１１月のキューピット

１１月は日暮れが早い。そのせいか、妙に人恋しい。
恋人にひどい振られ方をして３年。そろそろ新しい恋をしよう。
そう思って夕暮れの街に繰り出したら、さっそく男が声をかけてきた。

「すみません。推測によるとあなたは、性別は女性、推定年齢２６歳、彼氏いない歴３年と見ましたがいかがでしょう？」
「そ、その通りだけど、いったい何？」
「実はボク、恋のキューピットです。あなたの恋人を探してあげましょう」
「ほんと？」
「はい。今年中に１０００ポイント貯めたいので、ぜひターゲットになって下さい」
「ポイント？」
「ターゲットが恋人同士になったら１０ポイント、その人が結婚相手だったら１００ポイント。１０００ポイント貯めたら、人間になれるんです。ボクのポイント、今９００ポイント。あと１００ポイントで目標達成です」
「人間になりたいの？キューピットの方がいいじゃない」
「人間になって恋をしてみたいんです、ボク」
「なるほどね」

キューピットは、ハート型のピンクの矢を差し出した。
「これで好みの男性のハートを打って下さい。あなたと縁があれば必ず誘ってきます」
そう言われて私は、スクランブル交差点を歩くたくさんの人の中から、好みの男性に矢を放った。
しかし男性は知らん顔で通り過ぎた。
「彼とは縁がないようです。次いきましょう」
「じゃあ、あの人。すごく高そうなスーツ着てるわ」
矢を放ったけれど、彼も知らん顔で通り過ぎた。
ギターを背負ったイケメン、爽やかなスポーツマンタイプ、好みの男に次々矢を放ったけれど、誰一人私のところに来てくれない。

「こんなに男が歩いているのに、どういうこと？」
「ご縁がないんですね。ところで、好きな人はいないんですか？」
「気になる人はいるけど、彼はダメ。恋人がいるもの」
「かまいませんよ。その人が運命の人ならば、恋人と別れてあなたのものになりますよ」
「そうなの？」
「はい。じつはボク、３年前にもターゲットの恋を成就させるために、婚約寸前の恋人同士を別れさせたことがありますよ」
「そんなことしちゃダメよ。私、３年前に婚約寸前だった恋人を親友に奪われたの。すごく辛かったわ。だから…ん？」
「３年前？　では、あなたはあのときの…」
「あんたのせいだったのね」
「彼は運命の人ではなかったんですよ。結婚しても上手くいきませんでしたよ」
「ゆるせない！ムカつく！」

私は思わず、持っていた矢でキューピットの胸を突き刺した。
「な、何するんですか…」
キューピットは、その場にぱたりと倒れた。
「え？うそ。死んじゃったの？キューピットって死ぬの？」
背中をゆすってみたら、キューピットがガバっと起き上がった。
そして私の手をしっかりと握って言った。
「あなたこそ運命の人です。結婚してください」
「はい？」
「あなたの矢が刺さったとたんに、ボク、ポイントが貯まって人間になったみたいです」
「ポイントが貯まった？１００ポイント…ってことは、あなたが私の結婚相手？」
「そういうことみたいです」
あら…何だか不思議。
この人、よく見たらめちゃくちゃタイプだわ。




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コメント 10

リンさんさん　こんばんは
キューピットと結婚する予感がしていました。キューピットの保証つきですから、一生幸せな生活を送るのでしょうね。羨ましい
by SORI (2014-11-05 18:36) 

予想できましたね。矢が刺さった相手がキュウピットでもポイントたまるのか(笑)。それにしてもタイプでよかった。
by さきしなのてるりん (2014-11-06 16:09) 

そうですね。
第一節（？）を読み終わった時点で結末の予想が付きました。
これをオチがバレバレじゃん、なんて言ってはいけないのです。
その結末に至るまでのりんさん一流の楽しいやり取りを満喫するのが正しい読み方です。
なんてね。

結末が判っているのに最後まで興味深く見てしまうものに怪奇番組の再現VTRがありますね。
例えば画面にずっと「息子に会いに来た母親の生霊（いきりょう）」と言う文字が出たままでお話が進行する。
あ、この人はお母さんの生霊なんだなあ、なんて思いながら興味を失わずに見ることが出来る。
お決まりの童話でも、その描写の仕方で結末が判っていても読むことが出来る。
それが理想かもしれませんね。
by 海野久実 (2014-11-06 17:40) 

お久しぶりです(´∇｀)
りんさん。
やっと、ガラケーから、りんさんの頁に来れました。
スマホの調子が悪く、なかなか来れなかったのです。(泣。


私も、こんなキューピッドと出逢いたいです。
ラストの落ちが好きです。
遅くなりましたが、いつかの虎では、最優秀賞おめでとうございます。
そして、第25回佳作では憧れのりんさんと一緒に名前が掲載されて、嬉しかった華月です(*´∀`)♪



by 華月麗唖 (2014-11-06 20:50) 

世の中にいくらポイントが溢れているといっても
キューピットの世界にまで及んでいるとは....
人間になりたいキューピットといい、いかにもリンさん
らしい発想でただただ感心するのみです。
とても面白かったです。
by dan (2014-11-07 13:33) 

＜SORIさん＞
ありがとうございます。
運命の矢に導かれたふたりですから、きっと幸せになるでしょう＾＾
by リンさん (2014-11-08 13:51) 

＜さぎしなのてるりんさん＞
予想できました？さすがてるりんさんですね＾＾
キューピットもまさかポイント貯めるのが自分だとは…！
by リンさん (2014-11-08 13:55) 

＜海野久実さん＞
ありがとうございます。
なるほど…やっぱり予想できたんですね＾＾
それでも楽しく読んでいただけて、嬉しかったです。
結末がわかっていても最後まで…
ああ、そういうのってありますよね。
最初から「どんでん返しがある」って言われると、構えちゃいますね。
by リンさん (2014-11-08 14:06) 

＜華月麗唖さん＞
お久しぶりです。
ありがとうございます。

私も虎の穴で、華月さんと名前が並んだ時は嬉しかったです。
これからもお互い頑張りましょうね＾＾
by リンさん (2014-11-08 14:08) 

＜danさん＞
そうですね。
私の財布もポイントカードだらけです（笑）
キューピットの世界にポイントがあっても不思議じゃない？
ありがとうございます。
by リンさん (2014-11-08 14:11)