かぐや姫をさがして

今、ネットで話題になっていること。
『かぐや姫はいる』

かぐや姫は、あの美貌を保ったまま、千年の時を経てもなお生き続けているという伝説。
『○○で、かぐや姫らしき人を見た』
『ひいおじいちゃんが昔、かぐや姫と暮らしていた』
ネットの書き込みは白熱して、かぐや姫伝説は今いちばんの話題になった。

そこに参戦してきたのが大手芸能事務所だ。
『かぐや姫を見つけて連れて来たら、賞金１０００万円』
という広告を打ち出した。

「かぐや姫なんて、ただの都市伝説だろ」
居酒屋でも、やはりその話題で盛り上がる。
「だいたいさ、美人っていっても平安美女でしょ。今と基準違うよね」
「おかめみたいな顔だったらマジがっかり」
「でもさ、賞金１０００万は、ちょっと魅力だよね」
僕は、黙って頷いた。

「ただいま」
「遅かったですね」
「うん。工場の仲間と飲んでた」
「そう…」
彼女は青白い顔をしていた。
ああ、そうか。今夜は月が出ていないからか。

僕と一緒に暮らしている彼女こそが、実はかぐや姫だ。
１年まえの満月の夜、僕たちは出逢った。
その日僕は母の葬儀を終えて、ひとりで夜道を歩いていた。
竹やぶが続く道で、僕はふと立ち止まった。ぼんやりと小さな明かりが見えたからだ。
竹やぶに入ってみると、竹の中に身を隠すように女がうずくまっていた。
わずかに届く月明かりに照らされた女は、息をのむほど美しかった。

それがかぐや姫だ。
かぐや姫は待っていた。竹取の翁のように無償の愛を注いでくれる相手を。
これまでそんなふうに、無欲で優しい男に守られながら暮らしてきた。
かぐや姫はこれ以上年をとらない。月がなくならない限り、美しいまま生き続ける。
だから守ってくれる男が死ぬと、こうして竹やぶで次の男を待っていた。
彼女を守ってくれる男にだけ、竹やぶが光って見えるという。

そうして僕たちは暮らし始めた。
僕には家族はいない。子供の頃に死んだ父親がギャンブル好きで苦労をしたから、僕は地道に生きようと決めていた。
真面目に働いて、多くを望まず生きてきた。
かぐや姫のことは、何があっても一生をかけて守ろうと決めていた。
あの、賞金の話が出るまでは…。

「ネットのことは気にすることないよ」
「ええ。いままでこんなことはありませんでした。住みづらい世の中ですね」
僕はそっとかぐや姫を抱きしめた。
賞金は欲しい。だけどかぐや姫の方が大切だ。
「守るよ」とささやいた。

ある朝、ワイドショーを見て愕然とした。
「きのう、かぐや姫を見つけたという男性が現れました。男性の情報は極めて有力で、○○プロダクションが検証し、本物だったら約束通り賞金を支払うとのことです」
何ということだ。テレビ局が入手した写真は、かぐや姫とは似ても似つかない。

「何だこれ！なんでこいつが１０００万もらうんだよ！でたらめじゃないか。１０００万をもらえるのは、本当は僕だ！１０００万は僕の物だ」
つい口に出して、自分の言葉にはっとした。
ふり向くと、かぐや姫が悲しい顔で僕を見ていた。
「その昔、金と権力にものをいわせた男たちが、私に求婚してきました。うんざりなのです。そういうものを欲しがらないあなたが、私は本当に好きでした」

数日後の満月の夜、かぐや姫はいなくなった。
賞金などに心が揺れない、本当に無欲で優しい男に出逢うために、どこかの竹やぶで身を潜めている。
僕はあれから何年も何年も、かぐや姫を捜している。
ネットの騒動が収まり、誰もかぐや姫のことを口にしなくなった今でさえ、僕は心から、かぐや姫を求めている。

誰か、かぐや姫を知りませんか？




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コメント 16

リンさんさん こんにちは
かぐや姫が生き続けている素敵な話です。芸能事務所も罪なことをしました。男性が可哀そう。
by SORI (2014-11-08 16:30) 

面白くて一気呵成に読み進んでしまいやした。
やっぱり無欲な人間っていないのかもね・・・・
かぐや姫、現代基準でも美人だったんでやすね。
平安美人じゃなくてなんか良かった（◎o◎）b
by ぼんぼちぼちぼち (2014-11-08 18:55) 

かぐや姫の孤高な気高さは近寄りがたい青。地球が宇宙から見ると青いけど青の素が違うから人間に気高さに欠けるのかな。
by さきしなのてるりん (2014-11-09 09:45) 

いつものりんさんの世界。
面白く読ませていただきました。

少々疑問を感じたところを書いてみます。
＞彼女を守ってくれる男にだけ、竹やぶが光って見えるという。
主人公はどうして初めの出会いの時に光って見えたんでしょうね。
結局最後まで無欲なままで、守ってくれる人間じゃなかったのに。
かぐや姫を失った今こそ、主人公はもう一度かぐや姫に会えたら死ぬまで守ると決心しているでしょうから、もう一度竹藪が光って見える事を祈ります。

