの。
「少しのあいだ店番していただけませんか。さっきからトイレ我慢してて…」
わたしの返事も聞かずに、男は店の中に駆け込んだわ。
仕方ないから、とりあえず叫んだの。
「ケーキはいかがですか。クリスマスケーキ、ラスト15個!」
何やってるんだろう…って思いながらやけになって叫んでた。
そうしたら、3人が立ち止まったの。
「あら、買っていこうかしら」「予約忘れたの。ちょうどよかった」「孫に買って行こう」
それを皮切りに、次々お客が来たの。
ケーキはあっという間に売れて、男が戻って来た時には残り1個になっていたわ。
男はすごく驚いて感激してたわ。
「ありがとうございます。あなた、すごい人ですね。最後の1個、持って帰って下さい」
「だからいらないわよ。帰ってもひとりなの。何度も言わせないでよ」
「じゃあ、一緒に食べましょう。今コーヒーいれますから」
まあそんなわけで、店の奥で男と一緒にケーキを食べたんだけど、これがまあビックリするほど美味しかったの。
それから店に通うようになって、たまに売るのを手伝ってあげたの。
わたしの方が商売上手だったから、わたしが店に立った日はよく売れたわ。
しばらくして、彼が言ったの。
「僕と一緒に、この店を大きくしましょう。あなたが必要なんです」
プロポーズよ。もちろんOKしたわ。
ふふ、でもね、後から聞いたんだけど、あれはプロポーズじゃなくて、ヘッドハンティングだったそうよ。
まあ、わたしも彼よりケーキ目当てみたいなところがあったし、どっちもどっちね。
結婚して15年。お客も増えたけど、わたしの体重も増えたわ。
まあ、幸せだからいいんだけどね。
あら、また余計なおしゃべりしちゃったわね。ごめんなさい。
じゃあ、イブの夜に、とびきり美味しいケーキをご用意するわね。
ありがとうございました。
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2013-11-28 18:06
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コメント(12)
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買う買う!ケーキより大福好きなんだけど、このおばちゃん気に入った!
by さきしなのてるりん (2013-11-28 20:40)
わたしもこの とびきり美味しいケーキを
食べたいな^^
なんか幸せになれそう♪
by みかん (2013-11-28 22:38)
甘いケーキが結びつけた素敵な恋物語で終わって欲しいという気持ちもありましたけれど、なんかこう言う少々現実的な終わり方もそれはそれでいい物ですね。
ケーキを食べてふっくらしたケーキ屋の女房になっちゃった主人公。
ケーキ屋さんの店頭に二人で並んでいる幸せそうなおっちゃんとおばちゃんが見えます。
by 海野久実 (2013-11-29 21:46)
素敵な出会いでベストカップル(夫婦)ですね(*^_^*)
>「僕と一緒に、この店を大きくしましょう。あなたが必要なんです」
>プロポーズよ。もちろんOKしたわ。
>ふふ、でもね、後から聞いたんだけど、あれはプロポーズじゃなくて、ヘッドハンティングだったそうよ。
これは笑えますね(*^o^*)
by なつかえで (2013-11-30 09:10)
お久しぶりです。m(__)m
いつものまとめ読み・・・
そして最優秀賞おめでとうございます。(^O^)/
やっとまともな評価がされましたね。
俺の中ではリンさんの作品が一番楽しんで読めるもん。
これからも期待しています。
by こっちゃん (2013-12-01 12:33)
小さなケーキ屋さんのサクセスストリー?
ちょっと大げさかしら。
でも何だか微笑ましいお話しで好きです。
by dan (2013-12-03 17:13)
<さぎしなのてるりんさん>
お買い上げありがとうございます^^
大福もいいけど、ケーキもね(笑)
by リンさん (2013-12-03 23:16)
<みかんさん>
美味しいケーキって幸せになりますよね^^
私も食べた~い^^
by リンさん (2013-12-03 23:18)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
ロマンチックじゃないけど、結婚の決めてって案外こういうものかも^^
美味しいケーキでふくよかになった奥さん、幸せですね^^
by リンさん (2013-12-03 23:21)
<なつかえでさん>
ありがとうございます。
ベストカップルですね。
プロポーズと勘違いされながらも、「まあいいか」って結婚しちゃたんですね。
きっと好きだったんでしょうね^^
今日Lアルバム届きました^^
なつかえでさんも、きっと聴いてるんでしょうね^^
by リンさん (2013-12-03 23:27)
<こっちゃんさん>
まとめ読み、ありがとうございます。
最優秀、みなさんに祝福していただいて、本当に嬉しいです。
これからも頑張ります。
by リンさん (2013-12-03 23:29)
<danさん>
ありがとうございます。
きっと彼だけだったら、お店はつぶれていたかもしれませんね。
明るい奥さんと腕のいい職人。
いいコンビですね^^
by リンさん (2013-12-03 23:31)