ワイドショーの報道で、かぐや姫が現れ、まだ本物のかぐや姫だと認定されたわけでもないのに主人公の心変わりが早急すぎるような気もします。
偽物なんですから化けの皮がはがれるはず。
それがばれずに本物だと認定されて実際に賞金が支払われることになって初めて主人公の心が揺れると言うのが本当のような気がします。
＞賞金は欲しい。だけどかぐや姫の方が大切だ。
と一度決心をしているのですから。

とてもすてきなお話なので、そんな疑問を感じずに最後まで読み終わりたいと言うのが読者としての希望です。
なんてねー

ところで、小説虎の穴、佳作おめでとうございます。


by 海野久実 (2014-11-09 15:05) 

しかし、このかぐや姫、やっぱり今時の方やおまへんな。
無欲で優しい男性って、男には要求してるけど、自分はどうしてる。なにかで稼いでるのかな。
自分では一銭も稼がずに、無欲な男をお望み。では、かぐや姫は何を食ってる。かすみでも食べてるのかな。で、男が1000万欲しがることさえゆるさない。平安時代ではないんですよ。このせちがらい平成の御世に無欲で生きていけると思ってるんですか。やっぱ、彼女はお姫様ですね。私なら、いくらべっぴんでもこんな女はいりません。
芸能界にはいって、バリバリ稼いで、優しくしてくれた男にいい目を見させてあげようとはおもわないんですかねえ。
by 雫石鉄也 (2014-11-10 14:33) 

お久しぶりです。
ゆっくり復帰しています。
これからもよろしくお願いいたします。m(__)m

by こっちゃん (2014-11-10 20:18) 

かぐや姫のお話ですが・・・

「僕には家族はいない。・・・・・・僕は地道に生きようと決めていた。真面目に働いて、多くを望まず生きてきた。」
私は、そんな主人公に惹かれました(*^_^*)

つい1000万円に目がくらんだのですね(´･_･`)

by なつかえで (2014-11-11 16:50) 

リンさんお得意の名作パロディー面白く読ませて
いただきました。
いつものように現代の世相をバックに美しいかぐや姫と
優しい男のお話。この健気な男も1000万には目がくらんだ
のですね。かぐや姫はまた竹藪で男を待なんて....
もっと強い女性になって自立すればいいのに。
by dan (2014-11-12 10:07) 

＜SORIさん＞
ありがとうございます。
かぐや姫の扱い、ツチノコみたいですね。
ホントに彼は可哀想でした。
by リンさん (2014-11-12 12:35) 

＜ぼんぼちぼちぼちさん＞
ありがとうございます。
そうですね。無欲な人でも、目の前に大金があると変わってしまうのかも。
かぐや姫は、今も昔も美しいでしょう。たぶん＾＾
by リンさん (2014-11-12 12:37) 

＜さぎしなのてるりんさん＞
ありがとうございます。
そうですか。高貴な色は青ですか。
地球人も、もっと気高くならないといけませんね。
by リンさん (2014-11-12 12:39) 

＜海野久実さん＞
ありがとうございます。
この彼は、本当はとても無欲な人なのでしょう。
面白半分に賞金を懸けた芸能事務所のせいですね。
地道に生きていた人が、宝くじを当てて人が変わったようになってしまう、みたいなものでしょうか。
そのことばかり考えていたから、つい口走ってしまったんでしょうね。
この話には。「口は災いのもと」という教訓が入っていたのです。
（後付けだよ～）
by リンさん (2014-11-12 12:44) 

＜雫石鉄也さん＞
面白いコメントありがとうございます。
でもね、だんな、かぐや姫を働かせちゃいけませんぜ。
かぐや姫は宇宙人ですからね、邪険に扱うと宇宙戦争になりかねませんぜ。
…というわけで、雫石さん家の近くの竹藪が光ったら、無償の愛を注いであげてください（笑）
by リンさん (2014-11-12 12:51) 

＜こっちゃんさん＞
ありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いします。
ぼちぼち更新していってくださいね。
by リンさん (2014-11-12 12:52) 

＜なつかえでさん＞
ありがとうございます。
せっかく地道に生きていたのに、残念のひと言ですね。

ところで、そちらは関西ですよね。
テレビ東京で、TOKYOライブっていう番組やってるんですが、剛くんがＭＣやってるんです（毎週じゃないけど）
生放送なので、彼の人柄がよく見えていいですよ。
なつかえでさんのところでは映らないよね？
何かで見られたらいいんだけど。
by リンさん (2014-11-12 12:59) 

＜danさん＞
ありがとうございます。
名作パロディ、久しぶりに書きました。
喜んでいただけてよかった＾＾
＞かぐや姫も自立すれば…そうですね＾＾
でも美しすぎると嫉妬やらいろいろありますから。
世知辛い世の中ですね＾＾
by リンさん (2014-11-12 13:10)